あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

宗教と人事制度の相性が意外に良いことに気付いた

まず最初に、僕は無宗教だ。

日本に住むほとんどの人と同様に、正月には神社に初もうでに行く。

えべっさん(これは関西限定か)で宝船をもらう。

お盆にはお墓参りをするし、12月にはクリスマスを祝う。

暮れには除夜の鐘にしみじみとものを思う。

友達や部下の結婚式に呼ばれれば、神式でもキリスト教式でも人前式でもなんでも顔を出す。

葬式のときには数珠を持って焼香をする。

 

そんな僕が、宗教色の強い、とある企業(A社)の人事制度をつくることになった。

宗教団体そのものではないけれど、社長をはじめとする経営幹部のみなさんは全員その宗教の信者だ。

もちろん彼らは僕に布教するわけではないし、従業員に対して入信を勧めているわけでもない。

人事制度はビジネスのロジックで構築するものなので、信教がそこに影響してくるわけでもない。

従業員の行動をチャレンジングで生産性の高いものにするために、どのような評価の仕組みをつくり、報酬体系をつくり、教育すべきか、ということをミーティングで詰めていく。

正直、とまどいはあったけれど、気にはしなかった。

 

僕は新しいクライアントで人事制度をつくるとき、経営陣に対して必ず問いかける質問がある。

 

「『あなたと働きたい』、と思える人はどういう人ですか」

 

この質問に対する答を掘り下げていくことで、実はその会社にとっての「あるべき人材像」がわかってくる。

とあるベンチャー企業でこの質問をした時の答は

「とにかく前向きで失敗を恐れない人」

というものだった。

答をいただくと、僕はそこにさらに質問を重ねていく。

じゃあ、前向きな活動の結果失敗したら、どういう処遇を与えますか。

前向きではあるけれど、スキルが足りない人に対してはどうしますか。

実際に今、働いている人たちの中で、その条件を満たしている人はどれくらいいますか。

もしかすると、本当はそういう人よりも、「言われたことをきっちりこなす人」の方を高く処遇していたりしませんか。

 

この質問の結果わかってくるのは「会社を引っ張っていく人材」と「会社を確実に運営していく人材」の違いだったりする。

企業が求めるあるべき人材像、というのは実は一種類ではないからだ。

全員がピッチャーで四番打者という人材ではチームにはならない。

「前向きで失敗を恐れない人」ばかりの組織は、おそらく簡単に崩壊する。

後ろ向きな人も必要な場面があるし、失敗を極端に恐れる人が求められる場面だってある。

チームとして、組織として高い成果を出すためには、多様な人材が必ず必要になる

 

しかしそこからさらに質問を深めていく

そうすると、多様性の中にも通すべき筋が見えてくる。

なるほど、後ろ向きの人材が必要な場面もあるかもしれない。

失敗を恐れる必要があるかもしれない。

でもやはり、この組織では「失敗を恐れない」「常に前向きである」ことが必要だ、ということがわかっていく。

失敗を恐れる必要があるのなら、そういう人材は社外に求めよう。コンサルタントや会計士、弁護士にチェックしてもらう機能を作ればいい。

後ろ向きになるべき場面があるかもしれないが、それでもやはり前向きでいよう。その結果失敗したとしても、それは受け入れよう。

そんな議論が深まっていくことで、本当のあるべき人材像がクリアになる

 

A社でもそんな議論を深めていった。

そうして出てきたあるべき人材像とは

「一緒に働いている人たちに尊敬される人」

「お客様、他の従業員たちを思いやれる人」

という答えになっていった。

 

もちろん僕は問いかける。

尊敬されていて、思いやれる人でも、仕事ができなければどうしますか。

思いやることを優先して、売上や利益が低迷したらどうしますか。

 

そうして、この会社のあるべき人材像は、以下のようなものになった(そのものではなく、少々アレンジして示す)。

・反省できる人

・成長を目指せる人

・思いやりがある人

・知恵がある人

 

この4つの条件が満たされていれば、売上や利益も高めていけるはずだ。お客様に選ばれる企業になっていけるはずだ。そういう結論になっていった。

これらの条件は、たとえば松下幸之助さんの言葉や、稲森和夫さんの言葉にも数多く出てくるものだ。だからとてもしっくりくる。

もちろん評価制度を作る際には、これらを単純に評価指標にするのではない。

たとえば「思いやり」をチェックするためには多面評価で確認したりする。

「知恵」を評価するためにテストやアセスメントを実施したりする。

そういうテクニックを発揮するのはこちらの仕事なので、じゃあ具体的作業を進めよう、としたとき、幹部の一人がふとつぶやいたのだ。

 

「これって、うちの宗教理念そのものですよね」

 

そういって、その宗教団体の理念を教えてくれた。

なるほど、と思った。

彼らはどちらかといえば、自分たちが信じている宗教を、企業経営に押し出すのはまずい、と考えていた。だからその理念を最初から示してくることはなかった。

でもやはり、幹部たちが信じている教義は、そのまま経営にも反映される。

幹部たちが信じている理念は、そのまま人事に直結してくる、ということだ。

 

考えてみれば、成長している企業の中には、まるで宗教団体のように強固な理念を持っている組織も多い。

だから、宗教色の強い組織であることは、人事制度構築に際して、重要な指針となるのだ。

 

最も大事なことは、経営層が同じ理念を持っている、ということだ

同じ理念に基づき考え、行動し、仲間を集めていく。

そういう組織はとても強い。そして成長できる。

人事制度は、組織を強く成長させるための選別の仕組みとなり、選別した中でさらに多様性を促す仕組みとならなければいけない

 

そんなことを改めて実感させてくれた。

やはりコンサルタントは、クライアントとともに成長する。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

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