あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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「残業しないメリット」、ちゃんと示せていますか

働き方改革について、個別に相談に乗ることも多い。

今日も3社の相談に乗ったのだけれど、その時こんな絵を描いて示した。

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残業を禁止したり、残業しない働き方を推奨しても、残業が減らないのは、残業するメリット+デメリットが、残業しないメリット+デメリットを超えているからだ。

その背景には、サービス残業の激減と、過剰残業の縮小がある。

 

この数年、労働基準監督署は本当に良い仕事をした。

いくつもの痛ましい事件を踏まえ、メディアでも「残業=悪」という構図を徹底して広めた。

それらのおかげで、今やサービス残業は激減しているし、残業代も支給されるようになった。

そうしてみれば、残業することはメリットもしっかり生むようになったのだ。基本給与が毎年ほとんど増えていないことがそれに拍車をかけている。

  

今や、働く現場では以下のような関係が成り立っている。

 残業すると、「残業代がもらえる」代わりに「自分の時間が減る」し時には「健康状態が悪化する」。

残業しなくなると「自分の時間が手に入る」し「健康状態が良くなる」が、「月給だけで生活する」ことになる。

 

つまり「時間」と「お金」とのバーター関係だ。

それは労働の目的の主たるものではないだろうか。

そして「実際に残業代が支払われている」のであれば、会社で残業して稼ぎたい、と思う人がいても決しておかしな話ではない。

 

一方で自分の時間が増えたところで、やることが無い人も多い。

自己実現とか自己研鑽ができます、というが本当だろうか。

株式会社ジェイアール東海エージェンシーが2016年に行った調査では、全年代を通じて50%以上の方が選ぶ余暇の過ごし方は、「のんびりと家や近所ですごす」というものだった。

また、平日に定時で会社を出たところでやることがあるわけでもない。プレミアムフライデーが有名無実化していることや、フラリーマンという言葉が広まっていることからもわかる。

 

だからこそ、働き方改革で残業を減らすには、「残業してでもお金が欲しい人」に対して、別のプランを示せなければいけない。それはつまり、残業しないメリットを示すということだ。

 

実際問題、働き方改革が成功している企業の多くは大企業だ。

つまり、「月給だけで生活する」ことができる会社だ。

もし働き方改革を進めるのなら、そもそも自社の報酬水準を確認する必要がある。

それがもしずいぶんと低いのなら、特に「残業しないメリット」を打ち出すことが重要になる。

 

単純に給与水準を引き上げることはもちろん難しいだろう。

 

だとすれば、選択肢は、副業や兼業の解禁しかないのかもしれない。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)