あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

『女性活躍に向けた企業の戦略的対応』(労政時報2016年8月12日発行記事)

労政時報の3914号(2016年8月12日発行)に、こんな記事を書いた。

 

『女性活躍に向けた企業の戦略的対応』
――共働き時代において会社も個人も互いに自律的になるための視点と取り組み

WEB労政時報から見ることもできるけれど、こちらはそもそも労政時報を購読している人限定。

だからもう少し待っていただく必要があるのだけれど、ポイントは次のようなものだ。

 

  1. 育児休業や短時間勤務など、ライフイベント関連での人事のフレキシビリティは充実してきたが、働き方そのものが変化していく中では、ダイバーシティ」をタレントマネジメントの一環として考えることが求められている
  2. 男性中心型労働慣行によるメンバーシップ型雇用は、「無業の女性」標準家庭がなければ成立しない働き方であったため、共働き世帯が増え、限定的な働き方の社員がいる中では、その雇用形態を見直す必要が出てきている
  3. 今まで企業は「雇用」のフレキシビリティを高めてきたものの、これからの企業の成長を実現していくためには、自律的に活動でき、人々とのつながりの中で創造性を発揮できる人材を育成していかなければならず、そのためには「働き方」のフレキシビリティを拡大していかなければならない

 

章立ても掲載しておこう。

1.共働き世帯は2種類ある

2.ライフイベント対応は業績にどう影響するのか

3.フレキシビリティの単純な拡大はキャリアを阻害する

4.人事諸制度を有機的に変革できるかが第1のハードル

5.コア人材にもフレキシビリティを適用できるか

6.家庭生活の変化から読み取る「働かせ方」の変化

7.メンバーシップ型雇用のメリットとデメリット再確認

8.単純なジョブ型雇用は答にはならない

9.法規制と既存社風がジョブ型雇用のデメリットとなる

10.求められる職務が絞り込まれる時代

11.創造性と社会的知性を伸ばすための働き方

 

至急見てみたいという方は、是非労政時報の購読を。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

「決めようとしないのに決まる」経験がリーダーを壊す

組織のリーダーの要件はいろいろと言われているけれど、僕自身は「決めること」だと思っている。

なぜこういうことを言うかと言えば、リーダーの要件は「戦略を立てられること」だという人に出会ったからだ。

たとえば、ソフトバンクによるARM買収は、孫さんが七手先まで読み通せると自称する戦略性によるものだ、ということで、それはまあそれで納得性がある。

けれどももし孫さんが「決めること」ができない人だったら、買収は成立していないだろう。

 

可能性の話として言えば、「戦略を立てられること」は他人に任せられる。社内に優秀なメンバーがいれば、戦略の選択肢は増えるし、その中の優先順位もわかりやすくなるだろう。戦略コンサルタントという職業だってあるのだから、彼らに依頼するという手段もある。

 

けれども「決めること」だけは他人に任せられない。

だからこそ、リーダーは「決めること」ができなければいけない

 

けれども、なぜか多くの会社に「決めること」ができないリーダーがたくさんいる。

なぜだろう?と思っていたのだけれど、最近気づいたことがある。

決めることができないリーダーは、決めなくても決まってきたから、決める経験を積めなかったんだということ

そして、「決めようとしないことの方がものごとが決まる」という経験を積んできているということ。

 

早口言葉みたいで恐縮だけれど、マトリクスで描くとわかりやすいかもしれない。

 

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僕たちが常識的に考えるのは、このマトリクスの中央のところ。

決めようとして、決まる。

決めようとしないから、決まらない。

この二つの結果はいずれもわかりやすい。

このような結果だけだと、人は「決めようとするから決まるし、決めようとしなければ決まらない」というごく当たり前の学習をする。

だからこのタイプの経験を積んだ人は、「決めること」を重視するようになる。

 

しかし、組織の中は論理的に動いているわけではない。

頑張って決めようとしたけれど、それぞれの利害関係を乗り越えられずに決まらないことだってある。図で言うと左のマスだ。

このタイプの経験を繰り返すと、自分の意志だけでは物事が決まらないという学習をする。結果として社内政治を重視して、事前の根回しをしっかりするようになるかもしれない。

とはいえ、それでも決めようとする行動についての前向きさは失われることはない。

 

一番問題なのは、右のマスのような結果が起きることだ。

それも、組織によってはひんぱんに。

 

誰も決めようとしない。

けれども、会議が終わって誰も反対しなかったから、決まった。

 

このタイプの経験を繰り返すと、そもそも「決めること」を意味のないことだと感じるようになる。

決めようとしなくても、決まることは決まる。

そうして、決めることに意義を見出せない人たちを「育てて」しまうことになる。

 

このタイプの人達は、正しい戦略があれば誰も反対しないから自然に決まる、と考えてしまう。

この場合「正しい戦略」というのは、時によって先進的であったり、あるいはリスクテイクするものだったり、保守的だったり、リスク回避的だったりする。けれども、戦略そのものについての議論は深まらず、ただ、積極的な反対者がいないということによって決まる、消極的多数決によるものだ。

そして、消極的多数決で良い結果が生まれたのを僕は見たことがないのだけれど、皆さんはどうだろうか。

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)