あしたの人事の話をしよう

人事コンサルタント 平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

なぜ履歴書まで送ってきておいて面接に来ない人がいるのか?

 

「アルバイトの採用状況、どうですか?目標人数達成できそうですか?」

 

定例ミーティングでの僕の問いかけに、管理部門のYマネジャーは苦笑いした。

 

「厳しそう?」

「いえ、応募はあるんですが……」

「なにかまずいことでも?」

「ちょっとご相談しなきゃいけないかも、ですね」

 

その日僕が訪問していたのは、大阪市内にある顧問先だ。

どんな会社なのか具体的には書けないが、かれこれ3年ほどのお付き合いになる。

その間に人事制度も入れ替え、教育研修の仕組みもつくり、マネジャーの仕事内容もはっきりさせた。

規模は小さいけれども、今やどこに出ても恥ずかしくない、ホワイト企業だ。

この会社で、アルバイトを20名採用することになった。

3つの求人誌に広告をだし、ハローワークにも登録した。

僕の方では、時給を決め、採用基準を定め、昇給の仕組みをつくった。

さらに、採用面接のときにどんなことを聞けばよいのか、という面接マニュアルも作った。

そうして、採用の準備はほぼ整ったと考えていた。

 

「求人誌に掲載したのは先週初めでしたよね」

「はい。どんどん応募はあるんですよ。それで今週から面接を始めているんですけれど……」

「どんな問題が?」

「いや、実は面接に来ない人が多いんです……」

「こない?」

「ええ。いわゆるドタキャン、どころか、連絡もなしに来ないんです」

「道がわからないとか、あるいは急なことでもあったとか」

「そうかもしれません。でも、歴書に書いてある携帯に電話しても、出ないんですよ」

「割合はどれくらい?」

「だいたい50%です……」

 

面接進捗状況を確認するための応募者一覧シートを机に置いたまま、僕とYマネジャーは腕を組んで考え込んでしまった。

 

実際問題、これが居酒屋のバイトとかであれば、こういうことはよく起きる。

でもホワイトカラーの仕事ではあまり聞いたことがない。

 

「年齢は若かったりするんですか?」

僕の問いかけに、Yマネジャーは首を振った。

「ばらばらです。たしかに20代は多いんですけれど、40代の主婦とか、50代の男性とかもぶっちですよ」

 

ここまで聞いて、様々な可能性を考えた。

求人誌側には申し訳ないのだけれど、たとえば応募数をかせぐためのサクラの可能性もあるかも、とすら思った。

でもそんなことを想像していても仕方ない。

あれこれ思案したあげく、2つの対策を打ち出した。

 

第一の対策は、面接時の確認書類から「〇〇〇〇〇」を除外する、というもの。

第二の対策は、面接前に「××××」をする、というもの。

 

「とりあえず、この2つの対策を徹底してみてください。それで1週間様子を見て、ダメなようだったらもう一度考えましょう」

「わかりました」

うなずいたYマネジャーは不安そうだったけれど、採用数を確保できなければ、ビジネスに支障が出る。

どんな対策でも、やらないよりやる方が良いのだ。

 

*****************************

 

それから1週間後、僕たちはまたミーティングをした。

「平康さん、劇的に変わりましたよ!」

「おお、効果が出たんですね」

「はい。この調子で行けば、無事目標採用数を達成できそうです」

「それは良かった。じゃあこの調子で頑張りましょう」

 

うってかわって上機嫌なYマネジャーを前に、僕も気分がよかった。

これでオーナー社長も満足してくれるだろう、と安心もした。

 

僕がうちだした対策はとても単純なものだ。

 

第一の対策では「職務経歴書」を不要にした。

履歴書は先に郵送なりメールなりで送ってもらうけれど、職務経歴書は当日持参してもらうことになっていた。

しかし、実際の採用基準としては職務経歴は関係ない。

その人のスキルや行動特性を面接で読み取り、それで問題がなければ、あとは社内研修で教育をするからだ。

一方、職務経歴書を書く側の立場にたってみれば、ずいぶんと気がめいることが想像できた。

誇れる職務経歴であればいいのだけれど、ぶつ切りの職務経歴だったら書きたくないと思うこともあるだろう。それに職務経歴書を書くのは面倒くさい。

もしかして、職務経歴書を書ききれずに面接に来れないひとがいるのでは、と考えたのだ。

この対策の結果、採用判断をするYマネジャー側にとっても、業務が楽になった。保管、管理する書類が減ることは、手間を減らすことにつながるからだ。

 

そして、もう一つの対策

それは、面接の前日に「確認電話」をかけるというものだった。

「明日、15時から〇〇様とご面談させていただく予定ですが、ご予定にお変わりはありませんでしょうか?」

こんな電話を、面接予定者全員にかけてもらうようにした。

 

「まさかそんなことで改善するでしょうか?」

Yマネジャーは不安を口にした。

「まあやってみましょうよ。手間だけれど、それで改善するかもしれないし」

そう答えた僕だったけれど、もし面接ぶっちの理由が(面倒くさくなった)というものだったとすれば、これで改善するだろう、と予測していた。

 

そして実際に、大幅に改善してしまったのだ。

 

実はこの方法は、営業手法としての「YES取り」の応用だ。

一連の会話の中で、何度も「YES」と答える質問を繰り返すことで、こちらに対する好意を生み出すための方法だ。

 

また、心理学としての「ピグマリオン効果」や「マングローブ効果」も念頭においていた。

簡単にいえば、「あなたに会いたい」と言う期待感を前日の確認電話で改めて示し、そのことに対して「YES」「明日は〇〇時に面接に行きます」と口に出してもらうことで自分自身の行動を定めてもらう。

そんな効果を実現しようとした対策だった。

 

結果として、当日の無断ぶっちが激減した。

ということは、面倒くさいから面接に行かない人は結構いる、ということなんだろうか。

対策の効果は出たけれど、「面倒くささが原因だった」とまでは断定できないような気がしていて、でもまあそれでいいのか、とも考えてしまう。

 

結局のところ、どうなんだろう。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

 

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