あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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優秀な人材は学歴や性別などのラベルではわからない

1年前の記事だけれど、示唆にとんだ内容なので紹介してみたい。

 

blog.livedoor.jp

 

1000人に1人しか入社できない狭き門のグーグルでは、大卒資格を有した社員は半数しかいない、という点がクローズアップされて、こんな記事にもなっていたりする。

(まあ大学を卒業する前にビジネスの場で活躍してしまって、卒業を待つ意味がなくなって中退したような超優秀な人たちということなんだろうけれど)

bylines.news.yahoo.co.jp

 

僕は、これらの記事の内容を企業の人事に活かすために、重要な点は一つだと考えている。

 

それは「人間」を見ること。

たとえばラスズロ・ボック氏が紹介している内容に、自己評価の高い男性は有害だが、自己評価の高い女性は有能だ、というものがある。それはそれぞれが育ってきた社会環境がステレオタイプにどのような行動を求めるようになったのか、ということを前提として考えなければいけない。単純に日本でも、自己評価の高い男性が有害、というわけではないかもしれないし、自己評価が高い女性が有能ではないかもしれない。

しかし、データに即して仮説を置き、実際に人の行動を見ていけば、まちがった思い込みは排除できる。

 

昨日僕はグロービスで授業を行いながら、それぞれの受講生が考える有能なリーダーについて語ってもらった。

その中で30代くらいの男性がこんな話をしてくれた。

「女性のリーダーのもとで働いていますが、とても有能な方だと感じています」

それはなぜ?と僕は聞いた。

「女性らしさ、というか、とても調整力が高くて、部下として仕事のやりやすさをいつも確保してくれます」

なるほど、それはたしかに。

「さらにこの方は、実は時短勤務をされています。みんなより1時間早く帰るのですが、それは1時間早いというだけではなく要は残業をしない、ということです。それでも、僕たちはこの人の下で働きたい、と思えるので、本当に優秀だと感じています」

 

他の受講生たちが「それはすごく優秀な人だ」という雰囲気になる中で、僕はいじわるな質問をした。

 

「それって『女性だから』って関係ないんじゃ?」

 

みんながハッとした感じになったので僕は続けた。

 

「気づくべきは、『女性なのにすごい』『短時間勤務なのにすごい』と感じてしまうことで、『自分とは違う』と思考放棄してしまう可能性があるということ。性別とか働き方じゃなくて、どんな行動がリーダーに求められるか。どんな行動を真似すればリーダーになれるのか、という点に気づかないといけない。だから人を『ラベル』で見ることは楽だけれど、その思い込みから卒業するようにしましょう」

 

性別とか学歴とかの「ラベル」(経済学的にはシグナル)で人を判断することはとても楽だ。日本で血液型占いが定着しているのも、それが一種のラベルとして機能しているからだろう。

考えてみれば、僕たちのまわりにはいろいろなラベルがある。

ラベルは端的に人を把握するのに役に立つ。

けれども、長く付き合っていく人に対してはラベルを外した状態で相対した方がよい。

それは言い換えるなら、人を見る軸を自分の中に持つということに他ならない。

企業の人事も、優秀な大学卒だから、ではなく、彼はFランク大学だけれども弊社がもとめる行動を高いレベルでとってくれるだろう、という自信を持った判断ができるようにならなければいけないということだ。

 

その確率がとても低いから、ついついラベルを活用してしまうのだろうけれど。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

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gms.globis.co.jp

 

 

経済も経営も、本質は「稼ぐ人を増やす」ということ

日経スタイルでの隔週連載は、執筆時に頭があっちいったりこっちいったりしてとても難産なのだけれど、その分だけ普段あまり考えない領域のことも調べられてなかなか刺激になる。

来週火曜日(8月23日)掲載分を書き終えて、ふと興味がわいたデータがあるので調べてみた。

 

アメリカと日本の生産性の推移だ。

 

もちろん、日本生産性本部とかがしっかりした分析をしているので、まじめに学ぶ人はそちらを見ればいい。

僕はただ、自分の手で分析しないと気が済まないからそうするだけだ。

元データが新しいものになっているかもしれないし、そもそも分析の方法自体が考え方のヒントになることもあるから。

 

そうしていろいろと比較をしてみた。

 

グラフ① 名目GDPと就業者数(パートタイマーを含む)の比較

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グラフ② 名目GDPと生産性(名目GDP÷就業者数)の比較

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グラフ③ 就業者数と生産性の比較

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これらのグラフを作ってみて、その上で、経済産業省が実施した審議会のこの文章を読んでみた。

「我が国は、2000 年代の生産性の伸びは1.5%と先進諸国と比較しても遜色ない
数字であるが、実態は労働時間を伸ばして頑張ってきた状況であり、いわば、長時間労働で生産性を確保する『やせ我慢の生産性向上』である。この結果、ワークライフバランスが欠如した就業環境となってしまっている。」

 

日本は生産性が低い。

それは長時間労働のせい。

だから、ワークライフバランスを高めなければいけない。

 

そういう理屈なんだけれど、ちょっと待て、と思ったわけだ。

グラフ①では、1990年くらいから日本の名目GDPが停滞していて、同時に就業者数も停滞していることがわかる。

一方でアメリカは、就業者数の伸びとGDPの伸びが比較的相関しているように見える。

 

これはつまり、働く人が増えればGDPが増えるのかも、ということを想像ささせる。

 

グラフ②では名目GDPと生産性を比較してみた。

これはまあきれいに重なるグラフになった。生産性とは、名目GDP÷就業者数で計算するので、名目GDPの形に大きく影響される、とはいえ、意外な気もした。

 

そしてグラフ③で、就業者数と生産性を比較した。

これはもう、見事にグラフ①と同様になった。

 

ということは。

生産性というのは結局のところ、「働く人の人数」でしかないんじゃないか

そう考えて僕はさらにもう一つ、データを探して分析してみた。

そうして作ったのが次のグラフだ。

 

グラフ④:名目GDPと労働時間指数の比較

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労働時間指数は厚生労働省の労働統計から簡単に引っ張ってこれる。

 

こうして見てみると、2つのことがわかる。

1.1990年ごろまでのGDP増加期間は労働時間は横ばい

2.1990年以降のGDP停滞期間では、労働時間は微減傾向

 

つまりGDPと労働時間は相関していない。

 

そこで僕はようやく気付いた。

そうか、生産性うんぬんじゃなくて、とにかく働く人を増やすためのダイバーシティなんだ。ワーク・ライフバランスなんだ、と。

今家庭に入っている主婦が働き始める。

60才以上、65才以上の人たちが働き始める。

そうすれば、GDPに対して上向きの影響が生じる。

 

なるほど。

だとすれば、もう一つ必要なことは、限定的な働き方しかできない人でも働ける産業を増やすことだ。

それはつまり、パートタイマーでも時間あたり50ドル以上の付加価値を生み出せる産業ということだ(なぜ50ドルなのかはこのあたりを見た概算値でしかない)。

 

今のところそれはスキマ産業的な発想がメインになっていて、とても50ドル/時間を生み出すことにはなっていない。

けれども、方向性が定まれば行動はしやすくなる。

50ドル/時間を生み出すビジネスで、働く人達にはそこから20ドルを渡す。

そんな構造を生み出すにはどうすればいいかをもっと考えてみたい。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

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