あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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初任給で会社を選ぶととんでもないことになる

あいかわらず、人事の観点から社会とか会社とかをよくできないもんかな、とうだうだ考えています。

で、今日は初任給のお話。

初任給って実は、会社の大きさが違っても、それほどは変わりません。
大企業でも中小企業でも実は数千円の違いくらい。
2012年11月15日に公表された、厚生労働省の賃金構造基本統計調査を見ると、こんな数字が並んでいます。

平成24年度の初任給(大卒男子)
   1000人以上の会社   20万4千円
   100人~999人の会社  20万1千円
   99人までの会社      20万2百円

高卒だと平均額で言えば大企業の方が微妙に少なかったりします。

平成24年度の初任給(高卒男子)
   1000人以上の会社   15万98百円
   100人~999人の会社  16万円
   99人までの会社      16万4百円

これはもちろん、新卒時点で横並びにしておかないと応募者が来ないから、という理由によります。労働市場として考えても妥当ですね。
実際にはこのあとの昇給額や給与の天井(企業毎の儲かる割合)によって、給与にどんどん差がついていきます。

初任給の差があらわれるのは、企業規模よりもむしろ業種です。
平成24年データでいえば、大卒男子の最低(平均)初任給は「複合サービス業」の17万32百円。最高は「鉱業、採石業、砂利採取業」の22万4800円です。

じゃあそのあとはどうなるのか?ということで、年収と比較してみましょう。
経済産業省企業活動基本調査という、だいたい全国32500社に対して行ったアンケートがあります。平成24年版の速報をもとに、ちょっと荒っぽいのですが産業別の平均年収を逆算してみました。
ちなみにこの年収計算にはパート・アルバイトも入っていますので、正社員割合が低い産業では年収が低めに出てしまいます。
とはいえ、傾向は読み取れるのではないかと。

それがこちらです。

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青い折れ線グラフが初任給なんですが、平均年収は見事に差がついています。
一番高いのはやはりインフラ産業である電気・ガス。年収で776万円。
一方サービス業の中でも飲食系は低いですね。年収で153万円です。
もちろんアルバイトが多いので、正社員はもっと高い水準にはなるでしょうけれども。

興味深いのは卸売業と小売業です。
産業分類上は同じ「卸売・小売業」と区分されるのですが、平均年収に大きな差がついたのであえて別出ししてみました。

卸売業の平均年収が499万円に対して、小売業は250万円。
ただし、卸売業の正社員割合は84%で、小売業は39%です。小売業が低くなるのも仕方ないんですが、こうも言い換えられます。
小売業の現場で働いている限り、安いアルバイトやパートに置き換えられるので、給与があがりづらい。

で、何が言いたいのかと言うと、低い年収水準の産業について、年収水準をもっと高められないものかなぁ、ということを悩んでいるのです。
それも最低賃金の引き上げとかの乱暴な方法ではなく、収益構造として高い年収を支払えるだけのビジネスモデルに変えられないものかな、ということです。

答えの一つは、生産性の向上であり、情報システム活用を含めた一層の効率化です。
でも今そうして達成された効率化の果実は、そのほとんどが「お客様」に提供されてしまいます。

「お客様」がより安価でレベルの高い価値の提供を求める限り、生まれた付加価値が給与に反映されることはありません。
ビジネスのサービス化が年収の低下を招いたという分析もありますが、今後それらはさらに顕著にあらわれることでしょう。

「お客様」も高いレベルの価値を享受し、企業も高い利益を獲得し、そして従業員も高い報酬を得ることができる。
そんな仕組みを作れないものかなぁ、あいかわらずうだうだしています。



平康慶浩(ひらやすよしひろ)