自己責任をどう考えるか~人事評価制度のつくりかた本を出版するにあたって
私の仕事は人事評価制度をつくることが主な仕事でして、その仕組みで会社を発展させたり、会社で働いている人たちに自己実現とか成長できるようにしています。
人事評価制度を作るノウハウをまとめて、2015年2月に明日香出版というところからこんな本を出します。
7日間、としていますが、実際には7ステップということです。
ただ、従業員50人以下くらいだったら、本当に7日間でつくれるように、CD-ROMの中にサンプルとなる帳票類等を含めています。
類書のない点としては、等級毎の給与幅設定と、従業員別の移行給与額と、移行原資とを自動的に連動させて確認できるシートを用意していたりすることでしょうか。
数字を調整するとグラフとかも変化するようにしています。
さくっと使えるコンピテンシー評価のサンプルとかも入っています。
少なくとも数百万円くらいの料金をいただく人事コンサルティングの内容を本にしているので、かなりお得です。
で、この本を書きながら、自己責任のありかた、というものを改めて考えていました。
私の人事コンサルタント経歴は、ちょうどバブル崩壊後の職能等級型人事評価制度の改定からはじまっています。当時五反田にあった某大手電機メーカーに対する部長級への職務等級制度導入が、人事評価制度設計の最初の仕事でした。
以来、グローバルスタンダードとしての職務等級型&ペイフォーパフォーマンス型の仕組みを導入する企業はどんどん増えているのですが、一方でそこまで踏み切れない企業も多い状況を見ています。
グローバルスタンダード、というと世界のあたりまえ、です。しかし、これ(職務等級型&ペイフォーパフォーマンスの仕組み)を導入できる企業というのは、「いつでも転職できる人たちの集団」であることが前提なんですよね。
そのためにはもちろん、個々の人たちが優秀である、あるいは、優秀になろうとしている、ということが必要です。
ただ、それだけで「いつでも転職できる人たちの集団」ということにはなりません。「いつでも転職できる」ためには、そのための取引がされる場が必要です。つまり、「転職のための労働市場」が十分に整備されている必要があります。
残念なことに、今の日本ではまだ、グローバル大企業向け以外の労働市場が十分に整備されていません。
仕組みの問題もありますが、働いている多くの人たちがそのような意識になっていない、ということも原因です。
労働市場の整備はさらにすすめていかなければいけませんが、少なくとも現時点で職務等級型&ペイフォーパフォーマンスを中堅以下の企業で導入した場合、会社側にとって都合のいい人件費コントロールの仕組みの側面が強調されてしまいます。
そのため、上記にご紹介した本では、「ハイブリッド型人事評価制度」のつくり方を説明しています。
何をハイブリッドしているかといえば、行動に基づくコンピテンシーの発揮度合いと、任された責任に基づく職務の大きさを混合しています。
それは今の日本の労働市場を前提とした仕組みです。
じゃあこれから日本の労働市場の整備の方向がどうなるのか、ということを考えた時、「自己責任」が重要なキーワードとして頭に浮かんだわけです。
たしかに、今多くの働く人たちには自己責任が求められます。
学生たち、新入社員たち、働き盛りの人たち、ベテランたち、そして定年退職した人たち。
自分で自分のスキルを高め、価値を高めていかなくてはいけません。そうしなければ職を失うかもしれないし、そうでなくとも今のスキルに応じた職務(と給与)につかなければいけなくなります。
十分にスキルを高められなかった場合、「敗者」のように扱われることがあるかもしれませんが、それも自己責任だから仕方がない。それは全くその通りなんです。
ただ、私が考え込んでしまったのは、ふと頭をよぎった思いです。
「私は、今小学三年生の娘にも、自己責任に基づく生き方を教えるだろうか」
確実に教えるでしょう。
でも、教えながら、私はおそらく娘にとってのセーフティネットであろうとするでしょう。
次にこう考えました。
「私は、今年金を受け取りながら生活をしている両親にも、自己責任を求めるだろうか」
「それぞれの家庭を持っている妹弟にも、自己責任を求めるだろうか」
ある程度は求めています。でも、金銭面や情緒面でのセーフティネットであろうともしています。
自己責任が求められる時代になっている。
その時代を生き延びるために、私たちは、身近な人たちとのつながりをさらに強めなければいけないのではないか。
それは「何かをしてもらう」つながりではなく「自分が何をしてあげられるか」を問うつながりのことではないか。
人事評価制度をつくっていると、ついつい会社の中だけのことを考えてしまいます。
コンサルティングの仕事としては、そうすることがベストです。
でも、その仕組みを作った結果として、社会にどんな影響が出るのか。
個々の人たちにどんな生き方を求めるのか。
そんな思いを忘れないようにしたいと思います
平康慶浩(ひらやすよしひろ)