年功序列崩壊と同一労働同一賃金は、実は同じことを言っている
面白い本を読んだ。
知人の大室正志さんが紹介していた本。大室さんは産業医として活躍されながら、ニュースピックスでもプロピッカーとして活躍されている。
僕がこの本に惹かれた理由は、実は大室さんの紹介文だ。
Facebookの友人・知人向けに書かれた紹介文なのだけれど、ご本人の許可を得たので、その一部を掲載してみたい。
「サードインパクト、サードプレイス、サードウェーブ。
「様々な3」が出回る昨今、さすがにこれは思いつかなかった。いやさすがに言えなかった。近年まれにみる”思い切りの良い本“が発売されました。
その名も『日本3.0』。」
「本書はいわゆるジャーナリストが事実を積み上げてまとめたノンフィクション作品ではありません。事実はあくまで参考文献。意見を補強するためのツールに過ぎません。
ですので、この歴史認識などにとやかく言うのは野暮ってもんです。
むしろこのような本はヒトをどれだけ「その気にさせたか」、「ワクワクさせたか」で評価されるべきかと思います。」
それがまさにこの本だ。
なるほど、それだけ思い切りがよいのであれば、これは読む価値があるだろうと思った。
で、読み終えてみて、たしかに僕は「ワクワク」したのだ。最近会う人に、「2020年から変わりますよ、この本読んでみるといいですよ」とか言ってしまってるし。
中でも僕の中で、ワクワクしながらあらためて整理できた考えがある。
この本でも重要な位置づけを持っている「年功序列の崩壊」「同一労働同一賃金」の二つの言葉に基づくものだ。
僕は人事コンサルタントなので、これらの言葉に日常的に接している。
しかしこの本を読んで、はたと気づかされた。
そうだ、この二つの言葉は、同じ概念に根差しているのだ、と。
それは、佐々木さんの本で言うところに、日本2.0=戦争の終結によるものだのだ、と。
人事的に言えばそれは「標準世帯」という概念だ。
標準世帯というのは、普通の日本人ならこういう世帯を持つはずだ、という定義だ。
具体的にはだいたい以下のように設定されている。
・男性は26才、女性は24才で結婚する
・女性はすぐに専業主婦になる
・結婚したその年の内に1人目の子どもを出産する
・数年後に、2人目の子どもを出産する。
このような世帯が「標準」なので、もちろん人事の仕組みもそのように設計する。
その際の給与の仕組みは、標準生計費という基準に翻訳される。
それは現在の東京でこんなグラフになる。
※厚生労働省が公表している各種統計データをもとにセレクションアンドバリエーション作成
このグラフで給与が増える根拠は簡単だ。
子どもにかかる費用がそのまま生活費として計上されている。
そして、二人目の子どもが独立するであろう、父親が53才前後をピークにして、標準生計費は下がっていく。
今週更新した日経スタイルの記事の最初の方でもこのあたりについては軽く言及しているが、これは限りなく結果平等といえる考え方だ。
ではこのような考え方がいつ生まれたのか。
このことについてわかりやすく記している論文を紹介しよう。
内容をかいつまんで話すと、標準世帯の発想は、戦前から戦中にかけての国家総動員法における賃金統制令の中で生まれたものだ。
そして、実は、新卒初任給を低く抑える、という発想すらこの時に生まれている。
賃金統制令以前の日本は、どちらかといえば世界標準的な職務給が運用されていた。つまり〇〇円支払わなければ雇えない、ということならその分を払った。その上で、年令などに関わらず、出来高に応じて給与を支給したのだ。
それが賃金統制令で、年令と業種と性別で、賃金の最高額を定めてしまった。
また昇給についても制限した。ただし家族手当は例外として認めた。
だから、給与を増やすためには、年を取るしかなかったし、家族を増やすしかなかった。
しかし今、あなたのまわりに「標準世帯」の人はどれくらいの割合でいるだろうか?
実際問題、今の「標準世帯」は一人暮らし世帯だ。
だから、標準世帯概念に基づく標準生計費は、現状にそぐわない古い概念だと言えるだろう。
だからこそ、年功的に給与を増やす仕組みは不要になるだろうし、年令で給与を下げたり、雇用形態で給与に差をつけるような(それはつまり終身雇用が前提だからそうなるのだけれど)正社員と契約社員の給与格差はなくなっていくだろう。
年功序列の崩壊と、同一労働同一賃金の適用は、つまり戦後の標準世帯概念からの脱却なのだ。そしてそれは、結果平等から機会平等へ移行することに他ならない。
ただ、ここまで考えて、発展的に疑問を感じた。
これはつまり、人事の仕組みが先に変わったから、標準世帯が崩れたのか。
標準世帯が減っていって、同時に人事の仕組みが変わっているのか。
そこのところについては、もう少しだけ調べてみようと思う。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)