地動説は天動説信者を説得できなかった(人事の話です)
僕たちは今、地球が惑星であり動いていて、世界もまた動いていることを知っている。
つまり、天動説も地動説も正しい、と言うことを知っている。それぞれが排他的でない、と言うことを知っている。
でも、昔はそうじゃなくて、地動説がひろまったときにはコペルニクス的転回とか言われたりもした。
天動説は昔のあたりまえだった。でも今はそんなことはない。
どこで読んだか忘れたのだけれど、結局、どれだけ証拠を示したところで、天動説支持者を説得することはできなかったらしい。地動説が正しい、といっても、「んなこたねぇ」「ふざけんな」という反応だったということだ。
で、結局なぜ地動説が広まったのかと言えば、そんな人たちが死んだからだ、ということだった。僕が読んだ話では。
ものすごく納得する。
バカは死ななきゃ治らない、というが、そうじゃない。
人は、半生をつぎ込んで信じてきたものを、否定することができない。
だから、バカ、というのは今の世情に合わせてみた時の話だ。かつては太陽は毎日死んで生まれ変わる、ということすら信じられていたのだから。
人事制度の世界でも同じだ。
上司の常識は、部下の常識ではない。
でも、上司は過去を忘れられないし、部下もまた上司を理解できない。
実は、上司も部下も正しいのに。
でもまあ、直近の話でいえば、上司がまずいことの方が多い。
たとえば、僕がいつも苦労することがある。こんなやりとりをするときに、特にそう思う。相手は役員とか社長だ。
「なぜ彼を課長に抜擢できないんですか?」
「だってまだ入社3年目だし」
「成績は申し分ないし、上司も認めていますよね。彼の方が優秀だ、って。実際、今の課長はなにもしないじゃないですか。顧客だって、彼に出てきてほしいと言っていますよ。社風だって変わる。今こそ、3年目の彼を課長に据えても問題ないでしょう」
「だってまだ入社3年目だし」
「入社3年目で何が悪いんですか」
「だってまだ25歳じゃん。俺が25歳の頃はバカだった。だからあいつも実はバカなんだよ」
バカは死ななきゃ治らない……のだろうか。
結局、人が変わらないと組織は変わらない。
どれだけ論理を尽くしてみても、人は結局、感情の生き物なんだなぁ、と思う。
僕は人事コンサルタントとして、つくづく、そう思う。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)