【5-3】退職を卒業に変えれば、スモールワールドネットワークが生まれる
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■ アルムナイ(卒業生)を組織する
ハッピーな退職の仕組みをつくるための、小手先でない第2 の方法を説明する。
それは、アルムナイのネットワーク化だ。
アルムナイとはあまり聞きなれない言葉だけれど、卒業生のことだ。
要は、企業を退職した人たちを組織化し、互いに交流できる仕組みを作ることだ。
そうすれば、企業を退職することが、少なくとも不幸の入り口ではなくなってくる。
(ちなみに定年退職者たちのネットワークを言っているのではなく、中途退職者を主な対象としていることに注意)
幸い現在ではソーシャル・ネットワーク・サービスが発達している。
単純にメーリングリストという形でアルムナイを組織化している企業だってある。
だから、ネットワークを作ること自体はさほど難しくはない。
最も難しいのは、ネットワークを機能させることだ。何も流れていないネットワークには存在している理由も価値もない。
アルムナイネットワークを作り上げ、機能させること。
それこそが従業員の退職をハッピーなものにし、企業の中長期での付加価値を上げる取り組みになる。
そのためにはネットワークそのものが自己成長するための3 つの仕掛けが必要になる。
1 つは、参加者の厳密な選別と退出基準の明確化。
2 つ目は、ボランタリーな運営による経済的価値の情報交換。
3 つ目が、ネットワーク存続のためのアンオフィシャルなつながりの提供だ。
経済的な価値の情報交換とは、独立した人への案件の紹介情報や、求職・求人情報の交換などがある。
参加者が厳密に選ばれている限り(それはたとえば2年以上在籍していて、円満退職している、とかの条件で担保される)、雑誌やメディアで公表されている者よりもずいぶんと信頼性が高まる。
また、誰かと知り合いたい場合でも、ネットワークが機能していれば、スモールワールド的につながりやすくなる。
少なくとも、その会社に入社できた実績がある人同士で、同じバックボーンで暮らしたことがある人同士なら、意思の疎通は容易になる。
■ アルムナイは企業の鏡
人材輩出企業と呼ばれる企業がある。
日本ではリクルート、海外ならマッキンゼーやグーグルなどが有名だ。
これらの企業の卒業生たちが様々な分野で活躍した結果、人材輩出企業と呼ばれるようになっている。
一方で伝統的な日本の大企業が人材輩出企業と言われることはほとんどない。
(リクルートもすでに伝統的日本の大企業と言えばそうかもしれないが)
もちろん優秀な人が大企業に多いのは事実だ。
しかし多くの伝統的日本の大企業は、それらの人材を外に出さない。
優秀な人を定年までひきとめ、活躍してもらうことで、企業価値を高めている。
一方、人材輩出企業と言われる会社では、優秀な人もそうでない人も会社を中途で退職し、新しい道を選び始める。
実際には、社内競争に敗れて退職することもあるけれど、それでもその退職を前向きにとらえる人が多い。
それは、実際に退職して活躍している人たちを見ているからだ。
すでに退職した人たちの活躍がオープンになっているだけで、退職者の気持ちはずいぶんと前向きになれる。
また、優秀な人材を囲い込むだけで今後企業が中長期的に成長できるかというと疑問だ。
今や環境変化は速く、人材の入れ替えは必須だ。あるタイミングで優秀さを発揮できた人が、10年後も同じように優秀でいられるとは限らない。しかし、社外には優秀さを発揮できる場所があるとすれば、囲い込むよりも外で活躍してもらう方がお互いにとって有益になる。
追い出す退職ではなく、互いにハッピーになるための退職。
そのためには、卒業生たちを公表し認めて、彼らに敬意を表する仕組みが必要だ。
アルムナイネットワークとは、在籍者たちが卒業生たちに、普通に社会人としての敬意を表する仕組みでもある。
そうして、アルムナイを尊重し重視する会社は、それだけ優秀な人材を集めることができるようになる。
たとえ1 年でも在籍すれば成長でき、退職後も尊重される企業になることができる。
終身雇用の会社に入りたいという人は多い。
しかし、途中で退職したとしてもそのことを誇れ、かつ敬意を持たれる会社があるとすればどうだろう。
あなたもそんな会社で働いてみたくはないだろうか。
次回記事【6-1】伝わりにくい経営者の思いを伝えるために
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
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※当ブログ記事は、平康慶浩が月刊人事マネジメントで2013年9月~2014年2月にかけて連載していた「経営ブレインへの転換を図る5つの人事機能」をもとに加筆修正したものです。
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