あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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■ 意外に伝わらない経営の思い

 

 年初や半期ごとに全社集会を開催したり、あるいは社内報を発行したりすることで経営層メッセージを発信している会社は多い。

 確かにメッセージは発信できているだろう。

 しかし伝わっているか、といえばその効果は疑問だ。

 

 

 伝わらないメッセージには典型例がある。

 

・業績についての話に終始する

・成長ばかりを語る

・改革方針が大括りすぎる

 

 このようなメッセージがなぜ伝わらないかと言えば、それが従業員に関係がないことが多いからだ。

 業績があがったところで自分の生活には関係がない、企業が成長してもそれが自分にどう影響するのか、大括りの改革方針はいつも同じような言葉ばかりで新鮮味もない、というようにとらえられてしまう。

 経営層にしてみれば、メッセージを発信することによって、思いを共有してほしいと考えている。

 しかし発信だけでは思いの共有にまでは至らないと考えなくてはいけない。

 

 

■ 隠さないことから始める

 

 なぜ思いが伝わらないかと言えば、それが従業員に関係ない、と思われるためだが、だからといって関係のある話にすれば給与や賞与の話ばかりになってしまう。

 あるいは福利厚生などだが、それらは経営層から見れば、常に飴を用意しながら話さなければいけないということになってしまう。

 そうではない方法がある。

 すべての情報をオープンにしてしまうことだ。

 人は良く知っているものに対して愛着を感じやすい。

 企業においては、財務内容のように、従業員にわざわざ知らせなくてもよいと考える情報が多い。

 その結果従業員から見れば、会社は経営者のものであって、自分が愛着を持つべき対象ではない、という思いを生んでしまう。

 そのような状態の従業員に何を発信しても伝わるわけがない。

 だから情報をオープンにすることからはじめよう。

 従業員が知らなくてもいい情報があるのではない。

 会社の情報はすべての従業員が知るべきなのだ。

 そうして初めて、従業員は経営層と思いを共有できるようになる。

 

 財務情報がその手始めだ。月次売上だけでなく、経費についてもオープンにする。

 もちろんどうしても細目を隠したい場合があるかもしれない。その場合には費目を束ねればよい。

 まずい方法は、数値を操作することだ。操作した情報は必ず信頼性が落ちる。管理会計、などの名目で数値を操作することなく、ありのままの情報をオープンにしよう。

 では財務情報の公開であれば経理部門が行えばいいのだろうか。

そうではない。人事部門がその担当にならなくてはいけない。

 

 

■ 情報公開ルールを定める

 

 財務情報を管理するのは経理部門だが、従業員とのコミュニケーションルールは人事部門が定めることになる。なぜなら各種社内規程を作成するのは人事部門だからだ。

 その規程の前段階となる、内規レベルのルールをつくりあげよう。

 ルールがはっきりと定まっていないと、情報公開は都度ということになる。

 そうなるとやがて多忙さにかまけて忘れられてしまう。

 だからルールにしなくてはならないのだ。 例えば社内のネット提示板等を用いて情報公開をする。そのタイミングを完全に定めてしまうことだ。

 ある会社では毎月10日に前月の財務データ、採用・異動・退職情報を掲載する、というルールをつくった。それだけのことだが、それだけのことを知らされていない従業員が大半だったのだ。

 そしてそれだけのことで、公開された情報をもとにした議論が社内の各所で頻繁に起きるようになった。

「先月は売り上げがよかったけれど、販売費がふくらんでいたようだ」

「退職者が多かったのはなぜだろうか」などの議論は、まさに経営層が理解してほしいポイントでもあった。  

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

※当ブログ記事は、平康慶浩が月刊人事マネジメントで2013年9月~2014年2月にかけて連載していた「経営ブレインへの転換を図る5つの人事機能」をもとに加筆修正したものです。

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