あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

【5-1】定年制度とは城か檻か-ハッピーな退職のためへの思考と仕組み

前回記事【4-3】経営者が知りたい「優秀さ」とは 

 

 今回も前回に続き、結論としては「つなぐ」話だ。

 ただし、つなぐ対象は“退職した人同士”である。

 それは会社と個人にとって「退職」を幸せなものに変えるということでもある。

 もちろんそんな取り組みは人事部門にしかできない。

 そして、この仕組みを作り上げることができれば、中長期的な企業価値も大きく引き上げられる。

 

 

■ そもそも退職とは何か

 

 多くの人事担当者にとって、従業員の退職とはどういう意味を持っているのだろう。

 

 人生の節目?

 挫折、あるいは飛躍の契機?

 それともただの手続き?

 

 退職に対する意識は、会社によって全く異なるといっていい。

 定年までの正社員雇用が一般的な会社であれば、退職とは寂しいものだろう。

 一方で、退職を祝う会社もある。

 私自身、過去の退職では祝ってもらったし、退職そのものに大きな喜びを感じていた(少しの寂しさもなかった、といえばさすがにそれは嘘になってしまうけれど)。

 

 

■ 退職は出口であり入口である

 

 定年退職しか見たことがない人にとっては、中途退職というのは珍事に映るらしい。

 実際、日本では一生の転職平均回数は相変わらず1 回を切っているので、それが一般的なのだろう。

 

 しかし、退職とは今いる組織の出口であるだけでなく、次のどこかに行くための入口でもある。

 

 要は“どこに入るための入口か”ということが、退職を祝えるかどうかのポイントになる。

 そして定年退職においてこそ”どこに入るための入り口か”ということを考えなくてはならない。

 

 

■ 個人も会社も思考停止している

 

 定年退職の大半がハッピーではないのは、退職が引退と同義であるからだ

 さらに昨今では退職金や年金が潤沢でもないので、退職は生活不安への入口になっている。

 つまり、稼げる立場を出て庇護される立場へ入ることが定年退職の現実になってしまっている。

 

 そんな状態を祝えるわけがない。

 

 なぜそんなことになってしまったかといえば、 1 つには思考停止がある。この問題では定年退職する個人も会社も思考停止している。

 個人が思考停止している、というのはそもそも“定年退職を待っている”という意識からわかる。

 少々古いが、投資顧問会社のフィデリティ投信株式会社が2010年に行った調査がある。

 

サラリーマン日韓比較 退職準備資金0円は日本44.3%、韓国29.5%(pdfファイル:495kb)

 

 老後の不安感はとても強いが、その準備は十分ではない、と言う調査結果だ。

 結果としてつつましやかな老後を送る人たちはとても多い。

 

 もっと重要にして深刻なのは会社側の思考停止だ。その結果、個人が思考停止せざるをえない状況に置かれているということもある。

 

 

■ 守ってくれる城か、外に出られない檻か

 

 会社の思考停止とは、人事制度の旧態依然からもわかる。

 定年制度は相変わらず存続しているし、定年でなければ満額での退職金が優遇されない会社が多い。

 「雇用確保」が叫ばれて久しいが、定年制や古い退職金制度が維持されたままでは、結果として守ったはずの従業員は定年と同時に突き放されることになる。

 突き放される前にどこか別の場所へ行きたくとも、タイミングを逃すととても難しい。自分を守ってくれる城が、あたかも檻のように、行動を押しとどめることになる。そのことに気付いている人事部門も多いが、それでもなお、城であることを信じて今の制度を守っている。

 

 では定年制度を止めればいいのか。

 一つの答として、たしかにそれはある。

 定年制度を廃止して、会社と本人とが合意する限りいつまでも働き続けられる会社は確かに存在する。

 しかしその割合はわずか2.8%だ。大企業で0.4%。中小企業でかろうじて3.1%と言う割合だ。

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    ※厚生労働省「平成25年『高年齢者の雇用状況』集計結果」より

 

 

 退職金制度も変えればよいかというとそれだけでは小手先の仕組み変更にとどまる。

 

 今、人事担当者に求められるのは、より本質的な、従業員の生き方への深い思索と行動だ。

 そのためには二つの取り組みがある。

 

 

次回記事【5-2】わが社の定年退職者を幸せにするために

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

※当ブログ記事は、平康慶浩が月刊人事マネジメントで2013年9月~2014年2月にかけて連載していた「経営ブレインへの転換を図る5つの人事機能」をもとに加筆修正したものです。

 

 

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