あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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欲望ではなくコストをマネジメントする

こんな本を買って読んでみました。

 


「負けたくない」
「ほめられたい」
「安心したい」
「感動したい」
「一人だけ取り残されたくない」
という5つのキーワードを突けば、もっと売れるようになる、というキャッチコピーの理由が、実例とともに紹介されています。

意外と、さくっと読めるので、マーケティングのヒントが欲しい方にはお勧めです。

で、読みながら、かつてのクライアントの何社かを思い出したりしました。
「欲望」という単語から連想するクライアントです。

アーサーアンダーセンと言う会社にいたときに、キャバクラチェーンのコンサルティングを担当しました。
日本総合研究所にいたときには、パチンコチェーンのコンサルティングを5社ほど担当しました。
いずれも大手都銀からの紹介であり、上記の会社は決してグレーだったりはしません。
でもグレーに見られがちなので、ホワイトを目指す、という会社でした。

で、キャバクラやパチンコというビジネスモデルの本質を考えてみると、それは欲望のマネジメント、だと思われがちです。
お客様の立場に立って見れば想像がつきます。
キャバクラであれば疑似恋愛などと言われますが、ひらたく言ってしまえば「楽してきれいな女性にちやほやされたい」から行くわけです。
パチンコも「楽して金儲けしたい」から行くわけです。

でも、実は企業側から見ると違うのです。
キャバクラもパチンコも、ビジネスとして成功させるための秘訣は「コストのマネジメント」です。
言い換えれば、普通の小売りや飲食と本質は変わらないわけです。

例えば、キャバクラビジネスの最大のポイントは、なんでしょう。
それはリピーターを生んでくれるキャストに働き続けてもらうことです。
コンサルティングの際に、各店舗の売り上げトップ10と売上ワースト10のキャストの方々にお話を伺いました。
述べで言うと数百人の、売れているキャストと、まったく売れていないキャストの方々にお話を伺ったわけです。
面談時間は営業中の夜10時から翌日朝にかけてだったりしました。
広い店内のすみっこで、一人あたり30分ほどずつお時間をとっていただき、こつこつとお話を伺ったのです。
そしてつくりあげたのは、リピーターを生んでくれるキャストの方が長く働きたくなる仕組み、です。
それは、キャストにお渡しする報酬と、店舗の売上とを時間単位で連動させる仕組みでした。
この仕組みを完成させることで、店長やマネジャーたちは、「欲望のマネジメント」に特化することができる。
つまり、前提として「コストのマネジメント」が当然としてあって、その上に「欲望のマネジメント」が成立するわけです。

次に、パチンコビジネスの最大のポイントはなんでしょう。
それは、「返し」の割合です。
儲けすぎてはいけない、ということでもあります。
パチンコビジネスは不思議なもので、見た目の売上は、本当の売上ではありません。
たとえば100人のお客さんが1万円を使ってくれると、見た目の売上は100万円になります。
でも、景品を持ち帰るお客さんもいるわけです。
その金額を「返し」といいますが、実は90万円程度は返しています。
だから、実はパチンコビジネスの売上は、見た目の売上-返し、で計算されます。
上記の例だと10万円です。
ここで、パチンコ店側に誘惑がはたらきます。
返しを減らせば、もっと儲かる。
この誘惑に負けた店は、どんどん客離れを起こします。そうして倒産したりするわけです。
だから、原価とも言える「返し」について、コストとして明確にコントロールしなくてはいけないわけです。
その上で、お客さんに来てもらうための仕掛けをいろいろと考える。
やはり、「コストのマネジメント」が前提にあって、その上に「欲望のマネジメント」があるのです。

コストのマネジメントというと、なにかせちがらかったり、あるいはひどいイメージを持たれるかもしれません。
でも、上記の例を見ていただければわかるように、理想的なコストのマネジメントは、誰も不幸にしません。
キャバクラの例で言えば、リピーターを生んでくれるキャストはたくさん報酬をもらえる。経営側も嬉しい。
そしてお客さんも、そんなキャストが大勢いる店に遊びに行くのは楽しいわけです。

パチンコで言えば、返しがちゃんとしている店では、お客さんも大負けする可能性が低くなる。
そうしてお客さんはまた来てくれる。店舗もリピーターが増えると売上予測が立てやすく、利益も生みやすい。
実際、返しをしたあとのパチンコ店の1台あたりの時間売り上げは、平均で800円~1000円です。
1日で1台あたり6000円~10000円くらい。
一方、パチンコ台は通常1台30万円くらいします。だから1ヶ月~2ヶ月は毎日誰かが遊んでくれていないと赤字です。
実際にはさらに裏技的なコストマネジメントの方法もあったりしますが、それは割愛します。

さらにもう一つ。
適切なコストマネジメントは、縮小均衡をもたらしません。
特に、コストを意識せずともコストがコントロールされる仕組みにまでしてしまえば、売上を増やす業務に特化することができます。

「欲望のマネジメント」は「コストのマネジメント」の上になりたっている、ということを理解していただくと、さらに企業は発展します。
そのことを理解した上で活躍する方々のキャリアも、さらに素晴らしいものになっていくでしょう。

 

セレクションアンドバリエーション株式会社

平康慶浩(ひらやすよしひろ)