あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

風変わりな従業員のための人事制度がイノベーションを起こす

f:id:hirayasuy:20210522193729p:plain


イノベーションがこれからの必須課題となります、というお話をそこかしこでしています。

人生100年時代とかVUCAとかコロナショックとか、いろいろな理由はありますが、とにかく変化が激しくなっているからです。

 

弊社名であるところの、セレクション&バリエーションは進化生物学の用語ですが、環境変化にあわせた淘汰と多様性の仕組みによって、過去とは違う姿に進化していかなければ、組織も人も幸せにはなりづらい時代になっています。

 

じゃあそのための人事インフラとはどういう仕組みであるべきなのか。

 

等級、評価、報酬、教育の各制度はどう設計すべきか。

 

どう浸透させるべきか。どう運用するべきか。

 

そんなことを考えて整理していくと、かなりややこしいパズルゲームのようになってしまうので、人事戦略とか人事グランドデザインとして定義してご支援する場合もあります。

 

今回はそんな変革を、自社だけで検討できる方法を一つお伝えします。

コンサルタントと一緒になってプロジェクトとして人事改革をするほどの影響はでていないんだけれど、それでも何か変えないとまずそうだな、というときに有効です。

 

第1ステップは、会社の中の変わり者を探すところから始めましょう。

業績を上げている、という条件がそろっていればなおよいのですが、とりあえずは標準くらいの成績でも大丈夫です。ただし、かなり変わっている、ということを必ず守ってください。

 

第2ステップでは、その変わり者の行動を観察してみましょう。

彼あるいは彼女が成果を出しているときにどんな行動をとっていたかを整理します。
可能なら、その時の周囲の状況を整理します。

彼あるいは彼女の名前をホワイトボードの中心に記して、上に成果、右に行動、下に特徴(変なところ)、左にどんな状況だったか、という描き方がわかりやすいでしょう。

 

第3ステップでは、左に描いた「状況」を再現しやすいように社内のルールを弱めてみましょう。人事制度を変えるというよりは、短期的な特別措置をしてみるイメージです。

 

最後の第4ステップでは、第3ステップのあと6か月くらいを経て、成果が上がっているかどうかを確認します。

そこでもし成果があがっていれば、緩めたルールを正規のルールにしてしまいましょう。

成果が上がっていなければ、元に戻してみましょう。そして次に別のことを試してみるようにします。

 

この作業はとても単純ではあるのですが、社内の「あたりまえ」を変えるのに効果的です。

あたりまえが変われば、新しい行動が起きます。

 

たとえば昼食の一斉休憩を、個別自由休憩に変えてみるとか(もちろん一斉休憩の原則に反するので労使協定が必要です)。

あるいは出社時間を緩めてみるとか。

出社禁止日を定めてみるとか。

服装規定をなくしてみるとか。

 

ぜひ一度試してみてください。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

経営者は従業員経験をつくる人になってゆく

f:id:hirayasuy:20210522193729p:plain

 

エンプロイー・エクスペリエンス、という言葉があります。

EEと略すこの言葉は、従業員に経験を積ませることでいち早く成長させることができる、という人材育成の考え方です。

多くの人事関連有識者が示すように、これからの人材マネジメントの主流になっていくと思われます。

 

このEEですが、じゃあ誰が経験を提供していくのでしょう。

 

人事部?

もちろん制度と運用プロセスは設計しなければいけません。

 

上司?

部下に直接経験を積ませるのはもちろん上司です。だからこそ上司によるタイムリーな支援や軌道修正は重要になります。

 

しかしより本質的なEEの設計者は、経営者に他なりません。

 

ただしそれは、これまでの経営者のあり方を大きく超えたものになるのも事実です。

 

経営者の役割とは、原則として企業価値の最大化です。

そのためにビジネスモデルを作り上げ、それを回していくことが求められます。
この時、従業員に対してはビジネスモデルを回すための歯車であることを求めます。

自発性などを求める場合もありますが、それは現場での顧客対応を迅速化するためか、陳腐化しつつあるビジネスモデルを改善するために求めることがほとんどです。うまく回っているビジネスモデルにおいて、余計な創意工夫は邪魔でしかありません。

だから従順にビジネスプロセスを運用してくれる人材を採用し、習熟させ、生活を安定させる選択肢をとります。

 

これは伝統的日本企業に限らず、多くの成功した企業の原則的な人材マネジメントモデルです。

 

しかし働く意味の拡大が、エンゲージメントマネジメントの成熟を超えて進もうとしています。

言い換えるなら、どれだけ自社で働くことを魅力的に見せようとしても、出産や子育てなどのライフイベントを重視したい人の一時的離職を押しとどめることができないようなものです。

 

エンゲージメントを高めていれば、休職を経ても戻ってくる、と思うかもしれません。

しかしそこに用意されているキャリアが、階段を少し遅れて進む道でしかなかったとしたら、戻ってくるインセンティブは小さくなってしまう場合もあります。

そんな時、魅力的に映る他社への転職を選ばれてしまったとしても、決して従業員を責めることはできません。

 

大事なことは、経営者が、従業員にどんな経験を積むキャリアを想像できるかです。

そのキャリアは新卒から始まる連続的なものではなく、むしろ自分で選択可能なイベントのようなものです。

仮に入社2年目で「なんとなく」辞めた従業員が5年後に戻りたいといってきたとき、入社2年目までキャリアを戻すのではなく、今できる役割を見極めて与えられるかどうかです。

 

中途採用をする際に、新卒●●年目と同様の報酬を用意するのではなく、今生み出す価値に対しての対価を支払えるかどうかです。

 

そのような仕組みを作っていくために必要なことは、経営者が常にビジネスモデルのブラッシュアップを考え続けることです。

今うまく回っているビジネスも、数年後にダメになるかも知れない、という前提で、歯車になっている一人一人に、歯車ではない役割を与え続けることです。

従業員に経験を与え続ける人材マネジメントは、経営者の事業戦略と密接につながってゆく、あらたな人事戦略に他ならないのです。

 


平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

当記事はセレクションアンドバリエーションのメルマガとして送った内容を、1週間遅れで掲載しているものです。

メルマガへの登録はこちらから。

mail.os7.biz