あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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売上を上げるためには人事制度を変えよう(3)

前回と前々回記事はこちらです。

売上を上げたければ人事制度を変えよう - あしたの人事の話をしよう

売上をあげるためには人事制度を変えよう(2) - あしたの人事の話をしよう



さて書き残していた「単位分配率」です。
この概念を話すと最初によくいわれるのが、「労働分配率のことですよね?」というものです。
売上から原価を差っ引いた粗利に対しての人件費率、という意味ではその通りなんですが、労働分配率との違いは、その他の変数を所与としない、と言う点にあります。
また、社内で代替可能性のある外注費については原価扱いしない、と言う点でも異なります。

労働分配率はどちらかといえば結果に対して計算する方法です。その結果50%を超えているからまずい、とか25%を切っているから云々、と言う判断に使います。
それに対して「単位分配率」では、この分配率の基準の方を優先します。
その結果として、売上の方をどう変えるか、ということを考えるきっかけとするものです。

ITコンサルタントの例が単純なので計算してみましょう。

3カ月のプロジェクトを600万円で請け負ったとします。
必要人員は常駐3人に半常駐のマネジャー1人。
常駐3人の内、2人は外注に委託するとします。外注単価は50万円。
常駐の自社社員の給与は40万円で、半常駐のマネジャーの給与は60万円とします。

すると労働分配率はざっとこうなります。

(40万円+(60万円÷2))×3カ月       210万円
--------------- = ----- = 70%
(600万円-(50万円×2人×3カ月))     300万円

ちなみに外注と社内の人件費を単純に合算して利益率を算出すると15%になります。

さて、多くの経営判断では上記の計算をもとに、「まあ業界平均に近いからいいか」とか「もう少し利益率をあげるために内製化を進めよう」と議論されます。

「単位分配率」は上記の考え方とは似て非なるものです。
そしてだからこそ、人事制度を変えることで売上を上げる、と言う発想にもつながります。

「単位分配率」の考え方では、まず事業として求める利益率をはっきりさせるところから始めます。
上記の例で言えば15%ですが、これをまず30%にする、と定めます。
そして外注費を原価から人件費に置き換えます。
すると目指すべき「単位分配率」は70%になります。
一方、この考え方で計算した現状の数値は以下のようになります。

((40万円+(50万円×2人)+(60万円÷2))×3カ月    510万円
--------------------- = ----- = 85%
          600万円                    600万円

このプロジェクトは目指すべき「単位分配率」よりも15%条件が悪い案件ということになります。
15%改善するためにはさらに90万円の経費を圧縮しないといけません。3カ月ですから毎月30万円です。

ここでよく行ってしまう間違いが、人件費や外注費のカットです。
毎月30万円減らせばよいのだから、外注費を一人当たり月10万円下げてもらって、常駐社員を単価5万円分安い人材を当て込んで、半常駐マネジャーの参画率を50%から40%に下げる、といった取り組みです。
実際にそう言う取り組みを行われる企業は非常に多いのですが、その結果として品質の低下や納期の遅れ、結果としてのクレーム対応などにつながってきます。

「単位分配率」の考え方では、上記の式のそれぞれの数値を所与としない、と定義しました。
だから「売上」を変動させることを考えます。
そして、売上変動を評価と報酬の仕組みに取り入れるわけです


510万円の費用を70%の単位分配率にあわせるためには、約730万円の売り上げが必要です。
あと130万円足りない。だからその分をどうやって増やすかを、プロジェクトメンバーに役割として課すわけです。
実例としては様々な取り組みが行われました。
官公庁系の仕事であれば、設計変更に対する活動が積極的に行われました。具体的にはプロジェクトの中でさらに追加でこんな機能があればいいのではないか、という提案をタイミングよく行うようになりました。
民間の仕事であれば範囲の拡大です。追加プロジェクトの受注に対する活動が活発に行われるようになりました。
もちろんすぐに30%と言う目標が達成されるわけではありませんし、場合によっては永遠に達成することができない場合もあります。
しかし重要なことは、与えられた仕事をきっちりとこなす、と言う発想から、仕事を自分で作り出す、という発想に転換した、と言う点にあります。

また、この「単位分配率」概念はもう一つ大きなメリットを持ちます。
それは、完全に目標が達成できずとも、現在の85%の単位分配率をいくばくかでも引き下げることができた場合において、インセンティブ原資が自動的に生み出されるということです。
ここで実質的に二重の原価管理が行われることになるわけですが、600万円を超えて得た売上に対して、そのうちの30%や45%分をインセンティブとして積み上げることができるようになります。総枠として70%になるように近づけますが、大事なことは70%達成を最重要視しないことです。
あくまでも追加で得た売上の一部は従業員に還元する
そうすることで案件別の従業員モチベーションを飛躍的に高めることができるようになります。


とまあ、なるべくわかりやすく書いてきたつもりですが、ご理解いただけましたでしょうか。
「スターマトリクス」と「単位分配率」の概念で、人材の行動を変革し売上に直結させることが可能になります。

意外なほど効果があり、かつ従業員のやりがいと成長も高めることができる仕組みです。
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平康慶浩(ひらやすよしひろ)