あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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人事制度はいつ変更すればいいのか (1)3つの基準で変え時を知る

セレクションアンドバリエーションの平康慶浩です。

そういえば、人事制度はいつ変えるといいのか、ということについて、はっきりとした基準がないなぁと思いました。

そこでこのブログ上で何回かに分けて、人事制度を変えた方がいい/変えなければいけないタイミングとその判断基準について書いてみます。

経営者の皆様や、人事部門の責任者、人事の担当の方々の参考になれば幸いです。
また、最近では事業部門側に人事に関する権限が委譲されている企業も多いので、事業部門側の方の参考にもなれば、と思います。


○ 架空の例をあげてみましょう。

中堅の産業機器メーカーのA社では、2000年頃に当時流行した「成果主義人事制度」を導入していました。その内容は要約すると以下のようなものでした。専門用語をなるべく避けて書いてみます。

① 等級毎の賃金テーブルの重複を縮小 
   :具体的には以下のような内容です。
     ・等級別に増える給与の上限を設定
     ・上限に近付くほど、給与の増え方をゆるやかにした

② 評価制度を整理
   :具体的には以下のような内容です。
     ・コンピテンシー(行動)評価の採用
     ・目標管理制度で設定する目標を、会社の事業計画とリンク

なぜこの会社で成果主義人事制度を導入したのか。
第一の理由は、人件費をコストとしてコントロールできるようにするためでした。
第二の理由は、その中でも出来る人に多く給与を支払うためでした。

さて、この会社では「成果主義人事制度」を10年活用してきました。
研修も行いながら、特に問題となる点は生じていないようです。

ではこの会社で、人事制度をいつ変更するべきなのか?

経験上、多くの会社では、制度の微修正はけっこうひんぱんに行います。
例えば、評価基準を少し変えてみるとか、そのウェイトを変えてみるとか。
賃金テーブルはいじると大変なことになることが多いので変更しないようですが、実は例外になる人を作り始めたりします。典型的な例は、特殊なスキルを持った人を中途採用したときに、賃金テーブルにない給与額を支払ったりする、などです。

しかし、別に機能していないわけでもない人事制度を大幅に変更する必要性を感じる経営者、事業責任者、人事責任者は少ないようです。
でも、以下の3つの基準で変化が激しくなったら、大幅な人事制度変更のタイミングが来たと考えていただいた方が良いように思います。
これはあくまでも私見ですが、20年ほどのコンサルティング経験の中での実感です。

その3つの基準とは?
以下のものです。

【第一の基準 : 従業員一人当たり売上高】
【第二の基準 : 従業員平均年齢】
【第三の基準 : 経営層の入れ替わり】

各基準についての基本的な理由を書いてみます。

【第一の基準 : 従業員一人当たり売上高】
この基準がプラスマイナスで20%変化したら、それは企業/事業が激動期を迎えているということです。
売上高そのものでない点に注意してください。あくまでも一人当たり売上高です。
これがプラスであれば大幅な成長、マイナスであれば厳しい縮小の時期です。
大事なことは、これらの変動をのりこえるには、従業員の行動を変えないといけない場合が多いということです。毎日の仕事の進め方や、従業員個々の成長のあり方を見直さなければ、激動を乗り越えることがむずかしい。
だから、人事制度を変えるのに効果的なタイミング、だと言えます。

【第二の基準 : 従業員平均年齢】
この基準は多くの会社であまり変化しません。この基準が変化するタイミングは、おおよそ2つの場合に限られるようです。
タイミングの1つは、リストラです。特に高齢層をリストラした時に、平均年齢がぐっと下がります。
もう一つのタイミングは、採用の変化です。新卒採用を抑制した場合には変化はじわじわときますが、数年で1.5才くらい上昇します。あるいは新卒を増やし始めた時には目立って平均年齢が下がります。
これらのタイミングで、実は組織風土が変わります。
採用を増やしたときはもちろん大きく変わるのですが、採用を減らしたりリストラしたときにも風土は変わるのです。ご経験された企業ではご理解いただけるでしょう。
変化した組織風土の中で、従来の人事制度は適切に機能しなくなります。例外措置も増えるし、一時的に対応しておけばよい、と勘違いされる場合もあります。
そうして気が付けば数年が過ぎ、どこかおかしなことになっている、ということになるようです。

【第三の基準 : 経営層の入れ替わり】
経営層が入れ替わるとき。多くの役員が入れ替われば制度も変えようということになる、と思われるかもしれません。しかし意外なほど、経営層の変化時に人事制度に手を付けることは少ないようです。
しかし、半年から1年がすぎたときに社内に違和感が増えてゆきます。
2年もたてば、違和感は蔓延します。
なぜなら、人事制度とは経営層の意思を伝えるツールでもあるからです。
しかし新たな経営層は、このツールを作った本人ではないので、例外を多く適用し始めてしまいます。その結果、人事制度が有名無実化した例も多くあります。
もしあなたが人事企画の責任者、あるいは担当であるならば、経営層が変わったタイミングで、人事制度の改定を進言したほうがいいでしょう。

詳細は次回以降に書いてみたいと思います。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)