自分の本のボツ原稿をぼちぼち掲載してみます(2) なぜタイトルに「年収300万円」と入れたのか
なぜ「年収300万円」というキーワードが出てきたのか、という質問をたまに受けます。
本の中身ではそれほど300万円という金額を重視していないよね、とか。
その理由は、本にする際に削除したグラフなどが関係しています。
例えばこんなグラフを掲載していました。
「給与所得者のおよそ50%が年収300万円以下と言う実態」
国税庁が発表した数値統計をもとにセレクションアンドバリエーション加工
もちろんここにはパート/アルバイトの方も含まれます。
そのあたりまで論じた当初の文章は以下のようになります。
ちょっとロジック的に言い過ぎでもあったため、削除したものです。
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(上記のグラフ)
このグラフは国税庁が発表した給与所得者数のデータから加工したものだ。各年において三百万円以下の給与所得者数の推移と、その数が給与所得者に占める割合を示している。折れ線グラフが数を示しており、棒グラフが割合を示している。
この折れ線グラフと棒グラフは見ての通り一九七一年以降、ほぼ連動して推移している。ただ一九八〇年頃から一九九五年頃まではその数が減っていないのに、割合がどんどん低くなっている。つまり、増えた人口の中で給与が増えているということであり、高所得者がそのままさらに高所得を得ていた時代だ。
それが一九九〇年代後半から、人数と割合それぞれを増やし始めている。確実に、年収三百万円以下の人々が増えている。今やその割合は、給与所得者の五〇%を占めるに至った。
いや、この数字はそのまま信じるわけにはいかない。報道などでよく見る非正規雇用者、つまり派遣社員やアルバイトが増えているからじゃないか、と思う人もいるだろう。
果たしてそうだろうか。
同じ国税庁のデータを使い、年収三百万円以下の層について、一年以上勤務している人と一年未満の勤務者の推移を見てみた。
もちろん一年以上勤務している中に、長期派遣やアルバイトをしている人も含まれている。しかし日雇い派遣や、正社員でも入社初年度の人などは一年未満に含まれている。
このグラフからわかるように一年以上勤務している人で年収三百万円以下の人が増えている。一方で一年未満勤務者は二〇〇八年を例外としてほぼ横ばいである。年収三百万の天井にぶちあたっているのは、一年以上勤務している正社員や長期派遣、アルバイトの人々なのだ。
その数はおよそ一八五〇万人。一年以上勤務者だけで見ても四一%にあたる人々だ。
この中にはたしかに派遣やアルバイトの人も含まれる。
しかし、都市圏以外の地方での正社員も数多く含まれていることも事実だ。それらを踏まえて理由を考えてみよう。
一年以上勤務者で年収三百万円以下の人が増えている理由は、三つだ。
第一に、高齢層のリストラと定年退職だ。特に団塊の世代が退職した二〇〇七年から二〇〇九年にかけて一年以上勤務者の人数だけでなく、一年未満勤務者の数も増えている。つまり定年退職した人が再雇用で低い年収の仕事に就いたということだ。
第二の理由はやはり雇用形態の変化がある。長期間勤続してはいるが非正規雇用の人材が増えている。もとから非正規の人はそのまま定着し、さらに新たな若者、高齢層が非正規雇用の低い年収で働いている。高齢化した派遣社員達もこれにあたる。
そして第三の理由は、昇給していないか、昇給していても昇給額が少ない人が増えているということだ。先ほどあげた平均賃金改定額推移から平均的な人の給与実態を計算してみよう。
例えば大学卒の新入社員が一九九七年に二十二歳で入社したとする。この年の平均初任給は一九三九〇〇円だった。もし、平均賃金改定額推移の通りに彼が昇給したとすれば、二〇〇九年の三十四歳時点での給与は二四八四〇四円となる。賞与を含めない十二か月分として見ると、約二九八万円となる。ちなみに三十四歳の平均賞与月数は二.八カ月なので、賞与は六九五五三一円である。
これを足すと彼の二〇〇九年の年収は三六八万円となる。
統計から読み取れるのはこの二〇〇九年分が最新になるが、現在の三十四歳の平均年収額がこの値ということはそれよりも若い人が三十四歳になるころには、それよりも低い年収しかもらえないということになる。国税庁の調査に基づくならもう少し年収は高いが(それは昇進して給与が増えた人や転職によって増えた人が含まれるためだが)、大きくは変わらない。
さて彼がそのままサラリーマン生活を続ければ、順調に給与が増え続けるだろうか。
そうはならないのだ。
その仕組みを明らかにしよう。
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長いですね。しかも数字がつらつらと並ぶ。
わかりにくっ!
ちなみにこの続きになる、給与が増えない仕組み、については「うっかり300万円」本の20p~42pに掲載されています。
よろしければ手に取ってみてください。
次回は「転職が年収を減らす現実」についてつらつらと書いた部分などをアップしてみたいと思います。
あと、上記に出てくる「平均賃金額改定推移」についてはまた気が向いた時にグラフとしてアップします。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)