あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

外国人実習生を受け入れている経営者の実体(悪い方)

今日の日経を読んでいて、昔経験した嫌なことを思い出しました。
給与の天井とか、いわゆる成果主義人事制度をどんどん導入していった私でも、さすがに悪事の片棒はかつげないと判断した経験です。

日経の記事はこんなタイトルです。

「外国人実習生 絶えぬトラブル」
2013年5月6日の記事です。ネットでも一部は見ることができます。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、日本には外国人研修制度というものがあります。
開発途上国への技術移転を目的とした制度で、1年以内と言う期限を区切って外国人を日本に招き入れて、実際に各企業で働いてもらいながら技術を身に着けてもらう、というものです。
日経新聞によれば、毎年の受け入れは14万人。75%が中国出身で、ベトナム、フィリピンが続くそうです。
そしてこの制度の主旨に反して、受け入れる経営者側は「安価な労働力」として活用し、実習生側には「出稼ぎ目的」もいる、ということです。

日本総研に勤務していた時代の話ですが、銀行からの紹介で、とある企業を訪ねました。
目的は企業側の人事制度を改革したい、と言うお話です。地方の製造業であり、業績は決してよくはありません。だから依頼内容は残念ながら「悪い意味での」成果主義化でした。

年功で上がる給与をカットしたい⇒なら、給与に天井を設けましょう
賞与も昔ほど払えない⇒利益にあわせて連動できるようにしましょう
使えないお荷物社員を退職させたい⇒早期希望退職の仕組みを導入しましょう

具体的な提案書作成に向けて、そんな事前打ち合わせを社長、総務部長と行いました。
打ち合わせがひと段落して、雑談になりました。
「そういえばうちでも外国人研修生を使ってやってるんですよ」
『やってる』というあたりに少し違和感を感じましたが、初対面での打ち合わせです。とりあえず「やっぱり海外への工場移転もお考えですか」と応えると、社長が手を振ります。
「工場移転なんてそんな金はありませんよ。でも安い労働力は欲しいから、最賃以下で使えるっていうので、入れてやってるんです」
隣で総務部長もうなずきます。
「あいつらろくに仕事も覚えませんからね。今の時給でも高すぎるくらいで」
社長がそれに応えて笑います。
「本国に帰らないために逃げ出すことしか考えてませんからね、あいつらは。だからうちではパスポートは預かってますよ。外出も週に一回、成績がいい奴だけですね」
「……はあ」
「このあたりは住宅地も離れてるし、一番近いコンビニだって20分は歩かないといけない。出稼ぎ目的じゃない、って名目だから仕送りもいりませんしね。だから給与も1年後にまとめて渡してやる、ってことにしてますから。こうでもしないと奴らは真面目に働きませんからね」
「……はあ」
「実際、日本人の給与は高すぎますよ。こんなんじゃうちみたいな企業はつぶれるしかなくなりますからね。だからまあ、外国人研修生はそれとして、日本人向けの人事制度もうまく給与を上げない仕組みで、一つお願いします」
「……わかりました。ちなみにこれからの事業計画もいただければと思うんですが」
「銀行さんに渡しているものならありますけど、実際には無理な数値が並んでいますよ」
「現実的にはどうなんでしょう」
「なるようにしかならないですね」
その言葉を聞きながら、自分が営業笑いを出来ていたかどうかは覚えていません。

その日の打ち合わせを終えて、再度提案に訪れる際、私は提案書の内容は先方の希望に合わせて作りました。ただ、値段を通常の倍に設定しました。
もちろん仕事の受注には至りません。

私はほっとしました。

紹介者の関係もあるし、そもそも守秘義務の関係があるので、上記の話はその後誰にも言えませんでした。関係機関に告発しようか、とも思いましたが、銀行担当者に強く止められましたし、そんなことをしたらそもそも職業倫理に反することになります。

財務諸表を見る限り、その企業の経営状態がとても厳しいことがわかっていました。
だから人件費を削りたい。そこまでは仕方ないと思います。
でも、経営者にしかできない仕事があって、その仕事をしない限り、人件費を削ってもそれは延命措置にしかなりません。
経営者にしかできないこと、それは先の成長の夢を描くことです。
その夢を伝えて従業員や取引先、銀行などの利害関係者に共感してもらうことです。
そう言う仕事をせず、人権侵害までしている企業経営者とは仕事ができない、と判断しました。

それから3年くらいして、その会社が倒産したということを、当時の銀行担当者経由で聞きました。企業の倒産はとてもつらいことですが、因果応報、と言う言葉を思い出しました。

 

 

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平康慶浩(ひらやすよしひろ)