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あしたの人事の話をしよう

人事コンサルタント 平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

残業代ゼロ法案で年収が23%アップする?

■ チェックが甘ければ確かに悪用されるかもしれない、けれど

 

著名な方々が、アベノミクスの労働時間規制の見直し=いわゆる残業代ゼロ法案について反対意見を示している。

山崎元さんのこの記事とか。

「残業代ゼロ」法案はブラック的で的外れ。労働の規制緩和は「解雇の金銭補償」で一点突破せよ! | 山崎元「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

 

 

まだネットにはあがっていないけれど、今週発売の週刊プレイボーイでは、古賀茂明さんも「安倍政権の労働政策は”下策”だ」と断じている。

(多分来週くらいにはネットにアップされるんじゃないだろうか)

 

ちなみに朝日新聞でもこんな記事が掲載されている。

残業代ゼロ、長時間労働の歯止めなし 抵抗できぬ働き手:朝日新聞デジタル

 

たしかに、何時間働いても給与は一緒にしちゃうよ、と言う仕組みだとすれば、サービス残業の合法化だ!と論じたくなる気持ちはわかる。

でもそうじゃない考え方もあるわけで、城繁幸さんのこの記事とかわかりやすい。

残業チキンレースにそろそろサヨナラしよう! --- 城 繁幸 : アゴラ - ライブドアブログ

 

ちゃんと厚生労働省が提示している原案資料とか見ると、決して「サービス残業を認めちゃいますよ」法案でないことはわかると思うのだけれど、ただ実際に新しい法律ができたらそれを悪用しようとする人たちがいることも事実で、そのあたりのチェックというか監視・監督はしっかりしなきゃいけないとは思う。

 

まあ、著名な方々がおっしゃっているのは、残業代ゼロ法案=正確には「日本型新裁量労働制」なんて採用するよりも、解雇規制の緩和とか、同一労働同一賃金の徹底を優先させろよ、と言うことだ。

それはそれで確かに重要なことなので、あとは政権の優先度判断に任せるしかないとは思う。

(個人的には、「日本型新裁量労働制」は、「解雇規制の緩和」とセットにしたらもっとうまく機能すると思う。)

 

 

■ 今すでに働いている人の年収が下がるわけではない

 

僕は人事評価制度をつくる仕事をしているので、その立場から一点だけ、大きな誤解を正しておいた方がよいんではないかなぁと思う。

それは、日本型新裁量労働制が適用されたとしても、ほとんどの人の年収が下がるわけではない、ということだ。

 

これは実際に、裁量労働制と言う仕組みを会社に適用してきた人事部門や人事コンサルタントならわかってくれると思う。

 

裁量労働制を導入するとき、残業代をゼロとして年収を決定するわけではないのだ。

裁量労働制を導入する際には基本的に、「裁量労働手当」を毎月加算して支給する。

その際には、裁量労働制を適用する人たちの、実態としての残業時間平均を割り出す。

 

とはいえ法律で定められた上限はある。

労使合意で調整はできるとはいえ、年間の残業時間上限は360時間だ。

月毎でいえば45時間まで認められるけれど、仮に45時間残業を8カ月続けたら、あとの4か月は残業してもらうことができない。

 

だから法律の上限ぎりぎりで裁量労働制を設計するとすれば、30時間分の残業をしているものとして計算する。

その上で、実際に残業してもしなくても、その分の給与は保証しますよ、というのが本来の裁量労働制だ。

 

30時間の残業代、といえば、単純計算すれば月給の約23.4%(月160時間労働として、30時間分では時給を1.25倍している)だ。

月給30万円の人なら約37万円、月給50万円の人なら約62万円を固定的に払うことになる。

決して元の月給30万円とか50万円だけを支払って、なんとか8時間以内で仕事を終わらせなさい、と言う仕組みではないのだ。

制度を導入する際の残業見合い時間の計算(労使協定)にもよるけれど、裁量労働制は残業代を含まない年収の20%~30%アップの年収で適用されることが多い

おそらく、日本型新裁量労働制が施行されるときにも、そのような設計がされることになるだろう。

 

 

■ もちろん運用面の課題はある

 

全社員が毎月30時間以上の残業をしている会社というのは実はそれほど多くはない。

「うちは残業代がかさみすぎるので、なんとか残業時間を減らしたいんです」

と言う相談を受けて分析してみると、実際にとんでもない残業をさせられているのは1割の社員だけ、と言うことも多い。

だから、実際に残業に波がある従業員(60時間残業する月もあるけれど、20時間のときもあるような人)にとってみれば、裁量労働制の結果、年収は増えたし、自由度も増えた、と言う場合だってある。

 

ただしもちろん問題はある。

とんでもない残業をさせられている1割の人たちにとってみれば、サービス残業をしろ!という制度に見えてしまうからだ。

 

制度を設計し導入する立場でいえば、それとこれとは別問題だ。

 

とんでもない残業をさせられている人たちは、とても優秀な人たちが多い

優秀だから仕事が集まってきてしまう。

本人もまじめで、やる気もあるので、どんどん引き受けてしまう。

そんな人たちが会社を引っ張ってくれている場合も多い。

 

会社にとってみれば、優秀な人たちにやる気を失われてしまったり、過労で倒れてしまうことの方が問題だ

だから、彼らが過度の残業をしなくても良い状態を一緒になって考えるようにする。

上司が悪ければ上司を変えたり、部下やアシスタントを増やしたりもする。

そうして、健康的に働ける時間以内に収めるように努力をしている。少なくとも、まっとうな企業ならそういう取り組みをしている。

 

 

■ 誤解がブラック企業をつくる場合だってある

 

僕が懸念するのは、残業代ゼロ法案、としてのメディア報道が強まれば強まるほど、間違った理解が企業に広がることだ。

今の裁量労働制だって、ちゃんと設計して運用すれば、決してサービス残業を強いる仕組みではない。

ブラック経営者が、間違った理解を前提として間違った運用をしていることの方が問題だったりする。

 

以前書いた記事でもとりあげたように(人事制度を理解すれば転職で損をしない(前編) 年俸制は損か得か? - あしたの人事の話をしよう)、年俸制だって「残業代を払わなくてよい仕組みだ」と誤解している経営者がとても多い。

 

日本型新裁量労働制の現時点の資料を読む限り、余計な残業代を支払わなくするための企業側のための仕組み、というわけではなく、「ホワイトカラーの生産性を高めよう」という仕組みだ。

 

それは企業側に対して、社風の変革を求める仕組みなのだ

従業員に裁量を与えて、創造性を高めてもらって、効率的に利益を生み出していきましょう、ということが目的である以上、会社も従業員に甘えることができなくなる。

「もうちょっと残ってやっていってよ」

「え?もう帰るの?」

という仲間意識を捨てなければいけなくなる。

そして

「こんなに早く終わるなんてやるじゃん」

「まだ残ってるの。仕事抱え込みすぎじゃない?」

という社風に変わらなければいけなくなる。

 

裁量労働制とは本来そういう仕組みだ。

だからむしろ、こういう法案ができた時には、ちゃんと法律の意図通りに運用しなきゃだめだ!という世論をつくることの方が重要じゃないだろうか。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

平康慶浩の著書はこちら。

 

 

 

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