あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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部下への「フィードバック」の効果的な進め方

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※当記事は三井住友銀行経営懇話会向けの会報誌Netpress(ネットプレス)からの依頼で平康慶浩が執筆した内容を転記したものです。

 

 

当記事のポイント=======

1.失敗している(うまくいかない)フィードバックは、「気が向いた時」に、「一方通行」で行われています。

2.一方、成功するフィードバックは、「予定より多め」で、「聞くだけ」で行われています。

3.問題がある会社は、フィードバックの目的を踏まえて、これまでの進め方を見直す必要があります。

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1. フィードバックと人事面談は何が違うのか

ヤフー株式会社の「1on1ミーティング」が書籍で紹介された2017年頃から、面談手法としての「フィードバック」が導入されるようになりました。

それまでも人事評価などを目的とした面談はあったのですが、たいていこんな不満が口にされていました。

 

【上司側】
・忙しいのに、わざわざ面談の時間なんかとれない。
・褒めることも叱ることもタイムリーにやっているから、それで十分だ。

 

【部下側】
・どうせずっと説教か自慢だけだから、面談なんていらない。
・そもそも私の仕事ぶりを知っているわけでもないのに、何を面談するのか。

 

上司と部下、それぞれの言い分は異なりますが、少なくとも「面談なんてやっても意味がない」ということについては共通していました。

しかしながら、ヤフーの事例が評判になるにつれ、フィードバックという手法を使えば面談も効果があるらしい、ということが広まり始めました。

そして、多くの会社でフィードバックの手法が採り入れられていきます。

フィードバックの実施に際しては、従来の面談と差別化するために、面談者である管理職に対して以下のような点が指示されるのが通例です。

 

  • 開催回数を増やす……人事面談は半期に1回が基本でしたが、フィードバックは少なくとも四半期に1回は行う。できれば、毎月1回以上の頻度で行うのが望ましい。
  • コーチング手法を採用……部下の話を丁寧に引き出す傾聴の手法が導入すること。上司側から一方的に通達するのではなく、課題や今後の行動について、聞き出すような進め方で面談を行う。

 

このようにして広まったフィードバックですが、人事コンサルタントとしての私の実感としては、うまくいっている会社が半分、そうではない会社が半分、といったところです。その違いはどこにあるのでしょうか。

 

2. 失敗するフィードバックは「気が向いた時」に「一方通行」

失敗しているフィードバックの現場を見ると、たいてい同じ原因が潜んでいます。

フィードバックが失敗している根本的な原因は、上司側の気が向いた時に行われていることです。

「忙しいから」という理由で人事が定めているタイミングや回数を守らないためにそうなるのですが、その結果、フィードバックの進め方が極端になりがちです。

上司が忙しいと、「今日時間があるからフィードバック面談しよう」というように突然開催されたり、定められた期間以上に間が開いたりします。

すると部下の方も準備ができないので、話す内容が整理できていません。

結果としてフィードバックの場が上司からの一方的な伝達の場になったり、実務ミーティングと同じようなやりとりになったりします。

そうなってしまうと開催の意義が低下し、さらに開催頻度が減っていきます。

 

また、上司が部下の状況を十分に把握しきれていない場合、フィードバックの場がクレームの場になることがあります。

そのようなフィードバックは、しばしば予定していた時間を超えるため、尻切れトンボになってしまいます。

上司側は面倒な気持ちになって、次の開催を延期したくなるでしょうし、部下側は「どうせ話をきいてくれない」と思ってしまいます。

そしてやはりフィードバックに意義を見出せなくなってしまいます。

 

このように、うまくいかないフィードバックは、上司側が一方的にダメ出しをするか、部下側が一方的に不満を言い続けるか、どちらかのパターンで失敗することが多いのです。

結果として、「気が向いた時」に「一方通行」のフィードバックとなってしまい、むしろやらないほうがましなくらいの状況に陥ってしまいます。

 

3. 成功するフィードバックは「予定より多め」で「聞くだけ」

では、フィードバック手法を成功させている会社は、どんなふうに運用しているのでしょうか。

成功している会社でフィードバックは、とにかく開催回数が多いことが特徴です。たとえばある会社では、人事から四半期ごとに開催するよう指示されているにもかかわらず、平均開催頻度は1か月半おきだったりします。

別の会社では、毎月の開催を指示されていますが、可能な時には隔週で実施することもあります。

また、開催時のフィードバックの進め方ですが、傾聴しかしていないことが多いようです。上司からの不満も、部下からのクレームもなく、部下側が話す事実について、上司がうなずいたり質問したりするだけなのです。

 

肩の力が抜けた感じで、スムーズにフィードバックが実施されていることが大半です。

 

こんな進め方で、はたしてフィードバックがうまくいくのか、と疑問をもつ人もいるかしれません。ところが、これがうまくいくのです。

 

4. そもそもフィードバックの目的は「気づかせる」こと

ダメ出ししたりクレームを聞いたりするフィードバックが失敗し、肩の力を抜いて事実を確認するだけのフィードバックが成功するのはなぜでしょう。

 

それは、フィードバックの目的が「自発的な行動を促す」ことにあるからです。

 

ダメ出しは上司からの指示や強制となるため、自発性は生まれません。

また、部下の不満を解消したところで、行動にはつながりません。

自発性は事実の確認を踏まえた気づきによってのみ生まれるのです。

人は誰かに言われたからではなく、自分で気づくことしか行動できない生き物です。

傾聴を軸としたフィードバックの進め方は、その目的のためにうまく機能します。

そして開催頻度が多くなるほどに、気づきの機会は増えていきます。

結果として、間違った行動をとる期間が減り、結果を生み出すための適切な行動が増えるようになります。

 

ぜひ、「正しく指摘する」ことではなく、「気づかせるために聞く」ことを目的として、フィードバックを運用してみてください。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ) 

 

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