翻訳家としての人事コンサルタント
コンサルタントをしていると、1回だけのご縁のお客様と、長く続くお客様とに分かれることを経験します。
そうして人事コンサルタントとして長くお付き合いさせていただいているお客様について考えてみると、求められてきた機能のひとつに「翻訳」があったように思いました。特にメンバーシップ型の会社でその傾向があるように思います。
翻訳というのは「ある言語で表された文章を他の言語に置き換えて表すこと」(デジタル大辞泉)ということです。
では「ある言語」「他の言語」とはなんでしょう。
それは「経営層の視点」と「従業員の視点」に他なりません。
人事コンサルタントの仕事は、2つの入り口のどちらか一方から始まることが多いです。
2つの入り口とは、経営層からのご依頼か、従業員側(多くの場合は人事部課長)からのご依頼です。
例えば経営層からのご依頼においては以下のような課題解決を求められたりします。
①.従業員の行動変革⇒もっと成長と成果を出すような仕組みが欲しい
②.特に管理職層以上の成長⇒経営を任せられる人材に増えてほしい
要は『自分たちで改善し成長するようになってほしい』という課題ですね。
そうしてコンサルティングを始めてみると、もちろん従業員側の方々と多く話すことになります。
従業員の皆さんから出てくる反応としては
「やるだけのことはやってます」「そもそも上の人たちから変わるようにしてくれないと」
といったものがあります。
それらの意見を持ち帰ると、経営者側としては、やっぱりうちの従業員は不満ばかり言うからどうしようもない、という愚痴が聞かれたりします。
一方で、従業員側からのご依頼だと以下のような課題解決を求められます。
A.働かないおじさんを改善して、若者へ報酬配分する仕組みが欲しい。
B.夢のある会社にしたい。ロールモデルを適正化し、管理職レベルを引き上げるか入れ替えたい。
要は『世代間ギャップをまず解消してほしい』という課題です。
それを進めようとして経営層に確認を進めるとこんな反応が出てきます。
「そうは言っても彼らは功労者だし成果も出してきている」「そういう彼らもやがて年をとるんだから」
四の五の言わずに自力で成長してよ、という経営層に対して、僕たちは損をしている、という従業員側。
意見の軸が全く違う状況で、直接対話をすると、どうしてもずれまくるどころか、話にもならなかったりします。
ここに示した例はメンバーシップ型企業の場合ですが、議論のずれは、若い人の報酬水準が低いせいだったりします。しかしそのことをお互いにあまりはっきり言わない(言いづらい)ので、議論がぼやけていきます。
そこで人事コンサルタントはこんな提案をします。
「3年以内に一人あたり売上を上げて、平均給与を引き上げましょう。そうして、今の高齢者側の給与を引き下げることなく、結果を出す若手の給与を引き上げるようにしましょう。そのためにも、まず組織として成果を出すための、マネジメントツールとして人事評価制度を設計しなおしましょう。制度導入後1年で業績をどれだけあげられるか、しっかりフォローしてゆきましょう」
人事コンサルタントが行う翻訳とは、お互いが言いたいことを整理して、お互いが幸せな状況をゴールに置くようにすることです。
そのために歩むプロセスも一緒にできればなおよい。
考えてみれば、そうした翻訳ができたお客様とは、長く続いている気がします。
他のタイプのコンサルタントにはない、人事コンサルタント独自の面白さがそこにある気がしています。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)