就職課は学生に職業を紹介するにあたって倫理を持つべきだ
2016年に書いたこの記事をもとに、某著名ビジネス誌で取材を受けました。
4月末くらいに掲載されるはずなんですが、令和を迎える現在、この時のデータはどうなっているのかとういう分析を踏まえた話をしました。
そこであらためて感じたのは(人事制度を設計する立場として)そもそも職業紹介をする側がもっと事実を伝えるべきではないか、という問題意識です。
たとえば上記の2016年の記事に掲載しているグラフをあらためてこちらでも掲載してみますが、こんなんなわけですよ。
つまり現代においては、生涯にわたっての給与格差は、業界でほぼ確定する、ということがわかっているわけです。
けれども、この事実は学生たちはぜんぜん届いていないのです。
たとえばまじめな優しい学生が「私は人を助けたいので介護業界で働きたいと思います」と言ったとします。
これに対して「そうか。じゃあどんな会社があるのかを調べて助言しよう。面接補助もするよ」という指導を就職課がしたとしましょう。
これは最悪な指導なんですよ。
なぜなら介護業界の生涯賃金カーブはこうなっているから。
(賃金構造基本統計調査最新版よりセレクションアンドバリエーション作成)
仮に新卒で介護業界に入ったとして、どれだけ経験を積もうとも、年収は初任年収から100万円も増えないのです。
どんな大手に入ろうとも一緒です。
それは統計が事実としてしっかり示しているのです。
もし就職課が学生の優しい気持ちを理解するのなら、この事実もあわせて示さなければいけません。
「君の志は素晴らしい。けれども君が介護業界を新卒で選んだら、ワーキングプアに陥る可能性が極めて高い。それでもそうする?」
と告げなければいけないでしょう。だって事実はそうなのだから。
だから学校の就職課が、介護業界を目指す学生を本気で指導するのなら、二つの選択肢しかないわけです。
選択肢① 全力で止める
選択肢② 介護のビジネスモデルを学んで、介護ビジネスを立ち上げることを勧める
どんなビジネスも、それがビジネスとして成立している以上、経営者には儲かる余地があります。
だから介護を志す心優しい学生に対してはこう指導しなければいけないのです。
「君の志はすばらしい。でも君が介護士として助けられる人の数には限りがある。だからたとえば介護をより広めるための仕組みを作ってみてはどうかな。数年間は介護の仕事をしてみて、その上で経営大学院にあらためて入ってみてはどうだろう。そこでビジネス化を考えてみると、君の思いをもっと実現しやすくなると思うよ」
多くの学校の就職課は、目の前の就職率ばかり見ている気がします。
その結果、ワーキングプアを生む業界の再生産に寄与しています。
若い才能ある人たちを送り出す機関は、むしろ新しいビジネスの創出を助けなくてはいけません。
そうすることで、現在はワーキングプアを生むしかない業界も、大きく変革する可能性を得るのですから。
イノベーションを期待して送り出す。
それこそが就職課に求められる本質ではないでしょうか。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)