あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

あしたの人事は実は「成果主義」じゃなかったりする

成果主義、というとまあ、ほとんどのサラリーマンがなにがしかの見解を持っている言葉になりました。とはいえ、その見解の大半はいくつかのパターンにわけられます。

 

大きくは3パターンでしょう。

肯定派、否定派、改善派、といったところではないでしょうか。

 

 

■ 成果主義肯定派

 

 このパターンの意見は、優秀な人材に多い。あと少しばかり、個人主義的な人に多いかもしれません。

 この意見のポイントは、できた人、優秀な人に多く配分する仕組みとして成果主義は重要だ、というものです。

 2004年に城繁幸さんが富士通への成果主義導入の実情を暴露しましたが、当時の城さんのスタンスは、あとで説明する否定派、改善派のいずれでもなく、肯定派だったように思います。肯定派だからこそ、富士通の成果主義が、優秀な人やできた人に報いていない状況を批判していた、というように読み取れます。

 

 

■ 成果主義否定派

 

 このパターンの意見は、リベラルな方に多い。あと、実は優秀な人もわりとこのパターンの意見をおっしゃいます。

 ただ、50代以上の方々から聞かれることが多いのも事実です。

 この意見のポイントは、成果主義のデメリットを多く提示します。そして、成果主義はダメだ、と結論づけます。

 ダニエル・ピンクさんが2011年にTEDで話された内容なども引き合いに出されたりしますね。

 否定派がどうしても弱いのは、成果主義に代替できる仕組みを提示できない点にあります。

 だから肯定派と否定派の議論は、メリットとデメリットのぶつけ合いになり、結論が出ません。

 

 

■ 成果主義改善派

 

 肯定派が否定派の意見に一部同意したり、否定派が肯定派の意見に納得したりすると、改善派の意見になります。

 改善派の意見はおおむね①ベストプラクティス型、②運用改善型、の2つにわかれます。

 ①のベストプラクティス型は、成果主義人事制度じゃないけれども成長していたり利益が出せている企業の事例をあげます。それからその企業の人事制度のポイントを整理します。

 ②の運用改善型は現場でうまくいっていない部分の改善を志向します。だから割とこまかい話が多くなりがちです。評価は絶対評価がいいのか、相対評価がいいのか、とか。

 人事マネジメント、という人事の専門誌がありますが、私が2013年6月号に書いた「目標管理制度のカスタマイズ ~シンプルに機能させる7つの設計運用テクニック」などはこの改善派に対応したものです。

 

 

■ 人事制度は今後企業だけのものではなくなるのかもしれない

 

 3つのパターンの意見はいずれもそれぞれ一理ありますが、いずれも「あした」を語っていない、という点で共通しています。それはそもそも「成果主義」から議論を始めてしまっているためです。

 あまりに便利に使われたため、「成果主義」という単語自体がなにか意味を持って歩いているようにも見えてきます。

 もちろんグローバル化が進めば企業の仕組みも変わらざるを得ません。それは企業も人も自由に移動できる、職業を選択できる、という自由主義に立脚しています。

 一方で、先進国特有の若年層失業、全世代を通じての高失業率問題、低い成長性、高齢化問題などから、国家が企業に対して行う規制(おもに雇用に関するもの)はどんどん増えるでしょう。

 自由主義のものとでのグローバル化と、全国民のための国家の要望は今後さらに深刻な対立を深めると思われます。

 ワタミの元社長、渡辺美樹さんが参議院議員として最低賃金の引き上げを非難しても、たとえば日本国内でスラムが発生したり、若者の餓死者があらわれたりすると、そうも言えなくなったりするでしょう。

 企業側の見解だけでも、あるいは国家からの要望を聞き入れるだけでもない、バランスをとった仕組みが生まれてこざるを得なくなります。

 

 

■ 成果主義という言葉が消える日

 

 ふりかえってみて、私を含め、今最先端の人事コンサルタントが作っている人事の仕組みは、実はもはや「成果主義」といえないものだったりします。

 もちろん、個人ごとの格差ははっきりとさせています。

 昇進のスピードは人によって違うし、給与も賞与も差があります。

 昇進できない人や給与が増えない人は、再スタートのための職場に再配置されたり、別の会社で活躍するように言い渡されたりします(これは意外と双方のためになります)。

 でも、いわゆる成果主義と違うのは、「できた人」がそのまま昇進が早い、というわけではない点。

 また、自分だけ目標を達成した人がたくさん賞与をもらえる、というわけでもない点。

 人事用語でいうと「職務等級に基づく人事の仕組み」になりますが、簡単にまとめていえば「職務主義」といってもいいかもしれません。成果主義から職務主義に変わっていっている、ということです。

 職務主義のもとでは、正社員も総合職も一般職も派遣社員もそれぞれ区分が薄れてゆきます。職務が違うだけです。

 職務主義のもとでは、職務=仕事によって給与が決まります。50歳で子供が3人いるから給与が多いとか、25歳で結婚していないから給与が安い、とかいうこともありません。

 職務主義のもとでは、高い給与を得るために、どんな知識や経験を積めばよいかがはっきりします。だからチャンスはさらに公平になります。

 

 「成果主義」という概念そのものが今後消えてゆき、「職務主義」に変わる。

 その世界がどういうものなのかは、また今度記してみます。

 

追記:職務主義は実際には「役割主義」と言った方がよいかもしれません。

でもまあ、内実は職務等級に基づく人事制度なんで、言葉の部分ははしょりました。

そのあたりの実情も、そのうち書く、かもしれません。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)