僕が考える人事制度の本質(2014年10月13日版)
「変化の時には本質に手の届く人が出世する」
と言う言葉を本に書いた。
じゃあそんな本を書いた僕は、何を本質と考えているのか、ということを書いてみようと思う。
僕が考えている本質とは、「僕の仕事は不要なものじゃないのか」、ということだ。
僕の仕事は人事コンサルタントだ(本と同じ書き様で申し訳ない)。
人事コンサルタントの仕事は人事制度をつくったりすることなのだけれど、その仕事の目的がいらないのではないのか、ということをいつも考えている。
誤解しないでほしい。
人事コンサルタント、と言う仕事がいらないだろう、と言う話ではない。
なぜなら、仮に人事コンサルタントがいなくなったとしても、企業の中に人事制度を考える仕事は残る。となればそれをアウトソースしたり、あるいはさらに高いレベルの制度をつくるためのノウハウの伝道者は必要だ。
僕が考えているのは、「人事制度はいらないのではないか」ということだ。
それは他の仕事でいうとこういうことになる。
弁護士が、法律は不要かもしれない、と思うことだ。
会計士が、会計基準は不要かも知れない、と思うことだ。
いや、それは言い過ぎかもしれない。
言い方を変えよう。
事業計画コンサルタントが、事業計画はいらない、と思うことだ、と考えればわかりやすいかもしれない。
例えば最近、この本を読んで深く考えさせられた。
How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス) ―私たちの働き方とマネジメント
- 作者: エリック・シュミット,ジョナサン・ローゼンバーグ,アラン・イーグル,ラリー・ペイジ,土方奈美
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2014/10/09
- メディア: 単行本
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変化の速い時代には、従来型の事業計画は役に立たない。
計画よりも仮説検証のプロセスが重要になる。
そのことを説明することはむずかしいので、体裁的な計画は必要だが、本質は違う。
同じように、人事制度の本質もまた違う、と考えている。
人事制度とはそもそも何のためにあるのか。
それは、たった二つの目的のためにある、と僕は考えている。
第一の目的は、組織のメンバーの生産性を高めるため。
フォード時代からこれは変わらない。
ただ、より本質的に考えるなら、それは給与をえさに人を釣るための評価と報酬の仕組み、ではないはずだ。
大量生産主義の時代にはそうだったかもしれないが、今は違う要素も増えている。
格段に。
第二の目的。これこそが本質だと思うのだけれど、それは組織のメンバーの創造性を高めるためだ。
チャレンジしてもらう。
失敗を糧にしてもらう。
そして成功を享受しあう。
そのためにこそ、人事制度はあるのだろう、と思う。
でも、そんな仕組みを求めない組織も多い。
それは、創造性が常に破壊を伴うからだ。
生産性のための人事制度は安定をうながす。
創造性のための人事制度は破壊をうながす。
さて、僕が提案し設計し、人々のための示すべき制度とはどういうものだろう。
僕が今、考えている本質とはそういうものだ。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
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目標管理制度が失敗する意外な理由
僕は普通の目標管理制度については否定的だけれど、それが必要な場合がある、ということはわかっている。
ちなみに、目標管理制度を見直す方法については、以前「月刊人事マネジメント」と言う雑誌にこんな記事を書いた。
目標管理制度のカスタマイズ
~シンプルに機能させる7つの設計運用テクニック~
簡単に言えば、目標を立てさせるのではなく、共通の目標を共有する方法だ。この方法はチームマネジメントに向いているし、組織目標を一丸となって達成しようとするときにうまく機能する。
一方、いわゆる、目標を自分でたてて、その達成度を測る仕組み、というのは改善活動に向いている。
最近だと、カーディーラーのサービス(工場)部門についての評価制度を構築する際に、あえてオールドタイプの目標管理制度を設計することにした。
