あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

(再掲)レモンマーケット論(2):なぜ労働市場がレモンマーケットになるのか

前回記事はこちら。


レモンマーケットとはググればわかりますが、簡単にいうと
「買い手が粗悪品をつかまれやすい市場」という意味です。

結果としてその市場では最安値での取引が当たり前になり、粗悪品だけが流通することになる、という考え方です。

レモンマーケットが形成される理由はいろいろありますが、基本的には以下の3つです。
① 買おうとしている商品が良いモノか悪いモノかがわわかりづらい。
② そもそも悪いモノが市場に出回る確率が存在している
③ 売り手が責任を問われない

ネット通販が普及し始める頃、特にオークションサイトではこのような可能性が高かった。
そこで上記の内、③を解消したわけです。
それが口コミや評判などの、売り手に対する評価、です。
みなさんもネットで何か買うとき、その売り手の評価が悪かったら、そこからは買いませんよね。そうすることで、ネット市場はレモンマーケット化を阻止しています。

レモンマーケットはもともとはアメリカの経済学者でノーベル経済学賞もとられた、ジョージ・アカロフ先生が提唱した概念です。
中古車市場について論じたものですが、そういえば昔は中古車に騙されない、という本もいろいろありました。最近は中古車市場も是正されていますが、ガリバーのような買い取り専門業者が出てきたこともその大きな要因です。この辺は話がそれるので、またいずれ。


さて労働市場がレモンマーケットになる、と前回の記事で書きましたが、上記の3つの条件をあてはめて検証してみましょう。

労働市場がレモンマーケットになる可能性の理由】
① 買おうとしている商品が良いモノか悪いモノかがわわかりづらい。
⇒人の能力は目に見えません。また、せっかく雇ってもすぐにやめてしまうかもしれません。

② そもそも悪いモノが市場に出回る確率が存在している
⇒人の評価に絶対評価の基準はありません。相対評価である以上、必ず「相対的に能力が低い人」がうまれてしまいます。

③ 売り手が責任を問われない
⇒労働力の売り手は本人です。だから責任を取ることは本人にしかできません。それは通常、解雇ということになります。

解雇規制の緩和は、上記の内③を解消しようとするものです。
雇ってみたけど期待ほどではなかった場合にすぐに解雇できるようにする。
有名なところでは、2006年にフランスで導入されたCPEがその典型です。
ただ、ご存知のようにフランスでCPEは大規模デモですぐに撤回されました。

たしかに労働市場をレモンマーケットにしないためには、解雇規制の緩和は有効です。
ただ、それが第一の解答か、というと疑問が生じます。

そもそも労働市場における「良いモノ」とはなんでしょう。

そのあたりはまた次回。



平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

2013年の記事ですが、なんとなく再掲してみました。

(再掲)レモンマーケット論(1):65歳まで雇用する会社と、即解雇会社に二分される日本

今朝の日経新聞の社説が、ちょうど前回までのこのブログ記事と論調の一部が一緒だったので、熟読してみました。
ちなみにブログ記事はこちらです。

なぜ転職はあたりまえになっていないのか(1) - あしたの人事の話をしよう

なぜ転職はあたりまえになっていないのか(2) - あしたの人事の話をしよう

なぜ転職はあたりまえになっていないのか(3) - あしたの人事の話をしよう

 

日経新聞2013年4月8日の社説タイトルは「元気な社会へ新たな雇用ルールを」。
論旨はこんな感じです。引用は「」、私の補足は()です。

① 企業の新陳代謝(適切な解雇)による雇用の流動化は企業活力生成に一部貢献する。
② 解雇規制の緩和は雇用の流動化を促進する。
③ しかし「企業は社員に長期雇用を約束するのと引き換えに転勤や残業を強いてきた」
④ 「こうした日本的な経営は見直しを迫られる」
⑤ 「欧米企業は一般に職務内容をあらかじめ決めて雇用契約を結ぶ」
⑥ 「日本の正社員は会社の指示通りに部署を移り、『なんでもやる』使い勝手の良い労働力」
⑦ 再就職支援体制も整備しなくてはいけないが、官から民への移行も必要
⑧ 「大切なのは、別の仕事に柔軟に移れる労働市場を育てることだ」
⑨ 「社員が一つの会社に定年まで勤めることを前提に成り立ってきた社会を変えていこうとすれば、さまざまな面できしみが生じる」

労働市場の形成は必須です。
ただ、そのために、再就職支援をする、とか、「準正社員」形態をつくる、とか、そもそも解雇をしやすくする、とかはあくまでも供給サイドの話です。

(「準正社員」についてはこちらを参照してください
 http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS13038_T10C13A3MM8000/ )

大事なことは、上記のの部分をどう変えるか、という点にあります。
労働市場の需要側である、企業内での人材の活用方法を変えないと、再就職支援をして、「準正社員」を許容して、解雇をしやすくする、ということはこんな状態を生み出します。

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とりあえず「準正社員」で安く雇って、なんでもやらせて、すぐに使えない人は解雇。
官民ともに次の仕事をすぐに紹介しようとするけれども、紹介できる先はどれもこれも「準正社員」か固定賃金の低年収な仕事。
今まで通りの新卒一括採用時に優良企業に勤務することができた人たちは労働市場にはあまり出てこないので、

労働市場はレモンマーケット化する
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(レモンマーケットの意味はまたググってみてください)

 

繰り返しますが、需要サイドの変革が最も重要です。
供給量を変えれば市場が形成されるなんて、そんな前時代的な発想はどこかへやってしまうべきでしょう。

続きます。


 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

 

2013年の記事ですが、なんとなく再掲してみました。