あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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天職は「作業」で考えればわかりやすい

そういえばときどき「天職」と言う言葉を使った文章に出会う。

んじゃ、天職ってなんだろう、と思って検索してみた。

そしてこんな文章に出会った。

 

「天職とは「天」から与えられた「職業」と書きます。
“それをするために生まれてきた”ものであり、それゆえに心の奥からは懇々と湧き出る情熱が数々の困難を乗り越えさせ、そして、“24時間年中無休で関わっていたい”と思わせるだけの仕事なのです。」

カウンセリングサービス■心理学講座「天職と適職〜天職とは??〜」より

 

少しハードルが高い定義だ。

でもまあ、クリエイターとか、個人そのものが資本となりうる職業の場合にはこの定義は正しい。

たとえばこんなツイートがまさにそんな状態をあらわしている。

 

 

僕は漫画家ではないけれど、大きくうなずいてしまった。

ただ、天職を「職業」と言ってしまうと少しハードルが高いので、それをもう少しわかりやすく細かくできないのかな、と考えてみた。

 

それはきっと「作業」にまで細かくできる。

 

たとえば僕はコンサルタント(主に人事領域で、たまに事業計画策定とか、資金調達系の仕事をすることもある)をしている。

コンサルタントと言う仕事には、さまざまな作業がある。

それらを大まかに分けると、3つになる。

第一の作業は「コミュニケーション」だ。

第二の作業は「分析」だ。

第三の作業は「課題解決」だ。

そして解決する方向性をもってコミュニケーションにまで戻る。だいたいこの3つの作業群を繰り返すことがコンサルタントの仕事だ。

 

コミュニケーションと言う作業は、「ヒアリング」や「インタビュー」、「プレゼンテーション」「関係性構築」などに細分化できる。

主張することや傾聴すること、説得することや親しくなることなどがこれらの作業の内容だ。

 

分析と言う作業は、「情報収集」「情報整理」「情報分解」「基礎分析」「関係性分析」などに細分化できる。たとえば人事系で言えば、全社員の過去5年分の給与データと評価データを受け取って、「誰が本当に優秀な人なのか」「平均的な人の給与の増え方と制度との整合性はあるか」なんかを分析したりする。分析とは事実の塊の中に隠された、わかりやすい事実を見えるようにすることでもある。

 

コミュニケーションや分析を踏まえ、課題解決をする。事実の中でキーになる点をまとめて課題として整理する。課題の因果関係をあきらかにして、解決の糸口を探す。あるべき理想像を定義して、そこまでの改革のロードマップを作ったりする。

解決のための方向性を定め、道のりを定め、そして実際に歩いていく作業が課題解決だ。

 

コンサルタントと言う仕事を「天職」だ、と感じているであろう人の多くは、これらの作業のどれかに、すさまじく没頭できる人たちだ。

 

上記の漫画家についてのツイッターの例で言い換えると

コンサルタント業界で仕事をする一番の喜びはなんですか?」

という質問に対して

「倒れるまで『課題解決』に没頭できることだ!」

「エブリデイ、『データ分析』ができる!1年中だ!」

「365日毎日、『分析』して『課題解決』策を考えてクライアントに『プレゼン』して喜んでもらえる。毎日だよ、毎日!」

と、嬉々として答えられる人たちだ。

 

「エンプロイアビリティ(転職力)が高くなること」だとか「収入がそこそこ高いこと」だとか「合コンでもてるから」という理由をあげる人もいるだろうけれど、酔わせて本音を聞きだすと、結局のところ、コンサルタントとしての作業が好きだからできているのだ。

 

漫画家の知人も何人かいるけれど、彼らはやっぱり「絵を描いていれば幸せ」「物語を作っていれば幸せ」という人たちだ。小説家の知人も、絵が文章になるだけで同様だ。

 

就職とか転職とかを考えるとき、自分が時間を忘れて没頭できる作業がなんなのかを考えてみるのもいいかもしれない。

きっとそれが天職にたどりつく近道になる。

 

 

※蛇足になるかもしれないが、天職は、本業じゃなくてもいいと思う。ただ、できればお金に変えられる状態にすることが望ましいので、副業の形ででも、没頭できる作業をビジネスにする方法を考えてみると、なお良いだろう。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

 

65才以降の生活を守るために今できること

■ 現役世代の金融資産は減り続けている

ふと気になることがあったので、少し古めのレポートを探して読んでみた。

大和総研調査季報2012年新春号だ。

http://www.dir.co.jp/souken/research/report/capital-mkt/cho1201_05all.pdf

 