売上や利益、という指標に基づいた目標を共有するより、一人一人が何をすべきか、自分で考えてもらうことを優先した。
指標についても、入庫率や顧客満足度と言った指標の方が彼らにはわかりやすいし、さらにいえばその前提となる各種活動を実直に進めることが大事だからだ。
カーディーラーで入庫率を改善しようと思えば、まず入庫予約状況の一元管理が必要だ。その上で、サービス部門だけでなく、フロント(入庫受付から納車までの窓口)部門、セールス部門との連携を密にとらなければいけない。より具体的には、顧客への声かけ=「次の車検ですが、〇月の半ばくらいだと比較的すいています」というような取り組みをしなければいけないし、ふらっと飛び込んでこられたお客様に対して、ピットの空き状況によっては少し長めの期間をいただかなければいけないこともある。
経営が目指す指標のバランスは、現場の従業員ほど重要になる。
利益と顧客満足のどちらを優先すべきか、というのは、一人のお客さんを目の前にしたときほど真剣な選択が必要だからだ。
そしてそんなとき、上からの指示だけで行動させると、指示待ち社員が増えてしまう。
だから、自分で目標を立てさせる仕組みが機能する。
もちろん、会社や部門の目指す方向性を明確に伝え、期待する役割を伝えることが前提になるということは忘れてはいけない。
しかし、このようなオーソドックスなタイプの目標管理制度が失敗してしまうことがある。
確かに一人一人が目標を記述し、そのために活動する。それはうまくいくのだが、期末になって評価を使用としたとき、「あれ?」となってしまうことがあるのだ。
典型的な失敗の理由はふたつある。
第一の理由は、結果を測れない、というものだ。
たとえば、ある人が自分が応対したお客様の満足度を高める目標を設定したとしよう。
しかしシステムが、一人一人の従業員ごとの顧客満足度を測る仕組みを用意しておかなければ、それはただの掛け声に終わってしまう。
手作業で数値を拾い集めようとしても、結局結果が見えない。
定量目標を設定したつもりが、定性的な目標になってしまうのだ。
目標管理制度と言う仕組みの導入が簡単であることから、この失敗は頻繁に起きている。シートを配って目標を書きなさい、そのための努力しなさい、といっても、そもそも目標の達成度を把握できない会社の状況があれば、全く機能しなくなってしまう。
そして、経営指標を一人一人どころか、部門単位ですら管理していない会社は意外に多いのだ。
人事制度としての目標管理制度だが、これをうまく機能させるために、経理や情報システム部門との連携がとても重要になる。
もし今、目標管理制度がうまくいっていないようだったら、上記の理由を考えてみてほしい。
目標管理制度が失敗する第二の理由は、中途半端に報酬に反映されることだ。
目標管理制度はシンプルだが、運用にはとても手間がかかる。
期初に目標をたて、上司と面談し、期中進捗を確認し、期末に達成度を判断し、上司に評価を受ける。
部下の多い上司だと、それだけで1週間以上がつぶれてしまうことすらある。
それだけの手間をかけた結果、A評価をとったのに「B評価よりも昇給額が800円多いだけ」、「賞与が1万円多いだけ」、となったら一気にやる気をなくさせてしまう。
また、面倒な手間をかける上司に対しては、なんら報酬がない、と言う場合もある。
そもそも残業代で部下との報酬が逆転しているような状況を改善しないまま、管理職だから面談を徹底しなさい、制度の運用を徹底しなさい、といってもため息を生むだけだ。
上記を踏まえた改善は、実は簡単ではない。
評価による報酬差を明確にする、ということは究極的には、①会社の取り分を減らす、か、②ダメな社員にやめてもらう、と言う選択をしなければいけなくなるからだ。
それならばいっそ報酬反映をなくしてしまうほうがまだましだ。
報酬に反映しないと評価制度が運用さない、と考える会社は多いが、そもそも業務の一環に組み入れることができれば、十分に機能する。
目標管理制度がうまく機能しない会社では、あえて目標管理制度を評価と連携させず、日々の業務活動として設計してみる事をお勧めする。
そうすれば、まず会社の収益状況や業務の品質が改善する。
評価への反映はそれから考えても遅くはない。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
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