ガラパゴス人事は歴史が作ったもの
セレクションアンドバリエーションのマネージングディレクター 平康慶浩です。
HRカンファレンスという人事部門向けの集まりで講演をしてきました。
アンケート結果を拝見すると、およそ75%の方にご満足いただけたようです。
残る25%の方々からも否定的なご意見はゼロでした。
若干刺激的な内容での講演だったので、資料を作りながら、受け入れられるかどうか少々不安でしたが、安心しました。
で、何を話したかですが、要点は以下のとおりです。
私たちが当たり前に思っている「定期昇給」「夏冬賞与」「総合職採用」という3つの人事の仕組みは日本独自のものである。
さらに「生活給」「昇格滞留年数」と言う考え方とあわせて、日本の人事の仕組みを年功的にしている原因である。
年功主義は戦争中、戦後復興時期、高度成長期まではうまく機能したが、今は機能しない。
それは、バブル崩壊などが理由ではなく、1990年以降労働市場が熟成され、労働力が売買されるようになったためである。
グローバル化の進展の中で、労働市場は今まで以上に流動化する。
そこではすべての価格が最安値に収れんする。もちろん人々の給与も。
その中で
優秀な人材を確保し、
彼らを育成・最適配置し、
その上で人件費総額を適正にコントロールするためには、
当たり前の日本の人事制度は通用しない。
日本の人事制度はすでにガラパゴス人事である。
そのための処方箋は以下のようなものだ。
という感じです。
資料そのものは日本の人事部サイト(http://jinjibu.jp/corporate/sele-vari/ )や弊社HP(http://www.sele-vari.co.jp/ )にそのうちアップする予定です。
上記資料を作成するにあたっていろいろと調べてたんですが、その中に例えば以下のようなものがあります。要約ですが。
・明治から大正初期にかけて、賃金制度は出来高給に近い賃業給だった
・熟練工達は活発に転職していた
・熟練工囲い込みのために新卒採用から育てたり、あるいは勤続手当なども一部反映されていた
例えば「職工給与標準制定の要」(1922(大正11)年)というものがあります。
ここでは以下のようなことが書かれています。
①従来,賃金は労働需給や能力により定まり,労働者の生活費は省みられていない ②職工は一定年数を経ると技能にはほとんど差がないことから,従来の賃金では若者は余裕が生じ, 金銭を浪費する傾向がみられる ③一人前の職工の賃金は,家族の扶養に差し支えのない程度とせざるを得ない ④生活費の上昇により,家族扶養に必要な賃金が実現できていないことから,賃金は年齢と共に増加する方式とした方がよい
上記は生活給、年齢給の肯定ですが、これが書かれたということは、逆にそうではなかったという事情が読み取れるわけです。
しかし戦争が始まるとインフレは進むし、企業が利益を出すくらいなら国に拠出しろ、という方向性もどんどん強化される。
そこで国家総動員法、賃金統制令です。
簡単に言えば、技術力があろうとなかろうと、給与は生活に必要な分だけ支給する、という発想です。
だから若い人の給与を安くして、その分生活費が必要な年代に配分しろ、という仕組みにしたわけです。
それが年齢給であり、生活給である。
その前までは、職人たちは自分たちの腕を磨いて給与を増やしていた。
でも戦争後は、生活が大変だから給与をあげてくれ、という理屈がまかりとおるようになった。
こうして読み解くと時代の要求がわかってきますが、それがなぜ今も続いているのか、改めて考えてみれば不思議な気がします。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)