あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

大半の目標管理制度が機能していない理由

今日は10月9日です。
3月決算の会社であれば、半期が終わって1週間と少しですね。
多くの会社で、目標管理制度の半期分の評価が始まるころです。

大変ですよね。
特に上司のみなさん。

4月に目標をたてさせて、面接をして、6か月がたってみて、さて目標が機能しているのか?
4月にたてた目標は、環境変化でもう使えない。
あるいは、立てた時はそうは思わなかったけれど、半年たってみると、その達成度でなんか測れない。
不公平感もある。
そもそも、そんなに部下の仕事をきっちりと見ていたわけでもないし、と言う人もいるでしょう。

月刊人事マネジメント2013年6月号に、こんな特集を執筆しました。

目標管理制度のカスタマイズ
http://www.busi-pub.com/HEAD/1306HEAD-A.pdf

キーワードはひとつです。
「精緻化よりも単純化こそ成功への近道」

わりと問い合わせも受けたりしますが、記事自体丁寧に書いたので、もし会社に導入するのであれば、記事を読んでもらえれば大丈夫。
私に問い合わせる必要もありません。

ただ、記事に書ききれなかったポイントを書いてみます

なぜ目標管理制度が機能しないのか?
答は実はひとつです。


その前に、よくある勘違いを正しておきましょう。

目標管理制度は、もともとManagement by objectives and Self-control、と言う概念を人事評価に導入したものです。略してMBO-Sとか言ったりします。
この概念はドラッカー先生が提唱したものですが、よくある勘違いは

Self-Controlの部分が欠けているために機能しない

というものです。

MBO-Sの本来の概念では、目標を達成するためには、外部が支援するだけでなく、本人のやる気を高めさせなくてはいけない、という理屈だ、と論じる人たちがいます。

とんでもない。
どんなチープな目標管理シートであれ、目標は自分でたてるようになっています。
そこにセルフコントロールを実現する仕組みがないから機能しない?
ばかばかしい。

小学生でも、中学生でも、高校生でも、大学生でも、社会人でも、中年でも、高齢者でも。
たてた目標を守れる人なんて少数派です。
夏休みの宿題を計画的に遂行できる人。
受験勉強の計画を予定通りに推進できる人。
そんな、エリートたちにとっては、セルフコントロールは当然のことでしょう。

でも、大半の人は違います。

人は、自分が立てた目標を守れないのが当たり前なのです

だからそもそも、目標をもって、すべての人を律しようとすること自体が過ちなわけです。



こんなこと書いて、お前は目標管理制度を導入してきた立場として何を考えているんだ、と言われそうですね。
その答えの一つが、上記に記した、月刊人事マネジメントの特集記事です。
読んでいただければわかりますが、目標管理制度をとても単純化したものです。
実際、この仕組みを導入してから、目標管理制度に対する不満がゼロになった企業もいくつもあります。
社内アンケートを実施した結果として、ゼロです。
人事評価制度に対する、社内の評価としては異例ではないでしょうか。




さて、そろそろ答えを書きましょう。
目標管理制度、というか、目標を立てさせてその結果を評価する仕組みが機能しない理由は簡単です。

それは、仕事と目標とがリンクしていないからです

営業社員に対して営業数値を与えて、営業だけをさせる、というのなら簡単です。
でも、営業社員のように、数字で測れる職種についての目標管理は機能しています
そのことについて不満を持っている人は少ないでしょう。

でも、例えば営業社員なのに事務作業もしつつ、社内調整もしたり、場合によっては異動前の他部署の仕事も持っていたらどうでしょう。
ご存じのように、会社で働く多くの従業員は、営業のように明確に数値だけで測れる仕事ではありません。そしてさまざまな仕事を割り振られます

その仕事の与え方が、目標管理を機能させなくする原因です。
本人にとっての言い訳にもなります。

夏休みに例えてみましょう。
夏休みの毎日、子供が宿題をすることが当然なのであれば、宿題は計画通りに完了します。
でも子供は遊びたい。
友達と駆け回りたいし、一人でDSで遊んだりもしたいし、両親や兄弟ともたくさんたくさん話もしたい。
遊びを当然と考えている子供に対して、宿題の完了という目標を与えたところで、それが機能しないことはみなさんの実感としてお分かりになるでしょう。

だから子供に対して、宿題をすることを意識させ、自発的に行動させる?
それはもちろん理想です。
MBO-Sはその理想を語っています。

でも子供にそれを指示できる親は、自分自身がそれを当然だと考えている親だけです。
家庭を休息の場としない親だけです。
家庭で自己研鑽に励み、自己を厳しく律する親だけです。
親が家庭でのんびりと過ごし、自分の趣味に時間を使う。そんな親を見て子供が、宿題を自らの仕事だと思うわけがありません。


どうせ機能しない目標管理制度ならば、その原点に立ち戻ろう。
様々な仕事を割り振られてしまうけれど、そもそもなぜ働いているのか、という点に立ち戻ろう。
それは、部署に中で果たしている役割ではないか。

それが
「精緻化よりも単純化こそ成功への近道」
として記した内容です。


ただ、この考え方は、真の意味での管理職には機能しません。
与えられた責任が明確な管理職には、明確な数値責任を与えなくてはいけません
それは仕事と目標とが整合している状態です。

その状態をまず作り上げることができれば、精緻な目標管理制度は機能します。

目標を与えるのであれば、仕事をはっきりさせる。
余計な別の仕事を指示しない。

その条件が満たされて初めて、目標管理がセルフコントロールとともに機能します。

人は、自分を律することができるエリートばかりではないのです。



平康慶浩(ひらやすよしひろ)