あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

ベンチャー各社のおもしろい制度たち

サイバーエージェントの成功例等を踏まえ、多くの会社で、少し変わった名前の人事制度を導入している。

いや、制度の内容はそれほど奇抜ではないのだけれど、あえて名前を奇抜にすることで、従業員への定着を図ろうとしているのかもしれない。

 

ちなみにサイバーエージェントの、少し変わった名前の制度にはこんなのがある。

「ジギョつく」

年齢や入社年次は関係なく社員全員が参加可能な事業プランコンテスト。半年に一度、直接経営陣に新規事業の提案ができ、優勝者やアイディア賞を受賞したものは子会社の社長や事業責任者を任せることもある。

 

「あした会議」

取締役8名(CA8と呼ばれる)が中心となり、事業責任者や専門分野に精通した若手を選出し、サイバーエージェントの「あした(未来)」に繋がる新規事業を考える会議。

 

「休んでファイブ」

毎年、5日間の特別休暇が取得できる。

 

ではどんなものがあるのか、ということを調べてみたので、その一部を紹介してみようなお、調査は弊社のインターンのみんながやってくれて、まとめはスタッフの太田愛実さんがやってくれた。ありがとう。

 

 
Sansan株式会社 クラウド名刺管理サービス販売
  どにーちょ 平日の出勤日を土日に振り替えることができる。
  テランチ 社長(寺田氏)と社員数名でグループランチする。
  Know Me 「他部署」で「過去に飲んだことがない」人と「3人まで」で飲みに行ったら会社から一人につき3,000円を補助する。
株式会社ファンコミュニケーションズ 成功報酬型アドネットワーク
  F@N塾 ビジネスの最前線にいるキーマンを招いての社内セミナー、
  仕事人大賞 個人の成績以外でも、周りにいい影響を与えた人を半期に一回称賛するイベント。
ユナイテッド株式会社 アドテクノロジー事業
  金曜どうしよう? 毎月第3金曜日が全社員午後休となる。
  選ボード エンジニアが、自分に合うキーボードを自由に選び、会社が購入費用を支援する。
株式会社ビズリーチ インターネットを活用したサービス事業
  Hands Up! 3カ月に一度社内異動に応募できる。
  New Bamboo! すぐに始められる企画を1チーム3案持ち込む企画対決。実行可否について社長の南がその場で決裁し、決裁されたものは必ず実行される。
DeNA ゲーム、エンターテインメント、Eコマース
  シェイクハンズ制度 社員本人と他部署(受け入れ先部署)の本部長が合意すれば、現・所属部署の意向にかかわらず異動ができる。
  クロスジョブ制度 本人の希望で、業務時間の最大30%まで他部署の仕事を兼務することができる「社内副業」制度。
株式会社トライフォート パブリッシング、アライアンスアプリ、受託開発
  ジョブチェンジ制度 現在の職種から違う職種へ移りたいという希望がある社員に対して職種転換を認める。
フリービット株式会社 インターネット接続事業者へのインフラ等提供事業
  道真公の愛 社員が本を読むことを推奨し、月一万円を上限に書籍購入代金の半額を補助する書籍購入補助制度。
  道真公のヘルスケア 当社が法人契約をしているスポーツジムを格安で利用できる健康促進費用補助制度。
  マイタイム制度 社員のプライベートに合わせて勤務時間を変更できる。
株式会社ネクシィーズグループ エネルギー環境事業、電子メディア事業
  N1グランプリ 全国の成績優秀者を東京に集めて「N1グランプリ」と称し、3カ月に1度実施。
株式会社 PLAN-B デジタルマーケティング領域/SEO
  LOVE休 愛するパートナー(配偶者や恋人)の誕生日に特別休暇を取得できる。
株式会社アイスタイル 美容系総合ポータルサイト運営
  ハンズアップ制度 社員自らが組織横断の委員会を発足し、会社創り・改善活動をすることができる「committee challenge」や、グループ会社の垣根を越えて、フットサル・ゴルフ・華道などのサークルを発足することができる「部活動制度」などの制度。

もちろんこれ以外にもたくさんあるのだけれど、制度の名前だけでも変えてみると、利用が進むのかもしれない、と考えさせてくれる。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

ついついはまってしまう人事のワナ

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人事コンサルティングを20年以上続けてきている僕自身も、
ついついはまってしまう人事のワナがある。

 

それはクライアントの経営課題に対して、
既存の人事マネジメントのフレームを「無批判に」適用してしまうことだ。

 

先日もあるクライアントから相談されたとき、そのワナにはまりかけた。

「ミドルクラスが数人辞めたんですよ。去年導入した目標管理制度がイヤだって」

「イヤだっておっしゃった理由はどういうものだったんでしょう?」

「目標を立てることも、管理されることもイヤだ、ということでしたね。何を言ってるんだか、といった感じですね。辞めてくれてせいせいしましたよ」

 

そこで僕はつい「ではあらためて目標管理制度の趣旨をしっかり落とし込むための制度研修をしましょうか」と言いかけて、ふと口をつぐんだ。

 

そもそもこの会社に目標管理制度は合っていたのだろうか?

ミドルクラスが辞めたということは、制度か運用のミスマッチを示していないだろうか?

 

そんな思いが僕を少しの間黙らせた。

 

現在の制度は、昨年、クライアント社長の希望を踏まえて設計したものだ。

 

「PDCAをしっかりまわせる人材を育てたい。そのための手法としてはどういうものがあるか?」と相談された。

そこで業績管理手法の基本を示しながら、それを人事に落としこむための目標管理制度や、それをよりシンプルにしたOKR(Objectives & Key Results)などを紹介し、議論を進めた。

業績管理については、財務諸表のブレイクダウンやバランススコアカード、中長期のプロセス指標の具体化なども示しながら、そのビジネスに合致したKPI体系を構築した。

そして人事に落とし込む手法としては、よりプロセス面を重視したいというニーズにあわせて、比較的自由度の高い目標管理制度を導入した。

 

その結果離職者が生じたわけだが、この離職は適切なものだろうか?

 

つまり、社長が希望していた「PDCAをまわせる人材」になる気の無い、ミスマッチ人材が離職したのだろうか。

もしそうならこの離職は適切だ。

残る人材をとぎすませて成長のために集約していくための運用を進めればよい。

 

しかしもしこれが予兆だとしたら?

そもそもこのクライアントのビジネスに、PDCAをまわす、という概念はマッチしていただろうか。

そのように考えた僕は、疑問をそのまま社長にぶつけて議論をした。

Planした目標は期中に極端に変動してはいないか?

Doのための裁量はしっかりと与えられているか?

またその上で、Checkのためのガバナンスは効いているか?

最後に、改善のための前向きなActionとしてのフィードバックはされているか。

 

そうして現時点で見直すべき課題は、重要なことは裁量権とガバナンスのバランスにあると結論付けた。

その上で、若干の運用上の手直しをして、今年も目標管理制度を運用することになった。

 

動かしてみないとわからない制度がある。

そこで見えてきた課題に対して、しっかり批判的に見ていくことが、当初の目的を達成するための原動力になる。その批判が自己否定につながるとしても、そこから必ず成長することができるだろう。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)