あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

大廃業時代は投資ができない「PL脳」が原因

 Newspicksのアカデミアを通じて知り合った、シニフィアン株式会社代表の朝倉祐介さんの名著、ファイナンス思考を読んだ。

 

ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論

ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論

 

 

 詳細はぜひ読んでいただければと思うが、簡単に言えば、目先の売上や利益の最大化を目指す「PL脳」から、長期的戦略型の「ファイナンス思考」に成長しよう、という内容だ。

 

 この指摘は僕にとってもすごくしっくりくるものだった。

 

 特に現在、多くの中小企業が後継者不足で廃業せざるを得ない、まさにその理由だと感じたからだ。

 

 飲食店で考えてみればわかりやすい。

 たとえば大学そばの学生街に、昔ながらの定食屋がある。

 味はそこそこ。でも安くて量があっていつも学生やサラリーマンでにぎわっている。

 そうして多くの学生の記憶に残っているのだけれど、30年くらい営業してやがて廃業する。

 

 理由は後継者不足、ということなのだけれど、もし定食屋の店主が「PL脳」でなければ、解消できた問題だ。

 定食屋の店主は、ある程度売り上げが立った時点で投資をすべきだったのだ。

 

 繁盛していたのにたたまざるを得なくなった飲食店はたいてい、二つの投資を怠っている。

 

 第一の投資は、店舗や備品へのものだ。

 日に焼けて元の色がわからなくなった看板はまだ許せるかもしれない。

 けれども、シミが浮き出てきた暖簾をくぐりたいだろうか。

 ガタの来た椅子や角が剥げてきたテーブル。

 極めつけは、ぼろぼろになったメニュー類。

 外装だけでなく、内装や備品にまで考えてみれば、きれいに丁寧に使うだけではもたなくなる年数が必ずある。

 そしていつまでも繁盛店と言われる店は、それらについてすこしずつ改善をほどこしているのだ。

 

 そして第二の投資が一番難しい。それは人へのものだ。

 たとえば、ある程度仕事を覚えた時点から、日々の業務は同じことの繰り返しになる。

 そうならないように、従業員が気づいたちょっとした改善提案に対して、わずかでも良いのでインセンティブを設定したらどうだろう。

 あるいは飲食店の場合、離職率は高い。だから長く勤めてもらうための福利厚生を整えるというのはどうだろう。

 また、一定期間ごとに人が辞めることを前提として、人材育成をそれぞれの人の仕事として定め、人のフローを仕組み化したらどうだろう。

 そんな取り組みの中でやがて店を任せてゆける人材を発掘し、育成していけば、店主が老いを感じる前に店のリニューアルもできたかもしれない。

 

 しかし多くの飲食店では、日々の売上をあげ、利益を確保することにだけ意識を集中させる。浮いた利益の使い道は投資ではなく、消えてなくなってしまうものにまわしてしまう。

 

 人は誰しも年を取るし、いつまでも自分の会社にいてくれるわけでもない。だからこそ、人の流れがあることを前提として、企業は人に投資しなければいけない。

 

 人材についての「PL脳」もまた企業を成長させることがないからだ。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

ベンチャー各社のおもしろい制度たち

サイバーエージェントの成功例等を踏まえ、多くの会社で、少し変わった名前の人事制度を導入している。

いや、制度の内容はそれほど奇抜ではないのだけれど、あえて名前を奇抜にすることで、従業員への定着を図ろうとしているのかもしれない。

 

ちなみにサイバーエージェントの、少し変わった名前の制度にはこんなのがある。

「ジギョつく」

年齢や入社年次は関係なく社員全員が参加可能な事業プランコンテスト。半年に一度、直接経営陣に新規事業の提案ができ、優勝者やアイディア賞を受賞したものは子会社の社長や事業責任者を任せることもある。

 

「あした会議」

取締役8名(CA8と呼ばれる)が中心となり、事業責任者や専門分野に精通した若手を選出し、サイバーエージェントの「あした(未来)」に繋がる新規事業を考える会議。

 

「休んでファイブ」

毎年、5日間の特別休暇が取得できる。

 

ではどんなものがあるのか、ということを調べてみたので、その一部を紹介してみようなお、調査は弊社のインターンのみんながやってくれて、まとめはスタッフの太田愛実さんがやってくれた。ありがとう。

 

 
Sansan株式会社 クラウド名刺管理サービス販売
  どにーちょ 平日の出勤日を土日に振り替えることができる。
  テランチ 社長(寺田氏)と社員数名でグループランチする。
  Know Me 「他部署」で「過去に飲んだことがない」人と「3人まで」で飲みに行ったら会社から一人につき3,000円を補助する。
株式会社ファンコミュニケーションズ 成功報酬型アドネットワーク
  F@N塾 ビジネスの最前線にいるキーマンを招いての社内セミナー、
  仕事人大賞 個人の成績以外でも、周りにいい影響を与えた人を半期に一回称賛するイベント。
ユナイテッド株式会社 アドテクノロジー事業
  金曜どうしよう? 毎月第3金曜日が全社員午後休となる。
  選ボード エンジニアが、自分に合うキーボードを自由に選び、会社が購入費用を支援する。
株式会社ビズリーチ インターネットを活用したサービス事業
  Hands Up! 3カ月に一度社内異動に応募できる。
  New Bamboo! すぐに始められる企画を1チーム3案持ち込む企画対決。実行可否について社長の南がその場で決裁し、決裁されたものは必ず実行される。
DeNA ゲーム、エンターテインメント、Eコマース
  シェイクハンズ制度 社員本人と他部署(受け入れ先部署)の本部長が合意すれば、現・所属部署の意向にかかわらず異動ができる。
  クロスジョブ制度 本人の希望で、業務時間の最大30%まで他部署の仕事を兼務することができる「社内副業」制度。
株式会社トライフォート パブリッシング、アライアンスアプリ、受託開発
  ジョブチェンジ制度 現在の職種から違う職種へ移りたいという希望がある社員に対して職種転換を認める。
フリービット株式会社 インターネット接続事業者へのインフラ等提供事業
  道真公の愛 社員が本を読むことを推奨し、月一万円を上限に書籍購入代金の半額を補助する書籍購入補助制度。
  道真公のヘルスケア 当社が法人契約をしているスポーツジムを格安で利用できる健康促進費用補助制度。
  マイタイム制度 社員のプライベートに合わせて勤務時間を変更できる。
株式会社ネクシィーズグループ エネルギー環境事業、電子メディア事業
  N1グランプリ 全国の成績優秀者を東京に集めて「N1グランプリ」と称し、3カ月に1度実施。
株式会社 PLAN-B デジタルマーケティング領域/SEO
  LOVE休 愛するパートナー(配偶者や恋人)の誕生日に特別休暇を取得できる。
株式会社アイスタイル 美容系総合ポータルサイト運営
  ハンズアップ制度 社員自らが組織横断の委員会を発足し、会社創り・改善活動をすることができる「committee challenge」や、グループ会社の垣根を越えて、フットサル・ゴルフ・華道などのサークルを発足することができる「部活動制度」などの制度。

もちろんこれ以外にもたくさんあるのだけれど、制度の名前だけでも変えてみると、利用が進むのかもしれない、と考えさせてくれる。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)