あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

経験の質は5段階 ⇒職務経験ラダーという考え方

コンサルタントの仕事の一つに、学問的に研究されている内容を現実に適用してみる、いうものがある。

人事コンサルタントの世界にももちろんそれはあって、そもそもは目標管理とかコンピテンシーだってそういった活動の一環だった。

今僕が着目しているのは、硬い言葉でいえば人的資本の積み上げ方法、なのだけれど、ぶっちゃけていえば「ビジネスパーソンがよりよい経験を積むにはどうすればいいのか」というものだ。

 

これには2つの視点がある。

ひとつは、ビジネスパーソンとしての「自分自身の経験の積み方」だ。

自己啓発書で示される内容などがこのジャンルに入る。多くの自己啓発書に意味がない、という言われ方をするけれど、僕は決してそうは思わない。

ただ、本を読んだだけで行動をしなければ意味がない、ということにはまったく同意するのだけれど。

 

で、ふたつめ。

こちらの方がより重要だと考えているのが、「経営者としての経験の与え方」だ。

どんな会社でも必ず、経営者の定めたビジネスモデルに沿った形で職務がつくられる。

ビジネスパーソンには、それらの職務を遂行することが求められる。

このとき、職務の与え方によってもっと成長を促せる方法があれば、会社も個人のもっと幸せになるだろう、と考えるからだ。

 

この点において今着目しているのは、2009年のParrish&Wilsonによる提言だ。

熊本大学大学院の鈴木克明教授による翻訳から、抜粋してみよう(図表類はセレクションアンドバリエーションで作成)。

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原本では6段階としているが、1段階目が「無経験」なのであえて5段階とした。

また、ビジネス上の経験、として弊社の判断によるビジネスへの翻訳を行った。

 

 

■ ルーチンワークには中長期視点と達成感を与える

 

ラダーの1段階目、①機械的繰り返しは多くの企業に存在する実務だ。

特にシェアドサービスが行われていれば、多くの業務がここに属する可能性もある。

意図せず①機械的繰り返しになっている業務もある。前任者から引き継いだが、なぜその資料を作っているのかわからない場合などだ。

実際、シェアドサービス検討の際に業務を洗い出すと、全体の5%程度の業務結果は誰にも利用されていない、ということが判明したことすらある。

このように、機械的繰り返しに陥っている業務があるのなら、そこに中長期視点と達成感を与えよう。そうすれば①機械的繰り返しは、③心地よい習慣に変化する。

方法は、管理職からの直接的な働きかけでもよいし、もっと大がかりにするのなら業務全体の洗い替えでも良い。

 ・なぜその作業を行うのか

 ・作業の結果どのような貢献があるのか

 ・半年、1年、その作業を繰り返すと何が生まれるのか

それらをできれば文章化し、担当者に示さなくてはならない。

 

重要なことは、機械的繰り返しに陥っている業務は、担当者を成長させないだけでなく、組織の生産性すら悪化させてしまう点にある。組織にノウハウを蓄積することもなく、ただ個人の中に単純作業のスキルだけを維持させる。そのスキルは成長することもなく、やらされ感の中でむしろ劣化してゆくだろう。

 

 

■ すべての職務において計画と振り返りを実施する

 

次に、②バラバラな活動を、④挑戦的な企てに変えるように働きかけよう。

そのためには、以下の作業に担当者を巻き込む必要がある。

 ・複数の職務をつなげた全体像はどうなっているのかを示す

 ・どのようにその職務を行うのかを議論し定める

 ・職務の結果について振り返り是非の判断をする

 

これらは単に全体ミーティングを開けばよいというものではない。

余りにも遠すぎる全体像は、むしろ職務の意義を低下させてしまう。

むしろ小集団(たとえば係や課レベル)での職務検討の場を設けることが望ましい。

 

また、振り返りと言うと人事評価に反映する、と考えがちだが、これも違う。

上司による承認が最も効果的だ。そして一人一人と職務の結果について話し合うことを心がけなければいけない(これは管理職にとっては③心地よい習慣となる)。

 

 

■ 突発事項ほど素晴らしい機会として活用する

 

最後に⑤美学的経験だが、組織横断型のプロジェクトなどがあたる。

組織横断型のプロジェクトは、往々にして参加者の意欲の低下を招く。一部の担当者だけが熱意を発揮し、他のメンバーはフリーライドしてしまうことも多い。

そうしないためには、プロジェクトリーダーのリーダーシップがもちろん重要だ。

しかしそれだけでなく、個々のメンバーに対して以下の環境を整えよう

 ・直接的に参画できること

 ・参画することで職務の修正ができること

 ・期日が区切られていること

 ・自分自身に関係していると理解させること

 ・一貫した職務とすること

 

 

重要なことは、職務を通じて人が成長する、ということを理解することだ。

職務によって人を育成することを、On the Job Training(OJT)という。

OJTは、目の前の仕事に習熟させることだけでなく、より本質的な人材の育成につながらなくてはいけない。

そうして、一人一人が成長することで、企業もまた大きく成長できるようになる。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

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