読んでみて、ああやっぱり、と実感した。

60才以上が持っている金融資産は、全体の6割、ということはよく言われている。

しかし、今の30代や40代が60才以上になったとき、そうはならない傾向がこのレポートに書かれている。

一部グラフを抜粋してみよう。

(時期は少し古く、2010年までのものだ)

f:id:hirayasuy:20141022151316g:plain大和総研作成グラフ)

上の方の折れ線グラフは平均値で、水色の線は増減傾向をあらわしている。

60歳台の金融資産保有額は「増加傾向」にある、ということだ。

下の方の折れ線グラフは、対象となる人たちの真ん中に位置する人の金融資産保有額だ。こちらでは「ほぼ横ばい」となっている。

2007年以降減少に転じているが、現状ではまだ横ばいか増加傾向にあることがわかる。

 

では他の年代はどうか、と言うと以下のようになる。

f:id:hirayasuy:20141022151608g:plain大和総研作成グラフ)

f:id:hirayasuy:20141022151617g:plain大和総研作成グラフ)

f:id:hirayasuy:20141022151625g:plain大和総研作成グラフ)

30代から50代のいずれにおいても、平均値も中央値も「減少傾向」にある。

 

現役世代の金融資産はどんどん減っているのだ。

 

■定年退職しても金融資産が増えるとは限らない

現役世代の多くはもちろん企業勤務だろうから、彼らがまとまった金融資産を得るのは「退職金」としてだ。

だとすれば、今減っている現役世代の金融資産も、定年退職とともに増えるのか、というとこれはあやしい。

退職金制度は、大きく2つの方向で改革が進んできた。

一つには、Pay NOWの原則にともなう、縮小と廃止だ。

そもそも退職金として払うより、前払いしてしまおう、という発想もここに含まれる(少し古いが1998年にパナソニックが導入した制度が代表例だ。)

もう一つが、確定拠出型への移行だ。

決まった額の退職金を支払うのではなく、決まった額の掛け金を支払ってその運用結果を退職金にする方法だ。

確定拠出型の退職金にはもちろんメリットも多い。転職の際に持っていくことができたりするからだ(もちろん、転職先も確定拠出型の制度を導入している必要がある)。

 

これらの2つの改革はそれぞれの時代のニーズを踏まえたものだけれど、明らかに一つ言えるのは、定年退職時の退職金額を増やすものではない、ということだ。確定拠出型はうまくすれば増えるけれど、今はまだ、拠出できる金額が少なくて、それほど大きな退職金にはなりづらい。

だから、今の現役世代が60才で定年退職したとして(あるいは65才まで再雇用なり定年延長されたとして)、今の60台ほどの金融資産を持てない可能性は高い。

 

■金融資産がないなら、稼がないといけない

介護保険制度の抜本的改革は難しそうだけれど、最近ではロボット活用も進みだしていて、10年後には介護ロボットも当たり前になるかもしれない。

要介護にならなくても高齢になると医療費がかかる。高度先進医療が拡大していけば、お金があればかかれる治療も増えていく。そして医療費制度はどんどん厳しさを増している。

僕たちが年をとっていくと、お金がかかるようになる。

でも、そのために支払える十分なお金がない人も増える。

年金だけでそれらのお金をまかなうことも難しくなる。

最近15年間の厚生年金額の支給額推移は以下のようなものだからだ。

 

f:id:hirayasuy:20141022153050g:plain

(セレクションアンドバリエーション作成)

 

となれば、今の40代や50代が60代を越えたとき、年金以外の収入の道を確保しなくてはいけない。

65才までの再雇用は義務化されたけれど、65才以降も働ける場所が必要になってくるだろう。

 

■自分が生み出せる価値を見極める

今現実的に65才以上を受け入れている職場はほとんどない。

あっても、一時的な調査員とか、サービス業のアルバイトなどだ。

少子化が進んでいるので、その代わりとなる労働力、として65才以上の人たちを活用する選択肢はあるだろう。

コンビニや居酒屋のスタッフに65才以上の人が多い地域もすでにある。

でも、もっと本質的なことを考えるタイミングに来ていると思う。

働いてお金を稼ぐ、と言うことの意味だ。

それは、誰にでもできる仕事をして、お金をもらう、ということではない。

 

どんな価値を生み出せるのか。

その対価として受け取るものが報酬だ。

 

だからこそ、まだ40代の頃から、自分がどんな価値を生み出せるのかを考えていかなければいけない。

そして、気づいていなかった、自分の価値を再確認して、より高めていかなければいけない。

その取り組みは、50代でも、60代でも遅すぎるということはない。

 

以下の本の中に、そのための、自分の価値を棚卸するためのシートを紹介した。

棚卸しのためのシートをダウンロードするページも末尾に紹介しているので、一度手に取ってみてほしい。

タイトルでは「出世」と言う言葉が目立っているが、企業の外で生きること、自分らしく生きることを含めた「出世」として書いている。

 

 

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)