あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

就活前の学生たちの前でお話ししてきました

大阪市立大学時代の先輩が大学講師をしておられる関係で、3年生向けに1時間ほどお話をしてきました。
最近の学部生がどんなふうに話を聞いてくれるのか、大学院でしか話したことがないので少し不安だったことは事実です。

でも、みんなとてもまじめに聞いてくれました。

ブラック企業という定義の本当」
「学生でもわかる優良企業の見極め方」


などを話した後、こんな話をしました。

    
「社会にでたあとのための心構え」
 君たちは社会に出た後、今と違う生活に慣れてゆきます。
 そんな中で、特に5つのことをあらかじめ考えておきましょう。

 第一に、君たちが入った会社でいつまで働くか、ということ。
 これからの日本社会は大きく変わってゆきます。そして、新卒で入った会社に定年まで勤める人の割合も、どんどん減ってゆきます。
 転職する人もいれば、ただ仕事が嫌でやめる人もいます。リストラにあう人だっています。
 だから「会社に骨をうずめる」なんて気持ちは持ってはいけません。
 会社は君たちの人生を保障してくれるわけではありません。
 君たちの人生は君たちが考えないといけない。
 だから、そもそも一生この会社で働くわけじゃない、ということをまず考えておきましょう。

 第二に、仕事とプライベートの切り分けで悩んだとき
 そのときどうすればいいかを覚えておきましょう。
 親しい人に「わたしと仕事とどちらが大切なの」と問い詰められることがあるかもしれない。
 あるいは「プライベートよりも仕事を優先しろ」と上司に説教されるかもしれない。
 そこでどう考えればいいのか。
 答えのひとつは、仕事とプライベートの境目をどんどん減らしていくことです。
 そんなに難しいことではありません。
 たとえば飲食店で働くのなら、プライベートで行ったレストランや居酒屋で、客の人数、テーブル数、従業員数などを数える癖をつける。そして自分ならこの店をどう切り盛りするかを考えてみる。そのことを話のネタにしてもいい。
 保険代理店で働くのなら、同じ電車で通勤する様々な人の生活を想像してみる。老若男女とわず、その人の人生の「まさか」を考えてみる。そこで役に立つ保険があるだろうか、と考えてみる。
 仕事をしている時間も、プライベートの時間も、両方とも君たちの一日です。どちらかがより大事だ、ということはありません。

 第三に、会社をやめたくなったとき
 やめていいんだ、ということを覚えておいてください。
 理由は何でも構いません。朝起きるのがつらいから、なんてばかばかしい理由でもかまいません。「朝起きるのがつらいから」やめたい、という人は、実際には別の理由でやめたいわけです。でもそのことを自分でも認めたくないからその理由にしてしまう。
 それでもいいんです。
 ただ、いつでもやめられるように準備をしておいたほうがいい。
 それは、ちょっとした人間関係をつくることから始められます。
 たとえば自分より先に会社をやめる先輩の送別会に顔を出して関係を保っておく、とか、営業先のお客さんと雑談しながら個人的な関係を深めておく、とかそんなことです。
 実際転職する人の4人の1人は知り合いの紹介で転職しています。
 いつでも会社をやめられるように、いつでも自分に仕事を紹介してくれるような人間関係を作っておきましょう。

 第四に、将来に対する夢を持つ、ということです。
 ただし、この夢は数字にしないでください。
 30歳までに年収1000万円になる!とか、貯金500万円を貯める!、とかの夢は持ってもいいのですが、それはまあ適当でいいです。
 それよりも、もう少しバカバカしい夢を持ちましょう。
 たとえば私は就職するとき、「都心の高層ホテルの部屋で深夜まで資料をつくり、メールでその資料を送り終えた後、夜の街を見下ろしながらワインをあける」というライフスタイルにあこがれました。そしてそれは実際に3年ほどで実現しました。
 そしてそのころには、次のバカバカしい夢ができていました。
 夢、とは目標と言い換えられます。
 この目標を数字にしてしまうと、できなかったときにへこみます。
 さらに、長期の目標だと途中でできないことがわかってしまったとき、あきらめ感が強まります。たとえば30歳までに年収1000万円という目標をたてていても、28歳くらいで年収500万円だったら、こりゃ無理だ、とあきらめてしまいます。俺はダメなやつだ、とか思ってしまうかもしれない。
 そうならないようにバカバカしい夢≒目標をたてるのですが、これは実は「こうなっていたいという状態」を描こう、ということでもあります。専門用語で状態条件といいますが、状態条件として目標を設定しましょう、ということでもあります。

 第五に、最後なんですが、自信をなくしたときにどうすればいいかを考えておきましょう。
 社会人生活は思ったよりもつらかった
 たいしたことがないと思っていた同期が成功している
 仕事をしてみたら思うようにいかず、いつも叱られる
 そうして自信をなくしたときにどうすればいいか。
 私がおすすめするのは「ひきこもる」ことです。逃げていいんです。
 具体的には週末の土日に食料を買い込んで一人の部屋に引きこもる、とか有効です。
 そして友人や知人と連絡をとらない。それからなるべく一人でできる自堕落な生活をします。
 ゲームにはまるのもいいし、漫画をよみふけってもいい。
 飽きるまでそうして、それから(そろそろ立ち上がらなきゃな)と思ったら立ち上がってください。君の自信は、君自身でしかとりもどせないからです。
 これから君たちは就職活動を始めます。エントリーがインターネット経由になったために、企業側にはとてもたくさんの応募が来ます。
 あまりにもたくさんの応募がくるから、とても簡単に落とされることになります。
 社会に出る前に、就職活動の時点で君たちは自信をなくすことになります。
 でも、必ず立ち上がれます。
 自信をなくしたら逃げればいい。
 そのことを覚えておいてください。



あらためて書いてみると、文章だけだと誤解されそうなところもありますね。
でもまあ、学生たちの評判はとても良かったようです。



平康慶浩(ひらやすよしひろ)