あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

さよなら能力評価(前編):潮目が変わった人事制度 第1回

人事制度の潮目が変わってきたなぁ、と感じる。

過去と言ってもそんなに昔じゃない。たとえば10年前とかそれくらいの常識が、2014年の今年くらいから大きく変わっていく気がしている

 

僕は売上高ウン千億円の大企業や数百億円の中堅企業、100億円以下の中小企業までいろいろとお付き合いしている。

そんな大企業から中堅、中小企業に至るまで、どの大きさの会社でも、この変化は起きている。

変化の主なものは、「評価制度」と「報酬制度」だ。

 

今回はまず、評価制度の潮目の変化について書いてみよう。

 

 

■ 10年前の評価制度とはどんなものだったのか

 

評価制度には大きく2種類ある。

この「評価制度が2種類」と言う考え方自体が変わってきているポイントなのだけれど、あえてこれまでの常識で書いてみよう。

一つ目の評価制度とは「昇給判断のための評価」だ。

 

【昇給判断のための評価】

昇給判断の評価は、おおよそ3種類が混在している。定義はいろいろだけれど、広い意味でいえば全部「能力評価」だ。

 

①勤務態度の評価:遅刻をしないとかホウレンソウがしっかりしているとか。

オールドスタイルな企業では今でも重視されていたりする。

 

②能力の評価:積極性とか論理性とか指導力とかが多い。

一般的な「できる人」と言う印象の裏付けになったりする。

 

③行動の評価:コンピテンシー、と言ったりもする。成果を再現する能力として、具体的に目に見えるものが行動だ、と言う考え方だ。チームワークやリーダーシップ、課題解決力や情報収集力、といった指標名が多い。

 

もちろんこれらは今も使われているし、その背景にある制度導入の根拠が薄れたというわけでもない。

 

いまでもこれらの評価制度は十分に通用する。

 

そもそもこれらの評価制度が普及しはじめた20年前とかだと、評価基準がない会社も多かった。

もちろん、便宜上AとかCとかの評価はするのだけれど、その基準がすごくあいまいだったりした。

そこで、せめて基準をしっかりさせよう、ということで3種類の評価基準のどれかが採用されてきた。

 

基準を作るだけではもちろん評価はうまくできない。

評価も運用をしっかりするために、面談のための教育も行う会社が多かった。いわゆる考課者研修というやつだ。

あるいは、評価を受ける側の教育が必要だ、ということで、被考課者研修、というのも行われたりしてきた。

 

そうして、評価の基準は適切に設定され、あるべき姿で運用されている。

 

でも、それらを捨てる企業が目に付き始めた

僕自身も経験した事例を説明してみよう。

 

 

■ コンピテンシー評価、廃止しませんか

 

僕が最初に変化を実感したのは、中小規模の某社だ。売上高は10億円から20億円の間くらい。

業績の急激な悪化に伴い、6年前に大規模なリストラを敢行し、4年前に人事制度を大きく変えた。いずれも僕自身が深くかかわった。

4年前の人事制度改革の時、給与改定の評価方法として、コンピテンシー評価制度を導入した。先ほど書いた例でいえば3つ目のものだ。

 

 リストラをするくらいだから人件費のパイは限られている。 

 それでも、結果につながる行動をとれている人に多く配分したい。

 そんな人の行動から学んで、多くの人に、結果を出せる人に育ってほしい。

 

そんな思いから導入した仕組みだ。

導入時の説明会、考課者研修、被考課者研修もしっかり行った。特に研修は半年に1回ずつ、2年で4回行った。

 

新しい人事制度が効果を発揮できたのか、あるいはたまたまなのか、この会社の業績は復活した。

2年連続で増収増益となり、人件費のパイも増やせるようになった。

そして再度、僕にお声がかかった。

 

 削った給与を戻してあげたい

 でもはっきりとした差は残したい

 これからも従業員たちに成長してほしいし、がんばってほしい

 そんな評価と報酬の仕組みに発展させたい

 

そんな要望だった。

それからプロジェクトとして何度も議論し、あるべき姿を検討した。

そうして僕たちは、結論に達した。

 

「じゃあ、コンピテンシー評価、廃止しましょう」

 

僕自身にとって、とても意外な結論だった。

しかし、とてもしっくりくる結論でもあった。

 

その後、そんな会社が増え始めている。

コンピテンシーのような能力評価による昇給判断をやめるとして、じゃあ昇給をやめてしまったのか、というとそうじゃない。

なんらかの判断は行うのだ。

それはとてもシンプルな判断方法だ。

 

 

 

【さよなら能力評価(後編)】へ

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

 

 

平康慶浩の著書はこちらから。 

7日で作る 新・人事考課 CD-ROM付 (Asuka business & language book)

7日で作る 新・人事考課 CD-ROM付 (Asuka business & language book)

 

 

 

 

 

うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ

うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