あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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給与より雇用、ですか

今日の7時54分にこんな記事が、Yahoo-朝日新聞デジタルに公表されました。

経団連「定期昇給、聖域でない」 春闘、制度見直し争点


13年春闘は「企業の存続と従業員の雇用の維持・安定を最優先する議論が中心」とし、「定期昇給の実施の取り扱いが主要な論点」

この文章を、簡単に読み替えればこうなります。

「雇い続けてやるから、今の給与で我慢して」

この裏にはさらに、経営者側のこんな思いがあります。

「今君たちがもらってる給与は高すぎるんだよ」

しかしある雑誌に、日本とアメリカやヨーロッパ、アジア諸国の給与と生産性をグラフにしたものがありました。
日本以外の国は、生産性も給与額も増えている、右肩上がりのグラフでした。
日本だけ、生産性が横ばいで、給与額が下がっていました。
つまり、平均給与を引き下げて生産性を保っている、と読み取れます。

ちなみに平均給与を下げる方法は簡単です。
賃金カットではありません。
昇給を止めることです。そうすれば、自動的に平均給与は下がります。

だから、今回の経団連が示した方向性は、日本全体の平均給与を下げて、企業の生産性を確保しよう、と言うものだと思います。

それは決して間違った選択だとは思いません。
企業存続のために必要なことであれば、ありうる選択です。

しかし、それであれば、さらに二つの方向性が示されるべきではないかと思うのです。

第一に、生産性向上のための諸活動です。

 情報システム活用、シェアードサービスを含むアウトソーシングの徹底、企業グループの再編成、旧態化したビジネス慣行の改善など、ビジネスモデル/ビジネスシステムそのものの改革です。
 定期昇給のとりやめは、デフレ時代であればそれでも実質昇給です。
 しかしインフレ目標を定めようとしている中で、給与を増やさないという選択は、インフレ目標達成への大きなブレーキになります。
 ですから少なくとも、それ以外の生産性向上のための活動とセットでないと、意味がない。

第二に、抜本的な職務給への転換とそれに伴うハイレベルな人たちの給与水準引き上げ

 過去を振り返ってみれば、一律の賃金カットを好む企業が多い。
 雇用を守る、という名目の時には、特にそんな選択をしがちです。
 しかし、企業再生と言うレベルにまで経営状態が悪化した時に取る手段は、指名解雇と指名での賃金カットです。一方で特定の人材に対しては逆に大幅な昇給を実施します。
 
 本質的に言えば、定期昇給の見直しというのは、昇給というリスクの回避です。
 毎年数%の割合で昇給し続ける人材を一人雇用するということは、一台数億円の大型資産のリース契約とほぼ同義です。リースには利息が発生しますが、それが昇給率に近い発想です。しかしそのリスクをもうとりたくない。
 であればいっそのこと職務給に変えてしまった方がよい。
 ただ「優秀だ」というだけで昇給するのが今の多くの企業の評価の仕組みです。
 しかし「期待する仕事」「出してほしい成果」によって給与を支払うのであれば、仕事内容や成果の変化にあわせて給与額を変えることができます。
 これに一番近い考え方が、職務給です。昨今だと、役割給という名称で日本風な導入が進んでいますが、そこにはまだ定期昇給の考え方が残っています。

 定期昇給を今後廃止していくのであれば、それは世界標準の人事の仕組みに変わっていくということでもあります。
 ならば、根幹にある等級の仕組みも、世界標準的な職務給に転換していかないと、整合性がとれなくなります。

 単なる定期昇給廃止だと、高齢層優遇でしかないのです。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)