あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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なぜ転職はあたりまえになっていないのか(1)

転職ってあたりまえだよね、と思っていたのですが、どうもそうではないな、と最近気づき始めました。
私が勘違いしていた理由は三つあるようです。

第一に、私が所属しているコンサルティング業界では転職があたりまえだった。
第二に、シンクタンク時代に中堅以下の会社を数多く見てきた中で、それらのクライアントでは転職が目立っていた。
第三に、多くの若者が早めに会社をやめる、とかのキャッチコピーをそのまま信じていた。

この三つから勘違いしていましたが、統計的にはどうもそうではない、という当たり前のことに気づきました。
自分の勘違いを正してみますと

コンサルティング業界では転職があたりまえ?】
最初に入社したアクセンチュアではUp or Outでした。そもそも、当時まだ定年退職した人がいない会社でした。
その後、横滑り的に(東京に行きたくなかったので)転職したアーサーアンダーセンでは、会計士以外は転職組がほとんどでした(そもそもコンサルタントとしての新卒はいたっけ?)。
ここまででほぼ10年間の社会人経験をしていますので、勘違いの素地が形成されました。
しかしその次に転職した日本総合研究所では、転職組も大勢いましたが、新卒も少なからずいました。
そして外資系二社と一番違ったのは、会社の方針からして、終身雇用だったことです。なんといっても、三井住友フィナンシャルグループの子会社ですから。
しかしこの時点ではまだ、(まあ終身雇用は銀行から出向してきた方々向けだよな)と思っていました。
その後、外資系以外のコンサルティングファームの方々とのお付き合いが増えると、そこで働いている人たちが、決して転職に積極的ではない、ということもわかってきました。
あれ?転職ってあたりまえじゃないの?という疑問はこのあたりから芽生え始めました。

【クライアントでの転職者】
中堅以下の企業では新卒が十分に確保されていない場合があります。
そのため、必要な人材を中途で確保する。その様子を多く見てきました。
だから、やっぱり業界を問わず転職は当たり前になってきているんだな、と感じていました。
しかしよーく考えてみると、60~80%くらいの人たちは転職未経験だと気づきました。
あれ?おかしいな。という感覚はさらに強まりました。

【キャッチコピー】
なぜ若者は3年で会社を辞めるのか、というベストセラーもありましたが、最近になってそうなったわけではない、という当たり前のことに気づき始めました。
昔から、入社後3年で会社を辞める人は同じ割合でいて、それは変わっていない。
また、人材紹介会社のCMも多数あってそれにもまどわされていました。
「キャリアアップの転職」というキャッチコピーですね。
でも、先日、仕事で出会った某人材紹介会社出身の偉い人と雑談していて、やっと「勘違い」だったと確信するに至りました。

「キャリアアップの転職って、ただのキャッチコピーなんですよ。背中を押してあげるためのね」

「実際、大半の転職者は今の職場が嫌だから転職するんです。その後ろ向きな思いを、『あなたは間違っていないんだよ』と背中を押してあげる。それが『キャリアアップ』と言う言葉です」

なるほど。
わかってみれば、身もふたもない。

で、この話を書くのは、別に転職経験者をDISる目的ではありません。
そもそも私も2回転職していますし(独立含めると3回ですね)。

日本での平均転職回数は、正確な数字ではありませんが概算で1回を割ります。
だいたい正社員として就職したうちの、60%の人が一度も転職しない人生を送るようです。

だとすれば、あれ?まずいんじゃない?と思ったのです。

転職はあたりまえになっていない。

転職があたりまえでないと、仕事ができる人もできない人も、今いる会社で頑張るしかない

これって会社にとっても働く側にとってもデメリットが大きいんじゃない?

そのデメリットは一言で言えば、ミクロで言えば、互いにしがみつく、ということです。
マクロ的には、就業者の産業間移動がなされない、ということでもあります。
その詳細と、デメリットを解消するための方策については次回書きます。

ちなみに、ほとんどの会社が終身雇用・年功序列なら転職できないことのデメリットはあまり生じません。
しかしそれは社会全体が右肩上がりで成長している時代にしか不可能なので、後戻りはできない、としておきます。

あと、このお話は自己啓発とか人材育成ではなく、労働力市場におけるマーケット・マイクロストラクチャーのお話であることにご留意ください。


 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)