あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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「金塊ロジック」で「景気が良くなる方法」を考えてみた(3)

前回の続きです。

「金塊ロジック」で「景気が良くなる方法」を考えてみた(1)

「金塊ロジック」で「景気が良くなる方法」を考えてみた(2)


経済学を学ばれた方は、ここまで私が前回書いた内容が、金本位制に基づく重商主義のロジックだと気付かれたかもしれません。
重商主義とは、たくさん資産を持つことが国家を富ませる、と言う考え方です。
「金塊ロジック」とは「重商主義のロジック」だったわけです。

経済学的には重商主義のあとに、自由主義が生まれます。
アダム・スミスの「国富論」自体、原題は「諸国民の富の性質と原因の研究」で、重商主義が結局、国内の富の流出を招いた、としています。

とはいえ、重商主義、というかここでは「金塊ロジック」としておきますが、この考え方はずいぶん長い間、社会のルールとして使われてきました。
なんたって、紀元前から使われていましたし。

ドラゴンクエストなどのロールプレイングゲームをしていると、宝箱を見つけます。
なぜ王様や悪党は宝箱を持つのか?
悪党の場合には富そのものを持つことについての欲望かもしれません。
しかし王様の場合には、その富を背景にして、さらに多くの通貨(=自分の富を減らさずにものを手に入れるための手段)を発行するためでもあります。

「金塊ロジック」のもとでは、景気を良くする≒実質GDPを増やす手段、はたくさんの富を外から手に入れることです。
だから貿易黒字を生み出すこと、が大事になるわけですが、なかなかそううまくはいきませんでした。
そこで侵略をしたり、植民地をつくったりしたわけですが、経済は政治とも不可分な部分があったわけですね。


金塊ロジック、というか重商主義を今更ほじくりかえすのは、たとえばWAONポイントやEDYのような電子マネーの背景には、兌換通貨に近い考え方があると思っているからです。
WAONやEDYの1ポイントは、それぞれの発行者が持つ1円と等価で交換することができます。(実際には等価ではなかったりもしますが)
今、WAONもEDYも、基本的にはそれぞれの発行母体としか取引ができません。
でももし、商店同士の取引に使えるようになったとしたらどうなるでしょうか?
あるいは、イオングループなどが、自社従業員に対して、給与の一部を電子マネーに変えるとしたら?
給与に現金払いの原則はありますが、賞与の一部なら可能かもしれません。
もし現実になったとしたら、ちょっと怖いことになりそうです。
(そのバーチャルな実験は、ガンホーラグナロクオンラインのようなMMORPGで、リアルマネートレードとの関係において実施されたのではないか、と勝手に推測しています)



話がそれました。
自由主義以降の経済社会において、金本位制の時期もあったものの、通貨は管理通貨として発行されています。
自由主義経済の中で景気をよくするためには、国内消費を増やす、という方法が主流となります。

前回書いた、景気を良くする3つの条件を再掲載してみましょう。
(以下のGとは、兌換通貨をあらわしています。)
① Gが流通するエリア内で消費を完成
② ひとりひとりが使うGの量を増やす
③ 地域外から金(きん)やそれに代わる何かを受け取る

自由主義経済のロジックでは、この中で②が最も重要である、ということになるんですが、そのために投資をしましょう、と言います。

またまたよくわかりませんね。
なぜ投資をすれば消費が増えるのでしょうか?

ややこしいことは置いておいて、消費を増やすためには、今までなかったものを欲しがる状態、をつくらなければいけません。

人々が「足りていない状態」のときには、新しいものをつくれば消費されました。

近代化の流れのひとつに、余暇の発生、があります。
余暇とは、仕事をしない時間が生まれる、ということですね。
例えば江戸時代の商家で働く人には、休日は年に2日だけでした。
でも今は、ほとんどの人に休日があります。
9時から5時の間だけ働く、と言うルールができると、1日の中でも、自由になる時間ができます。

すると、その自由時間に何かをしたくなります。
音楽や映像などが消費され、そのための機器が消費されます。

また、日々の生活に必要な炊事、洗濯などの作業も、機械化されてゆきます。
そのための機器が売れると、さらに生活に中で余暇が増えます。

余暇の消費が増えると、そのための投資がされることになります。
また生活水準の高まり(もっとおいしいものを食べられる、もっと良い服を着られる、良い家に住める、余暇を増やせるなど)も消費を増やすことになります。
そしてそのための投資がされます。
消費が投資を生み、投資が消費を生みます。

消費の総量=通貨の異動した総量が、実質GDPです

管理通貨制度のもとで、上記の①は重要ではありません。通貨は相互に交換され、貿易によって商品が流通します。だから国内消費だけが重要ではなくなります。
③については、財政収支が悪化して通貨が破たんするほどになれば問題ですが、そうでない範囲においては無視してもよさそうです。

だから、上記の②一人一人が使うGの量を増やす、ということを満たせば景気がよくなる、ということになります。

そしてそれは、人々が足りていない状態にあるか、足りていたとしても、今までになかったものを欲しがる状態を作り出すことで、実現します。



さて、この記事のはじまりは、どうすれば日本の景気を良くすることができるのか、というその方法を考えてみよう、ということでした。

ここまで書いた理屈でいえば、

A:足りていない状態の人々に消費してもらう

B:今までになかったものを欲しがってもらう


のいずれかを用意すればよさそうです。


さて、この記事を読んでいるあなたは、
何か足りていないものがありますか?
今、何か、欲しいものがありますか?


ある、といえばあるけれども、絶対にほしい、と言うレベルではない。
そんなところではないでしょうか?

安倍内閣において現在、産業競争力会議が開催されています。
2013年10月1日に第14回が開催されましたが、それまでに配布された資料などもすべてネットで見ることができます。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/kaisai.html
第14回の資料3がイメージ的にわかりやすいのですが、この内容はずいぶんと慎重なものです。
一言でいえば、産業競争力を高めるために、投資に関する規制を緩和しましょう、というものだからです。

でも、どんな産業に重点を置くべきか、というところにまでは踏み込んでいません。

これまでの議題の中でも「クリーンなエネルギーをつくりましょう」「インフラを整備しましょう」「雇用の仕組みを改善しましょう」というようなもので、よくわかりません。
かろうじて「健康に長生きできる社会をつくる」ことが新しい市場の創出だと言っていますが、それって介護や医療分野を伸ばしましょう、ということでしょうか。
介護や医療分野は、いくら伸ばしても、GDPは増えませんし、景気もよくなりません
皆保険制度のもとでの介護や医療ビジネスは、消費の側面が小さいからです。
また、雇用を生み出しはしますが、それは景気に大きな影響のない雇用です。
その理由はそもそも、生活の余剰を生まないレベルの給与しか支払えないビジネス構造にあるからです。(細かいところについてはまた書きます)。


さて。

足りていないものはない。
欲しいものもない。

全体を見れば確かにそうです。

私が考える答えは消費ターゲットの明確化と、海外輸出の増大です。
そしてそれらの産業への重点的投資。

当たり前の話かもしれませんが、軸をぶらさないことが重要なのです。

ではどの消費ターゲットを狙うのか。
また、何を海外に輸出するのか。

タイトルを変えて、また次回に。



平康慶浩(ひらやすよしひろ)