あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

人事制度はいつ変更すればいいのか (2)第一の基準:従業員一人当たり売上高

セレクションアンドバリエーションの平康慶浩です。

人事制度をいつ変更すればよいか。
3つの基準で判断することを、前回のブログでお勧めしました。
その一つ目が、従業員一人当たり売上高です。

前回は概要として以下のような内容を書きました。

【第一の基準 : 従業員一人当たり売上高】
この基準がプラスマイナスで20%変化したら、それは企業/事業が激動期を迎えているということです。
売上高そのものでない点に注意してください。あくまでも一人当たり売上高です。
これがプラスであれば大幅な成長、マイナスであれば厳しい縮小の時期です。
大事なことは、これらの変動をのりこえるには、従業員の行動を変えないといけない場合が多いということです。毎日の仕事の進め方や、従業員個々の成長のあり方を見直さなければ、激動を乗り越えることがむずかしい。
だから、人事制度を変えるのに効果的なタイミング、だと言えます。


売上高が増えているのに、あるいは減っているのにこの基準が変わらない状況を考えてみましょう。
それは、売上の増減にあわせて、人員数が変動している場合です。
言い換えると、『既存の人事制度がうまく機能している』からこそ、人員変動に対応できている、と考えられます。
もちろん平均年齢が変わるような人員変動の場合にはその限りではありませんが、そのことについては第二の基準のときに書きます。

具体例をあげてみます。
成長著しい企業で、従業員数が変わらないけれどいきなり売り上げが伸びたような場合。
ひとりひとりが嬉しい忙しさを享受できていることでしょう。
でも、評価と報酬、等級、教育、といった人事制度の四つの要素から見るとどうでしょう。

以前作った評価基準では、みんなが高い評価になってしまう。
報酬面でも跳ね上がる。賞与に反映する約束をしている場合には顕著です。
等級、これはたとえば係長とか課長とか店長とかそういう役職とつながっている場合がありますが、これらも現状に合わなくなっているかもしれません。
店舗だとわかりやすいのですが、今の制度を作った時点だと、月商500万円を店長A、月商700万円を店長Bとしていたとします。しかし売り上げの変化で最低月商が800万円。繁盛店だと1000万円を超える店舗が出てきてしまうこともあります。この時、店長と言う等級の基準が機能しなくなっていることがわかります。
また教育についても、時間の使い方が変わればOJTがしづらくなる。取り扱う商品が変わったり、お客様のタイプが変わることで、教えるべき内容も変わってしまうこともあります。
さて、

この時実は、人事制度、と言う切り口で見るよりもわかりやすい見方があります。
それは『業務内容の変化』を見るというものです。

上記の例で言えば、売上が激増することで、店長の仕事の内容が変わったりします。
自分も接客をして、余った時間で検品や仕入、シフト管理や安全管理をしていた店長が、仕入に追われ始めたりする。接客をする時間がなくなって、店舗のお金と商品と人員のマネジメントに特化しなくてはならなくなったりします。
店舗の販売員にしても、以前なら手が空いた時に順を追って仕事を覚えればよかったかもしれませんが、忙しくなるとそうはいかなくなる。ある程度下地を教育されたうえで、店舗での業務をいち早く覚えなくてはいけない。

となると、上記の4つの人事制度、評価、報酬、等級、教育のそれぞれの内容を見直さなくてはいけないことがわかります。
従業員の業務内容が変わると、人事制度を変える必要が生じるということです

これは一人当たり売上高が減少した時も同じです。
この場合にはまず、売上高を伸ばす活動に注力してもらわなければいけません。そのために、行動を評価する要素を増やしたり、スキルレベルを上げるための教育を強化する必要があります。
これもまた、人事制度の見直しになります。

店舗の例がわかりやすいのでそのように書きましたが、例えばBtoBのメーカーでも同様です。
社内の事務作業を限られた人数で進めていた。
しかし売上の増加にあわせrて業務量が増えていく。
すると、一人一人の業務の進め方を変えなくてはいけなくなります。
一人一人がゼネラリスト的な仕事の覚え方をしていた状態から、単純作業についてアルバイトを採用して彼らを指導しながら業務を進めることになったりもします。
業務内容が、プレイヤーからコーチに変わったりするわけです。

このように書くと、では業務内容が変われば人事制度を変えればいいのじゃないか、と思われるかたもいらっしゃるでしょう。
しかし、業務の変化は見えづらいのです。
特に経営層から見て、各部門の担当者や責任者の仕事は見えづらい。
だから何らかの基準で「もしかして一人一人の業務内容が変化しているんじゃないか?」と気づくきっかけが必要なわけです。

それが第一の基準:従業員一人当たり売上高、です。

ではこの基準、いつと比べればよいのでしょう。
簡単に判断するには、今の人事制度を設計し導入した時点の平均値と、現在の値を比べることです。この水準が20%以上変わっていたら、変革は急がないといけない。
10%の変化でも、業務内容のチェックをしてみた方が良いでしょう。
それ未満であれば、警戒しつつも特に目立った活動はしなくてもよいかもしれません。

より詳細に見比べるなら、毎月の数値をグラフ化して、その変化を常に見ていくことをお勧めします。この見方だと、たまたま変動幅が大きくなっているときに慌てなくてすみます。

経営管理指標として一人当たり売上高を用いている企業は多いようですが、人事制度改定のタイミングを測る基準としても使える、ということを覚えておいていただければと思います。


平康慶浩(ひらやすよしひろ)