「倍返し」なんていらない
半沢直樹、面白いですね。
私も毎回楽しみにしています。
さて、今年の流行語対象にもノミネートされそうな勢いの「倍返し」。
物語の中では、悪辣な上司に対して、弱い立場の部下がさまざまな手を駆使して立ち向かいます。そのことで「倍返し」に成功するわけですが、現実ではなかなかそうはいきません。
もちろんだからこそドラマが面白いのですが、なぜ現実ではそういかないのかを考えてみましょう。
そうすれば、実際に自分が上司に苦しめられた時に、どうすればよいかがわかるはずです。
■ 第一ステップ パワハラ上司は「悪」なのか?
人事の仕組み(人事制度)をつくるとき、さまざまな立場の方々にヒアリングをします。
すると、仕組みづくりとは関係のない情報も入ってきます。
そのひとつに、「パワハラ上司の情報」があります。
部下の手柄を横取りする。
無茶な仕事の割り振りをする。
あきらかに特定の人物だけ貶める、などなど
まだ駆け出しのころ、こういう話を聞くと「じゃあその上司をなんとかしないといけませんね!」と勢い込んで人事担当の役員や部長に話したりしたものです。すると、上司にたしなめられました。
「一方からの意見だけで判断するのがコンサルタントじゃないだろ」
なるほど、と考え、次に上司側へのヒアリングの際に、さりげなく確認します。
するとこんな話が聞けたりしました。
部下が途中で仕事を投げ出して帰るので仕方なく土日を使って資料の最終化をしてやった。せめて感謝の言葉くらいほしいのだけれど、上司が尻を拭いて当たり前だと思っている部下が多い。
育てようと思って少しレベルの高い仕事を与えると、「教えられていません」と平気でいう。「じゃあ教えるから頑張ろう」といったら次の日から出社拒否になる。
新卒でも定時に追われる仕事を、フォントの調整だとか行末の調整だとか、自分の勝手なこだわりで10時過ぎまで残業し続ける。帰れと言っても帰らない。あげくのはてには、「これだけ長い時間頑張っているのに評価が低い」とゴネだす。
はて。
上司の話を聞くと、上司側の意見がもっともなようにも思えます。
こういった作業を繰り返す中でわかったことがあります。
会社の中での人間的な対立は「両方正しいことがほとんどだ」ということです。
半沢直樹の物語では明らかに悪い上司がいますが、これは犯罪行為をしています。こういう上司はもちろん絶対だめなんですが、そうでないことの方が実は大半です。
となれば、もし「両方正しい」状態で、部下が倍返しをしたらどうなるでしょう。それは上司のさらに上司から見れば、ただの無法行為にしか見えません。
そんな無法行為を部下に起こさせてしまった上司も何らかの罰は受けるでしょう。でも、無法行為そのものを行った本人は、懲戒解雇や法的な処分を受ける可能性すらあります。
あなたがもしひどい上司のもとにいるとしても、あなたにもまずい点がないのか、じっくり考えてみた方が良いかもしれません。
■ 第二ステップ 社内の同僚や部下は味方なのか?
あなたがひどい上司のもとにいるとして、なんとかその上司に「倍返し」したいと思ったとします。
でも、自分の方がまずいのかもしれない、という懸念も起きる。
それを確認するためにできることがあります。同僚や部下が味方になってくれるかどうか、です。
テレビドラマの中では、主人公の部下である課員、同期入社の面々が味方になってくれます。小説版ではもう少し状況は違いますが、概ね同じと考えてよいでしょう。
もし、あなたの方に非があるのなら、同僚や部下は決して味方になってくれません。それどころか次第にあなたから距離を置き始めることでしょう。
一方で、上司にだけ非があるとすれば、どうでしょう。
おそらく、やはり彼らはあなたの味方にはなってくれないことでしょう。
上司に睨まれている同僚を助けて、得をする人はいないからです。
だからあなたが「倍返し」をするためには、基本的に一人で行わなくてはいけません。
でも一人からでもできることがあります。
■ 「倍返し」の面白さは「仲間づくり」にある
半沢直樹の「倍返し」の物語は、実は悪辣な上司に報復する爽快感だけが売りではありません。むしろそれは結果であり、最後に来るであろう予定調和としてみんなが期待しているものです。
実は、毎回の連載では、別の部分が私たち視聴者を爽快にしてくれています。
それは「仲間を作るプロセス」です。
かつての同期が情報をくれる。
どっちに転ぶかわからなかった部下たちが、自分と一緒に立ち上がってくれる。
債権者が共に動いてくれる。
様々な人々が、主人公に手を貸してくれます。
彼らは最初から主人公の仲間だったというわけではありません。
状況を見て、明らかに上司が理不尽だ。むしろおかしいくらいに。
そして上司はいくつものカードを持っています。
エリートとしてのキャリア
役員との太いパイプ
人事部出身という経歴
自分のために身を粉にしてくれる部下たち
幼いころの友人関係 などなど
これらのカードに対抗できる仲間を獲得し、そのカードをひっくり返してゆく。
最後にやってくる「倍返し」は必然とすらいえます。その必然を期待させるために、プロセスが活きてくるわけです。
もしあなたが「倍返し」をしたいのなら、「仲間を作るプロセス」を踏襲しましょう。
つまり、仲間を作っていくのです。
あなたがしたいことのために
・情報をくれる仲間
・手伝ってくれる仲間
・一緒に動いてくれる仲間
・別の視点から動いてくれる仲間
・困ったときに助けてくれる仲間
ひっくり返すべきカードがいくらあろうとも、仲間がしっかりそろってさえいれば、あなたは「倍返し」に成功することでしょう。
さて、あなたが仲間づくりに成功した時に、気づくことがあります。
あれ?何のために「倍返し」するんだっけ?ということに。
■ 今、倍返しじゃない選択肢はいくらでもある
ドラマの中の話は、旧い人事の仕組みの世界です。
終身雇用と年功序列。その中では、同期の間での熾烈なポスト争いもあります。
争いに敗れると、終身雇用は維持されるものの、子会社や取引先に片道切符で出向させられます。
旧い人事の仕組みの世界は、単線レールの世界です。
レールから外れてしまうと、どこにもゆけません。
レールの上を走れるように整えられた車輪では、道なき道どころか、アスファルトの上すら走れません。
だからこそ、「倍返し」しなければ、生き残れない世界です。
あなたが今いる会社は、そういう世界でしょうか。
仮に、単線レールの会社にあなたが今いるとしても、社会は変わってしまっています。社会は単線ではなくなっているのです。
あなたがしたいことのために仲間を作れたのならば、そんなあなたになら、できることはいくらでもあります。
別部門への異動
社内での新規事業立ち上げ
不採算部門の立て直し
そんな社内での活動は、あなたにとっては楽しみになるはずです。
あるいは
社外に通じる付加価値を作り出す活動もできます。
転職のような、ステージの切り替えも可能でしょう。
また、副業をはじめてそれが軌道にのれば、起業も決して夢ではありません。
何よりも、仲間を増やしているあなたの生き方を、周りが応援してくれるようになります。
「倍返し」という暗い気持ちにとらわれなくても、「倍返し」と同じ方法で、新しいキャリアを作り出すことができるのです。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)