リーダーになるにはリーダーシップよりも重要なことがある
経営大学院で組織設計と人事マネジメントの基礎を教えている。
そんな中で、こんな意見を持つ受講生がいる。
「私は人事部門じゃないので、組織設計と人事マネジメントについては学問として興味はありますが、実際に使う機会がありません」
なら、人に関することでは、何に興味があるの?と尋ねると、決まって帰ってくることばがある。
「リーダーシップですね」
なるほどなるほど。
たしかにリーダーシップは重要だ。
昨今では、ピア・リーダーシップというように、どの階層、どの役割からもリーダーシップを発揮すべきだという主張が主流だ。
リーダーシップが重要だ、という意見に対して、私は決して反対しない。
けれども、経営学の古典にたちもどるなら、そしてもし、人事部門ではないけれども、経営のトップ層にまで出世する気があるのなら、やはり人事マネジメントは重要なのだ。
たとえば、こういう調査がある。
マネジャーを3階層の役割に区分して、4つの職務機能にどれくらいの時間をつかったかというものだ。
この調査からわかることは、「直接誰かにアプローチする」という意味でのリーダーシップ発揮時間は、役割階層を上がるにつれて減っていく、ということだ。
その代り、計画策定と組織化のための時間が増えていくのだ。
役割の階層を駆けあがるにつれ、導くべき人の数は飛躍的に増えていく。
しかし、人が一時にコミュニケートできる人数には限りがある。
だからこそ、直接ではなく、間接的に人をリードすることが必須となる。
そのために、組織の仕組みを熟知し、人を動かすモチベーションとそのための仕組みを理解し、目の前の課題解決と成長のための最適な状況を構築しなければならない。
組織設計と人事マネジメントは、まさにそのための知識と経験を網羅した学問なのだ。
まあ、それも含めて広義のリーダーシップだと言ってしまえばそれまでかもしれないけれど。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
歩合給と残業代についての判例
労政時報6月23日号を今さら読んで、気になった判例の原文を読んでみた。
要は、歩合給から残業についての割増賃金を差し引いて、残業してもしなくても月にもらえる給与額は変わらない、としている制度について「とりあえず無効じゃない。けれども高裁レベルでも少し検討しろ」と最高裁が判断したという話。
2015年から始まって、2017年2月に最高裁判例が出ているので、高裁差し戻し結果が出るのはいつごろになるんだろう?
そういや某銀行系シンクタンクでも、裁量労働が適用されている従業員に支払った深夜とか日曜出勤とかの割増賃金を業績賞与から差し引いていたので、国際自動車だけがやっているという話ではない。
とはいえ「脱法行為だ!」と指摘される弁護士の先生もおられるので、とりあえず東京高裁の結果を待とう。
制度を設計する立場から言えば、最初からルールとしてオープンにしているのであれば、ありだろう、とは思う。ハーバードのケースで有名な、ノードストロームのSPHというインセンティブ決定指標も、まあ根本的には似たような考え方だからだ。
ただし二つの条件が必要だろうとは思う。
第一に、十分な額の歩合を受け取れること。
第二に、働く時間に裁量があること。
そのあたり、国際自動車の現実はどうで、東京高裁ではどのように判断するのだろう。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)