マイナス金利の時代は生きているだけで丸儲け(人的資本の算出結果グラフに基づく)
2018年10月に本を出してから、本業に専念していて、それで本業は順調にのびて拡張移転なんかもできているのですが、そろそろ次を出さんかい、という編集長のお言葉をいただき、コツコツと書いている日々です。
ちなみに2018年に出した本はこちら。
拡張移転したオフィスの雰囲気はこちら。
私は日経スタイルというサイトに連載もしているのですが、それらの連載はその都度考えたことを書いていて、一冊の本にするには少しまとまりがないのです。
だから今回はあらためて一から書き下ろしています。
本を書き下ろすときに私がどうするかというと、思考の拡散からはじめます。
具体的には、買い貯めてある半ば積読化している本を前にして、とにかく読み漁ります。
都市論とか共同体論とか生物学とか社会学とか経済学とか経営学とかファイナンス系とか。あと雑多なのもいろいろ。
私が出版社に期待されているのはやはり人事とか出世とか給与とか評価とかの仕組みを論じることなわけですが、2014年に
を出したあたりから、その手の本はたくさん出始めています。
となると同じような本を書いても目新しくないので、また新しい切り口を探したりします。
そんな中、大学院の同窓生が、これまた新しいファイナンス系の本を出したというのでそれを手にしていて、考えが膨らみました。
企業価値向上のための資本コスト経営 投資家との建設的対話のケーススタディ
ちなみに他の人がなかなか書かない私独自の切り口としては、人事とファイナンスの融合、なんてのがあるわけです。一応ファイナンスMBA持ってますので。
で、いろいろなデータをいじりながら、そういえば人を人的資本の観点から、今の賃金構造基本統計調査などの実データを基に算出したら、現在価値はいくらになるんだろう、と考えたりしました。
前提ですが、人の人的資本としての現在価値、というのは考えようによってはひどい考え方です。なぜなら、人的資本というのは、その人にかけたお金がどれくらい返ってくるか、ということを計算するものであり、それはつまり、親が子どもを所有している場合にいくら儲かるか、という概念につながってしまう可能性もあるからです。
生産財としての子どもの価値の計算なんですね。
しかし現代においては多くの子どもは独立するので、どこかの先生も書いておられますが、既に家制度のない現代においては子どもは生産財ではなく消費財であり、つまり費用は親が支払うけれど、リターンは子ども自身が受け取るという構造になっていて、厳密には人的資本としては語れないということをあらかじめ書き記します。
繰り返しますが、要は「こいつひどい計算している」とか言わないでください、ということです。どうぞよろしく。
さて、人的資本の現在価値を算出するにあたって、毎年の費用と収入の仮説が必要です。
費用については、基本は親に養われている前提として、標準生計費をベースに、3人世帯マイナス2人世帯分の差額が子どもにかかるものと仮置きしました。
標準生計費は地代家賃が持ち家の人たちとの按分になっていたりして低めになりがちです。だから持ち家割合を別データから30%あたりに仮定し、それだけ3倍にして試算しています。
また、文科省データから、幼稚園~高校までの費用と、大学については某金融機関のデータなんかを引っ張り出し、国公立として仮置きしました。
収入については大卒後1年目から、日本の平均賃金を受け取り、65歳まで雇用されるとして計算しました。
なお、働きだすとともに一人暮らしを始め、結婚せず、生活水準も引き上げないままでずっと暮らす前提です。実際にはそうして生じた余剰賃金を遊興費とか貯蓄とかに回すわけですが、あくまでも人的資本なので、その際の消費は考慮しません。
あ、ちなみに一人暮らしの費用には、携帯電話代とか遊興費は一定額参入しています。
さて、人的資本算出における大きな課題が、資本コスト、です。
リスクフリーレートは0%でよさそうですが、リスクプレミアムはどう見るべきでしょう。いやむしろWACCとして、かかった費用を調達する利率なんかで見てもよいかも、とか思いましたが、まあそれらはややこしくなります。
で、とりあえず無担保コールレートあたりを持ってきてみようと思いました。
1991年で5%くらい。1995年で1%くらい。以後0%あたりを前後して、最近はマイナスになっています。
で、資本コストを5%、1%、0%、-1%で設定して、人的資本の現在価値を出してみたのがこちらです。
最初に、驚愕の5%の場合。
現在価値がプラスに転じるのはなんと59才時点。
現在価値はわずか50万円ほどです。
まあそれもそのはずで、現在の賃金構造はインフレなどを前提としていません。となると、資本コストが高まると、その分だけ収入がふえなければどうしてもしんどい。
ちなみに資本コストが5%の場合、22歳までかかった費用がゼロだとしても、22歳から計算した際の人的資本は1200万円ほどにしかなりません。
利率が高い時代に、収入が増えない職業についたら生活が大変、ということです。
まあ結論はあたりまえなんですが、計算するとそれがよくわかります。
さてではより現実的な1%だとどうなるか。
資本コスト1%の場合、人的資本の現在価値は4400万円ほどになります。
これならまあ、今の状況でもなんとか暮らしていけそうです。
けれども家族を持つには少し厳しいでしょうね。
では資本コストが0%だと?
人的資本の現在価値は8000万円。
さらにこの場合、オレンジ線がプラスに転じるのが36才の時点です。
22才~36才までの平均的収入で、これまでの生活・投資費用をすべて回収できる計算です。
では最後に、さらに現状に近いマイナス金利として、-1%の場合。
資本コストがマイナスということは、将来得る金額の現在価値が飛躍的に高まる状態です。
その累計はなんと1億3800万円。
つまりこれはもう、生活できる収入を確保できているだけで、そのまま生きているだけで、現在価値が高くなるという状況です。
このような分析をしてみてお思うのは、金利が人生に与える影響の大きさです。
お金を預けても増えないし、お金を借りても利息を払わなくてもよい状況では、人は現状に十分に満足できるわけです。
そして金利とは、その国における人々の欲望の物差しです。
欲望が小さくなれば収入を増やすことの現在価値は減少します。
最近の若い人が出世を目指さないということと、マイナス金利というのは、相関関係ではなく因果関係を持っているのかもしれない、と思うのです。
皆さんはどう思われますでしょうか。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)