「できる人事」の条件とは?
【連載1-1】
あなたはルーチン業務に忙殺されていないだろうか。
勤怠を集計して給与計算を行ったり,入退社に合わせて社会保険手続きを行ったり。
半年毎,あるいは年次単位での定期的な評価の運営も大変だ。
評価スケジュールを周知して,結果を回収し,提出が滞る管理職には催促をする。
ようやく集まった結果も,中心化傾向や寛大化傾向が強すぎてそのままでは使えない。
何度も差し戻したり,無理やり分布率に合わせて調整することもあるだろう。
やっと評価結果が固まっても,給与改定に反映させると,それぞれの上司から文句が出る。
「彼の昇給がこれだけなら,もっと評価を上げておきたかった」
とか,その真逆の不満とか。
給与改定が終わる頃には,賞与支払いに伴う原資配分を考えなければいけない。
評価差をつけるべきか否か。
組合との話し合いでは「格差をつけるな」との要望があったが,経営層からは「つけろ」と言われていたし……。
ルーチン業務においては,すでに確定した意思決定に基づいて手続きと分析と調整をしっかりと行わなくてはいけない。
しかしそこまで苦労してルーチン業務を遂行しても,経営層からは,「うちの人事は使えない」などと言われる。
そして人事制度改革の主管部署が経営企画部門になったり,退職金改革が財務経理部門に委ねられたりする。
全く理不尽である。
なぜ経営層から見たとき,経営企画や財務経理のほうが信頼できる部署に映るのかといえば,経営者側の目線で話をするからだ。
経営企画は事業の進捗を把握しながら,数値で事業と企業の将来を描く。
財務経理は入出金状況をもとに年度末決算に向けて予測を立て,将来の投資回収や収益改善を見込む。それらはいずれも経営層が知りたい,考えなければいけないと思っていることだ。
一方で人事はどうだろう。
ときに経営層と対立するような視点で話をしなければいけない。
従業員がモチベーションを下げているので,社内環境を改善しましょう。
給与水準も上げましょう。
ブラック企業にならないようにサービス残業を減らしましょう……。
「分かってるよ。うるさいな」と返されてもなお言い続ける立場である。
人事とはずいぶん損な役回りだ。
でも実際のところ,経営企画や財務経理にだって損な役回りはある。
経営企画であれば株主総会や取締役会の開催だ。面倒な法定会議の開催を経営層に促し,議題を決め,決議をとるための下準備をするのはとても面倒だ。
財務経理にしても,支払いのための稟議や資金計画書といったお金が出ていく話をルーチン業務として経営層にしなければいけない。これも損な役回りである。
だから,人事における経営層側の目線をはっきりさせれば,「うちの人事は『できる』」と認められる可能性はあるということだ。
ではそれは何か?
「人事制度の改定」や「教育研修体系の構築」だって経営者側の目線に立った仕事だと思うかもしれない。しかしそれが経営にどう役立つのかをひとことで言い換えてみてほしい。
ひとことで示せなければ経営層は理解してくれない。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役
※当ブログ記事は、平康慶浩が月刊人事マネジメントで2013年9月~2014年2月にかけて連載していた「経営ブレインへの転換を図る5つの人事機能」から転載しています。