あしたの人事の話をしよう

人事コンサルタント 平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

社員が少ないからと言って人事制度設計は簡単じゃない

100人以下の会社で人事制度設計を頼まれることがあるが、僕はコンサルティングにかかる費用を値引きすることはない。

なぜかといえば、人数が少ないからこそ、制度設計が大変なことが多いからだ。

 

たとえば100人の会社と1000人の会社があるとしよう。

人事制度をつくる手間がどれくらい違うか、といえば、実は100人の会社の方が多かったりする。

なぜなら、100人の会社では、従業員全員の顔が見えているからだ。

一方、1000人の会社では、大半の従業員の顔が見えない。

その理由は採用方法の違いによる。

 

1000人の会社だと、まず新卒採用をしている。毎年10人~30人くらいを新卒採用して、彼らを教育し、配属し、育てていく。

1000人の会社の人事部は、2014年卒とか2015年卒とかの年次で人事管理をしていく。

 

一方で100人の会社だと、新卒は少ない。新卒採用を3年やってみたけれど、最近2年はやっていません。そんな会社が多い。

そして、各部署の人員は、誰しもが一人一人の中途採用者だ。だから人事部は一人一人の顔を見て、覚えて、処遇している。

 

1000人の会社でも100人の会社でも、組織のあり方によって人事制度の検討時間は変わる。職種が増えるほどに、検討に時間がかかる。それは企業規模の関係しないことが多い。

たとえば、1000人の会社と100人の会社にそれぞれ職種の数が同じだったとしても、1000人の会社では年次管理ができている。だから、一番単純な話でいえば、職種単位の人事制度を検討すればそれで事足りる(もちろんそれも大変なのだけれど)。

職種の数を仮に5とすれば(営業、生産、開発、物流、管理)、作るべき制度は5つで済む。

 

一方、100人の会社だと、職種区分があったとしても、一人一人に期待することが違うことが多い。システム担当で採用したけれど、経理の手伝いもしてもらっている。営業として採用したけれど、企画もまかせている。

100人の会社では、多能工型で人を育成せざるを得ないからだ。

一方1000人の会社では、単能工であるほうが効率がよい。だからそのように育てる。

だから極端な場合、100人の会社で100とはいわずとも、20以上の仕組みを検討しなければいけないことだってある。営業兼開発、生産兼物流。そんな多能工を正当に処遇して成長させるためには、複雑な検討を踏まえた、単純化が求められる。

 

つまり、人事制度を設計するとき、単能工の集まりに対する制度設計は難しくない、ということだ。

それぞれの職種の特徴を踏まえて評価制度を設計し、報酬水準を定め、給与改定方法を定め、賞与基準を定めればいい。

しかし多能工に対しての制度設計は極めて難しい。

近年の成果主義的人事制度で忌避されている、「人を見て処遇する」ことを是としなければいけない場合すらあるからだ。

職務主義としての処遇の限界がそこにある。

職務主義は、大勢がいる会社で生きる仕組みであり、少数の会社では運用がとても難しい。

 

たとえば弊社でも、企業アナリストとして採用したMBAホルダーに、DMの袋詰めをお願いすることだってある。それは彼の職務ではないし、袋詰めをお願いするべきアルバイトの人件費と彼の人件費はあわない。彼に袋詰めをお願いすることは、弊社にとっては損のはずだ。でも小規模の会社だと、そんなことは言っていられない。弊社の例は極端かもしれないが、そんな事例は山ほどある。

 

あるべき論から言えば、少人数の会社に対しては、組織整理を促すべきだ。

ポスト毎に任せるべき職務を定めて、それぞれの責任と権限を定める。

そうして彼らひとりひとりにモチベーションを与えていく。

そうすべきだけれど、できない会社の方が大半だ。

 

僕は1万人以上の会社も、わずか数十名の会社も、等しく付き合ってきた。

1万人の会社には1万人の会社の悩みがあり、数十名の会社には数十名の会社の悩みがある。

その悩みを解決するための時間は、大きくは変わらない。

あるべき論で断ずることなんて誰でもできる。それができない世界がある。あるべき論で断ずることができないのが、9割以上の企業の現実だ。

 

1万人の会社でコンサルタントに求められる役割は、あるべき論をあらためて示すことだ。1万人以上の会社にも兼務者はいるが、彼らの課題が人事にまで上がってくることは少ない。それらはたいてい、それぞれの本部や部レベルで解決されることになる。

では数十人の会社では?

もちろんあるべき論は必要だ。その上で、でもそのあるべき論が通用しない世界に対する答を出すことを求められる。それもすぐに、直接的に。

 

突き詰めていけば、実は1万人でも、10万人でも、どれだけ規模が大きくなったとしても、そんな「あるべき論が通用しない世界」があることがわかる。

 

かつて、10万人規模の会社のわずか10名のための制度をつくったことがある。

その制度によって、そこから新しいグループ会社が生まれ、やがて10万人を食べさせる利益を生み出すことになった。

 

たった1人であったとしても、その人が価値を生み出す起爆剤になるかもしれない。

だとすれば、人数の多寡で検討の深さを変えるわけにはいかない。

10万人の社員の中の、わずか1人のための制度が、大きな変革と成長をもたらすことさえあるからだ。

 

今、1万人以上の会社と、1000人規模の会社と、100人以下の会社とをそれぞれ同時にコンサルティングしながら、強くそう思う。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)