あしたの人事の話をしよう

人事コンサルタント 平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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コンピテンシーによる昇格・降格判断で悩むところ

一昨日、大阪に来られたとあるグローバルなメーカーの総務部長と、産業医お二人と食事をする機会がありました。
んで、こんな店に行きました。

ばかや
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270102/27001801/
ワインで食べる絶品焼き鳥屋です。焼き鳥屋なのに、すごくおしゃれなビルに入っていて、初めての方はちょっとびっくりするようです。
同じフロアに、フレンチのヴァリエとか、イタリアンのマーブル・トレとかありますしね。


エルミタージュ
http://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27001372/
こちらはオープン初年度から10年以上お世話になっている、北新地の隠れ家バーです。
オーナーバーテンダーの田外さんはNBAコンペティションで賞をとりまくって、後進のためにももうコンペに出るな、と言われてしまった方です。


さて、一夜明けてあらためてそのメーカーの、公表されている人事の諸制度をつらつらと拝見していました。
そこで、さすがだなぁ、と思った仕組みがあります。
普通の会社だと、この仕組み、うまく機能しづらいのに、きっとこの会社ではちゃんと動いてるんだろうなぁ、と。

それは、個人業績に関係なく、コンピテンシーで昇格・降格を判断する仕組みです。

私自身も20社くらいにこの仕組みを導入しました。
で、実際に制度設計当初のまま機能しているのは、その半分以下なんですよね。

各社の人事運用責任者いわく、

◆ やはり個人の業績を加味して昇格・降格判断をしないと、周りが納得しない
◆ そもそも前提としてのコンピテンシー評価に、評価者間のばらつきが大きすぎる
◆ 結局のところ、コンピテンシー評価は情意考課に近い運用になってしまっている

と言うような理由です。

その、本質的な理由を整理してみると、以下のようになります。

大前提として、コンピテンシー評価とは人の行動発揮度合を評価するものです。
それにより、過去の行動の再現性を踏まえた、将来の期待まで評価できます。

一方、それが制度になったとき、運用の現場で、3つの問題を生じさせます。
通常、コンピテンシー評価では、ハイパフォーマーの行動規準をもとに評価の定義が作成されます。
そして期初にその内容が提示され、期末に自己評価⇒1次評価⇒2次評価、と言う順で評価が確定します。

第一の問題は、評価基準が行動そのものを網羅できない点です。
例えば、期初に大失敗して期末に大成功した人と、期初に大成功して期末に大失敗した人をどう評価するか、というようなことです。
制度としてはもちろん答えを出すのですが、要は行動の再現性をデジタルに評価することが極めて困難なためです。
そのために基準を精緻化すればするほど、実体とはかい離してしまうという矛盾を生じさせます。
実際、最近私が設計するコンピテンシーモデルでは、個別の行動規準は多くても8つまでです。5つに留める場合も増えています。
網羅することを目指すのではなく、キーになる行動をしぼってしまうのです。

第二の問題は、評価者側の期待が先行することです。
コンピテンシー評価制度を導入する企業では、多くの場合、人材育成に対する様々な研修を管理者に対して実施します。
そこではコーチングのテクニックを用いた部下の育成、組織力を高めるチームマネジメント、そしてリーダーシップ発揮のための自分自身の律し方などを教えます。
その教育と、厳密に行動を評価する、ということとの間での管理者の意識に矛盾が生じてしまうわけです。
もし部下のコンピテンシー評価が低くなる、のであれば、それは管理者側の教育が不十分であったから、という気持ちにさせてしまいます。
だから、よほど悪い行動でない限り、無難な中間の評価に落ち着きがちです。

第三の問題は、自己評価の存在です。
管理者に一から部下を評価しなさい、といっても、多くの場合、部下自身の自己評価を参考にしながら評価がされてしまいます。
そこで管理者が取ってしまう行動は、自己評価に対する上積みです。
全部中間のB、だと自己評価したシートに対して、特に部下教育についての研修をきっちり受けた管理者ほど、「いや、彼はこういう点が優れているからこの行動はA評価にしよう」という評価をしてしまいます。
結局、評価結果は年を経るごとに右肩上がりになってしまいます。

これらに対してもちろん評価者訓練での明確な答えはあります。
私自身もそのような研修を何十回となく多くの会社で繰り返して、運用面の是正を達成してきました。

しかしそれでもなお、コンピテンシー評価だけに頼った昇格・降格判断は、「本当にこれでいいのか?」という昇格・降格結果を生んでしまうことがあります。

また、コンピテンシー評価で昇格・降格判断をするとき、意外なことに、抜擢がしづらくなる傾向もあります。
なぜなら抜擢とは、完璧な人を引き上げるのではなく、極めて尖ったいびつな人を引き上げる時に使われる仕組みだからです。
現場の細かい作業は全然ダメなんだけれどもコミュニケーション能力が極めて高く顧客からの受注やリピートは彼でもっている、とか、逆にコミュニケーション能力はまったくないと言ってもいいのだけれど作り出す製品の革新性やデザインが突出している、というような場合です。
もちろん、完璧な人を引き上げる際にも使われることはありますが、実際にはそう言う人には少し現場でもまれて段階的に昇格することを期待したりします。可愛い子には旅をさせろ、ということわざもありますね。

この問題に対する答えは、私はセブン&アイホールディングスの鈴木敏文さんの言葉に隠されていると思っています。
それはこんな言葉です。
「我々は売り手の発想で、どれが一番多く売れたかに関心が向きがちです。量で見るのが一番楽だからです。しかし、どんなに量が出た商品でも、それは昨日までの売れ筋であって、明日の売れ筋ではありません。」

評価結果とは過去の売れ筋を測るものです。
理屈上はもちろん行動の再現性を評価しているので、未来の期待を評価しているはずです。
だからコンピテンシー評価は大いに参考にされるべきです。

しかし、その運用は徹底されているのか。
評価者間の誤差を縮める努力は永続的になされているか。
そして、評価を受ける側に、コンピテンシー評価の意義がちゃんと理解されているか。そのための研修は繰り返し行われているか。

そうして、評価結果だけではない、未来への期待を判断することが、企業の発展に資する昇格判断になると考えます。
商品ではない「人材」における、未来への期待とは、本人の意思や意欲とも切り離すことができません。
それは結局のところ、ともに企業を発展させたいと願う人を引き上げるということだと思うのです。

 

セレクションアンドバリエーション株式会社

平康慶浩