あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

自分の給与を二倍にする方法を考えてみよう

5月に入って、とある会社のビジネスモデルとか人事制度とかの調査分析をしています。
この会社、たちあげて2年ほどで、売上も従業員も増えています。
そして、売上に先行するとある指標があるのですが、その目標も毎月必ず達成しています。
(この指標を書くと業態がばれる、のと守秘義務に反するので書けません)、

でも、単月黒字になったことがない

なぜだかぜんぜんわからん、ということでお手伝いを開始しました。
私は人事制度設計がメインの仕事ですが、人事制度の分析をする前に、必ず財務諸表を細かくチェックします。
この会社の場合、管理部門が10人もいないので、財務諸表も細かいものがありませんでした。
仕方ないので、使っている会計ソフトからすべての仕訳データをダウンロードしていただきました。それをベースにエクセルでいろいろと関数を駆使して、月次P/L、取引先別支払一覧などを作成しました。

で、わかったことなんですが、上記で書いた売上に先行するとある指標と売上との関係が間違って理解されていたんですね。
だから、その先行指標をもとにした目標を達成した程度では、利益が出るだけの売上は生み出されない、ということがわかりました。
業界経験豊かな方々だからこそ、業界の環境変化が先行指標と売上との関係を変えていた、ということには気づかなかったわけです。

で、ここから人事制度の改善に入るわけですが、おおまかな改善策は二種類あります。
さて、どちらを選ぶべきでしょうか?

■ 第一の方法:実際の売上に見合った水準への給与レベル引下げ

この会社の現状を簡単に言ってしまえば、50万円の売上に対して営業社員に35万円の給与を支払っているような状態です。
15万円の利益が出ている?
いえいえとんでもない。
まず社会保険料の会社負担分が約9%あります。30万円の給与だと2万7千円です。
通勤費も給与に含めて考えていませんでしたから、一人当たり平均2万円くらい必要です。
パソコンや文具、コピー代などなど一人あたりに必要な諸経費もあります。
オフィス家賃だって案分しなければいけません。
管理部門人件費や役員給与もあります。
また、広告宣伝費などの経費もかかります。
仮にプラマイゼロを目指すとしても、50万円の売上だと営業社員ひとりに支払える額面給与はせいぜい25万円になります。

この給与レベル引下げという方法は、ターンアラウンドのように会社を再生させる必要があるときに取る手段です。
また、平均年齢が45歳以上とかで、転職能力(エンプロイアビリティとかいいます)が低い従業員が多い場合に取る手段でもあります。
要は、痛みをみんなで分かち合おう、というものです。
しかしこの会社の場合、まだ立ち上げて2年です。
そんな引き下げを行ったのでは、誰もついてきません。できる人からどんどん会社をやめてしまうことでしょう。

そこで今回は第二の方法をとります。

■ 第二の方法:給与に見合った水準への一人当たり売上目標の引上げ
(それと売上に直結しない経費の削減)

その中身はあまり詳しくかけませんが、ポイントは以下の3点です。

① 目標に対する先行指標の設定と毎日の進捗管理
② 先行指標達成のための研修とテストの繰り返し
③ 組織階層のフラット化によるマネジャー割合の削減

そしてこれらの達成状況について、3カ月、6カ月、年度でフォローしながら必要に応じた追加改善を行う、ということにしました。

要は、給与分だけ働こう、というものです。
そして人事制度としては、給与分だけ働くということはどういうことなのかを具体化する、と言うことに特化することにしました。

さて、この考え方を転じてみれば、一人一人のサラリーマンの立場で、どうすれば給与を増やせるのか、と言うことのヒントが見えてきます。

自分の給与を増やしたいのなら、会社がもっと儲けられるようにするしかありません
仮に年収300万円を330万円にしたいのなら、売上を5%~15%はあげなければいけないわけです。

では年収300万円を600万円にしたいとすれば?
まともな発想では、そんなことはとても不可能です。

もし今の立場のままで増やしたいとすれば、売上を1.5倍~3倍にするしかありません
この割合はビジネスモデルの中の固定費割合によって変わりますが、単純に二倍と考えてもいいでしょう。
二倍売るには、顧客を二倍にするか、同じ顧客に二倍買ってもらうか、顧客も顧客当たり売上も1.5倍くらいを目指すか。いろいろと考えられますが、もしそれが達成できたのなら給与を増やす交渉がしやすくなるでしょう。

でもまあ実際の話、完全なインセンティブ制度でもない限り、一人だけ売上を二倍にしても、年収は二倍になりません

もっと現実的な方法はないでしょうか

良く考えてみると、会社の中には、年収300万円の人もいれば、600万円の人もいたりしますね。
典型的なのは、平社員の年収が300万円で、課長の年収が600万円、というような状況です。

実は人事制度をつくるときにはこんな計算をします

一人の課長に平社員の部下が5人いるとします。
課長の年収は600万円くらいにしとかないといい人材が集まらない。
一方で平社員は300万円で雇える。
平社員に300万円の年収を支払うためには、年収の10倍の売上が必要だとします。
このとき、課長の給与をねん出するために、この課の必要売上を計算します。

平社員5人の年収+課長の年収=2100万円
必要売上はその十倍なので、2億1千万円になります。

平社員だけだと1億5千万円でいいのですが、課長がいるから必要売上が増えてしまいます。

でも、課長は実際に営業することができません。
だから、自分があげなければいけない売上6000万円を五等分して、平社員に1200万円ずつ、売上を増やさせなくてはいけません。
平社員にすれば、自分だけなら3000万円の売上でいいのに、1200万円を多されると、4200万円の売上目標になってしまいます。

となると課長の役割が見えてきますね。
平社員に対して、
A 140%の目標が当たり前だと思わせる
B その目標が実現できるような仕組みをつくる
C 目標が達成できるよう日々の活動を指示しフォローする

ことが課長の役割になります。

これは言い換えるなら、ABCの仕事ができるのであれば、300万円の年収の平社員が600万円の年収の課長になれるということです。

もしこの記事をご覧の皆さんが、自分の給与を今の会社で倍にしたいのなら。
一度上記の考え方で、自社の場合だとどうなるのか、整理してみることをお勧めします。


 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)