職務給の導入は年功賃金の廃止よりももっと重い問題を抱えている
日立が職務給を導入する。
<年功賃金廃止>世界企業は続々改革…日本型脱却は難しい? (毎日新聞) - Yahoo!ニュース
メディアはいずれも「年功賃金廃止」とかって論じているけれど、人事制度を設計する立場から言うと、論点が少し違う。
最も重要なことは「能力があれば年齢にかかわらず登用する」と言う点だ。
なるほど、能力重視なのか、と言うとこれもまた違う。
一言で言ってしまえば、昇進のルールが「卒業基準」から「入学基準」に変わるということだ。
それが職務給、職務等級、職務主義の本質だ。
考えてみればあたりまえのことだ。
スーパー四番打者をバッティングコーチに据えれば、チーム全体の打率が良くなるだろうか。
スーパー選手を監督に据えれば、勝率はあがるだろうか。
そんなことはない。むしろ、優秀な選手ほど、自分が優秀である理由を説明できないから、後輩の育成には不向きだったりする。
上の言い換えを会社に置き換えてみた時、あなたは違和感を感じるだろうか?
スーパー平社員を係長に昇進させる。
スーパー係長を課長に昇進させる。
スーパー課長を部長に昇進させる。
スーパー部長を役員に昇任させる。
スーパー役員を社長に据える。
あなたが違和感を感じないとすれば、それこそが最大の問題だ。
職務給とは、年功序列の廃止、ではない。
競争のロジックが変わるということなのだ。
職務給とは、その仕事にふさわしい人に、仕事を任せる仕組みへの転換なのだ。
25歳であっても社長にふさわしければ社長にする。
55歳でも平社員が向いていれば平社員のまま。
職務給=職務主義とは昇進ルールの変革だ。
いまどき年功昇給なんて微々たるものだ。そんな数百円数千円の話をしても仕方がない。
大事なことは月給にして数万円、年収にして数十万円、数百万円の違いを生む仕組みの話だ。
それが職務給の本質だ。
もっとわかりやすく言い換えてみよう。
目の前の仕事で優秀だ、と評価されても、昇進できなくなる、ということだ。
それよりはむしろ、高い視点を持っている人が昇進するようになる。
タレントマネジメントという、最近の人事のはやりもそれを後押ししている。
あなたの会社で次に課長になるのは、係長仲間からではないかもしれない。むしろ新卒で入ってくる、MBAホルダーの25歳の若手になるかもしれないのだ。
実際のところ、目の前の仕事で優秀な人を昇進させていくと、それはすべてのポストをバカばっかりにしてしまう、という矛盾が生じる。
ピーターの法則、にその仕組みは言い表されている。
目の前の仕事で優秀な人を昇進させていけば、すべてのポストに無能な人だけが残る、という仕組みをあらわしているものだ。
そう考えてみると、日立の人事制度改革は、それほど本質的な改革ではないのだろう、と想像がつく。せいぜい、職務の大きさに応じて給与に差をつけますよ、と言う程度のことだろう。
でも、すぐにそれだけではすまなくなる。
35歳の執行役員に3000万円の年収を支払い、50歳のベテランに500万円の年収を支払う仕組みがあたりまえになる。
昔コンバットというアメリカのテレビドラマがあった。
サンダースという名軍曹は軍曹であり、軍曹の給与をもらう。
その上司のヘンリーは少尉であり、少尉は軍曹よりも多くの給与を受け取る。
もしサンダースが少尉になったとすれば、名少尉になるだろうか、という議論がされたことがある。おそらく、そうではないだろう、という結論が大半だった。
適材適所とは、そういう仕組みでもあるのだ。
年功主義が否か、という論点で職務主義をとらえていると、誤解する。
ちょうど10月9日に出版する僕の本に、そのあたりの秘密を書いているので、興味があれば立ち読みでもしてみてほしい。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)