あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

新卒で入った会社で社長を目指せなくなる時代が来る

大企業側に就職することはゆでがえるを生むかもしれない、という記事を書いた。

 

style.nikkei.com

 

「同じ会社で一生活躍しよう」という考え方が今後少数派になるだろう。

それは特に、出世を目指す人の中で顕著になると考えている。

 

かつては日本企業の経営者は、プロパー社員から選ばれることが多かった。

上場企業の場合にそれは顕著で、1970年~2000年にかけていえばおよそ89%前後の会社がそうだった。

しかし2014年の調査では、その割合が70%にまで激減している。これは比較的早い段階での中途採用を含んでいるので、新卒採用だけで見ればさらに低い。60%だ。

つまり、わずか15年ほどの間に、新卒で入った会社の経営層に出世できる可能性が30%近く下落しているのだ。

その分だけ、他社からの役員としての招へいや、企業グループからの転籍、買収された企業からの送り込みなどが増えている。

 

アメリカの場合にこれがどうかと言えば、日本とは逆で、新卒からの内部昇進割合は22%ほどにしかならない。残る78%は、外部から招へいされる経営者だ。

中途採用を含めても、外部招へい割合は61%ほどもある。

 

かっては、今いる会社で出世を目指すことが王道だった。

けれども、今後は自社だけしか知らない人は、経営者になれなくなるのかもしれない。

 

そのあたりについて、社歴などを踏まえた調査をしてみたいと思っている。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

※記事内の数値については、こちらの論文から引用させていただきました。

 

「経営者内部昇進制についての一考察
 -日本とアメリカの比較実証研究を中心として-」
 谷川 寿郎(立教大学大学院)

http://www.business-creator.org/wp-content/uploads/2011/01/%E8%B0%B7%E5%B7%9D-%E7%AC%AC7%E5%8F%B7-5.pdf

 

 

なぜ大企業ほど新卒給与に差をつけられないのか

メルカリが新卒の給与に差をつける、ということが報道された。

ちなみにそのための人事制度は「メルグラッズ」という名前らしい。


 

about.mercari.com

多くのニュースでは初任給格差だけがとりあげられているけれど、アスキーの上記の報道を見るともう少し詳しいことがわかる。

要は、新人扱いしない、ということだ。

新人からちゃんと他の社員と同様に、しっかりとした役割を担ってもらう(社内人事制度のグレードに当て込む)ということで、メルカリの新グレードシステム≒メルグラッズ(Mercari Gradesの略?)なのかなぁ、と想像した。

他にも教育支援などを内定段階から与えていくということで、これもやはり新人扱いしない人事制度なのでは、という推測と一致する。

 

メルカリの制度はある意味で世界的にはあたりまえのもので、ちきりんさんもこんなコメントをツイートしている。

 

そしてこうもコメントされている。 

 

このあたりの事情は確かにその通りで、典型的な日本の大企業は、新卒給与に差をつけることができない。そういう人事制度になっている。

わかりやすく示すと、大企業の人事制度では、グラフのような年齢と給与の分布が生じている。

f:id:hirayasuy:20180303152912p:plain

 

このグラフで言えば、35才くらいまでは評価によって多少差がつくものの、基本的には右肩上がりで給与が増える。

そこで月給35万円~40万円の谷があって、それを超えると管理職になる。越えられない人は40万円未満のあたりを天井に給与が増えなくなるけれど、残業代は出る。だからまあそこそこの生活はできる。

一方で40万円の谷を越えた人たちは、年令よりも実績とか能力とかで評価される割合が増える。抜擢される人もいれば、万年担当課長もいる。

このよくある構造に対して、もし特別な新卒(年収100万円~150万円アップ)とか超特別な新卒(年収800万円オーバー)とかを雇うとどうなるだろう?

その際の問題を示したのが以下のグラフだ。

 

f:id:hirayasuy:20180303153509p:plain

 

実際問題、多くの大企業の新卒採用の現場では、初任給を5000円増やすだけでも様々な課題が生じている。

「去年までの新卒との間の差額が縮まるから23才は3000円、24才は2000円、25才は1000円ベースアップしよう。でもそれにはウン千万円の原資が必要だ」といったように。

 

仮に特別扱いだから前年度採用者に配慮しない、とした場合にも、課題はある。

ありていに言えば、特別待遇者への社内でのイジメだ。

無視する、嫌味を言う、くらいならマシで、実際の仕事でかかわった際に協力を拒否したり、逆に常に反対意見を示したりする人も多い。

 

だから新卒一括採用、終身雇用の大企業はダメなのか、というとそうじゃない。

だからこそ僕は、古典的な日本の大企業のための人事改革が必要になるだろう、と見込んでいる。

 

解決策はもちろんある。

それは人事に客観性を担保していく仕組みだ。

そして評価の納得性や公平性の意味を、しっかりと定めた仕組みだ。

決して報酬だけの仕組みではなく、評価や教育、そして組織構造やレポートラインにまで関わる仕組みだ。

 

実際にすでに取り組んでいる会社もいくつもある。

 

今後、成功事例とともに発表していきたいと思う。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)