タレントマネジメントシステムには新しい評価報酬制度が必要
タレントマネジメントってなに?
タレントマネジメントを支援するHR-TECHシステムが普及しています。
「うちも●●●●を導入しました。これからはタレントマネジメントですね」
という声をクライアントからよく聞くようになりました。
タレントパレット、カオナビ、CYDAS、HRBrainなどが有名ですね。
ただ会社によっては、「タレマネって言いたいだけちゃうんか」と吉野家コピペ的に突っ込みたくなる場合もあります。
そこでふわふわしたタレントマネジメントをしっかり根付かせるためのポイントを書いてみようと思いました。
今回は、評価報酬制度との関係です。
時々追記して修正していきます。
- タレントマネジメントってなに?
- タレントマネジメントシステムは可視化を助けてくれる
- 可視化の準備がなかなか大変
- タレントは配置して初めて活躍できる
- 今の評価・報酬制度はタレントマネジメントに耐えられるか
- 可視化の先の活躍のためのフェアな評価と報酬
タレントマネジメントという言葉自体は30年くらい前から登場していますが、考え方としては昔から言われているように、優秀な人を見つけて育てて活躍して成果を出してもらう一連の意思決定のことがタレントマネジメントです。
図にするとこんな感じ。
タレントマネジメントの目的は、成果を出してもらうことです。
タレントマネジメントシステムは可視化を助けてくれる
タレントマネジメントシステムを標榜するHR-TECHシステムはこの要素の中の「可視化」に効いてきます。
社員が多くなってくると、どこにどんな人がいるのかがわからなくなるからです。
だから過去の成果やそれに伴う評価結果などをデータベース化して、タレントと言える人のスクリーニングをできるようにしています。
抽出条件設定は自分でしなければいけませんが、最近のシステムはそこからもう一歩進んで、成果を出す人の特徴を抽出できるような支援をしている場合もあります。
AI活用、と言われる部分ですが、機械学習の段階にまで到達できているシステムはあまりないようです。そもそも機械学習のためには各種行動や評価などと成果を紐付けた教師データが必要なので、その仮置きをしなければいけません。
しかし定量的な成果データに置き換えられている人事制度はあまりありません。
そのため、タレント抽出の前提として重回帰分析や因子分析、クラスター分析などで、教師データとなるタレント仮説を設定する必要があります。
そこまでやってくれるシステムがあるとすごいんですが、私の知っている限りではまだ存在していないようです。
その作業自体はシンプルな多変量解析なので、正規化したデータをcsvで吐き出して統計ツールでゴリゴリ分析できる人なら、それほど時間をかけずに作業ができます。
問題はそこまでできる人なら、その先のタレント仮説の設定まで自分でできてしまうので、システムに頼らなくても大丈夫、ということになってしまいます。
まあ、こういった状態は技術の発展段階につきものなので、あと5年くらいのうちにはそこまでやってくれるタレントマネジメントシステムが登場する気もしています。
以前相談を受けた汐留あたりのHR-TECH系某ベンチャーでは、指標を選びさえすれば、データの正規化と解析のところはやってくれる段階まできていたので、上記のロジックがわかっている人事データ分析のプロが参画すれば、割と早めに到達できるかもしれません。
可視化の準備がなかなか大変
実務的にタレントマネジメントシステムを活用するための最初のハードルは、データそのものの問題です。
人材を可視化するためには、採用時点や育成時点、活躍時点のそれぞれでどんなことをしたのか、どんな結果を出したのか、ということがわからなければいけません。
例えば採用時点でいえば、履歴書や職務経歴書に書かれているようなデータです。
育成時点は、学んだことそのものや、研修の際の評価などです。
活躍時点は、生み出した成果がメインですが、どんな人と一緒に働いていたのか、それらの人にどう思われていたのか、なども重要な要素として考えられます。
第一の問題は、これらのデータをきっちり保管している会社がほとんどない、ということです。
あったとしてもサイズの違う紙媒体で、一つ一つ手作業で入力しなければいけません。
だから多くの会社では、タレントマネジメントシステムを導入した時点からデータの入力を始めています。
経営層としては、それなりの金額を払っているのに「いつになったらタレントが可視化されて、抜擢ができるようになるんだ」と怒りそうなものですが、データが入っていないシステムに質問をしても答えてくれるわけではありません。
第二の問題は、それらがそろったとして、分析できる状態にするための手間がとても大きいということです。また、そもそもどんな風にすれば分析できるようになるのかもわからなかったりします。
本質的にはこちらの方が大きな問題でして、システム担当ではなく、統計処理がわかっている人をプロジェクトに入れないとなにをどうすればよいかもわかりません。可能なら、実務として定性データをもとにした統計処理で修羅場を見た人なんかがいいんですが、それこそそういった経歴が可視化されていないので、どこにいるかすらわからないことが大半です。
第二の問題をもう少し具体的に言うと、たとえば学歴をどう分析対象とするか、という問題などです。
学士、修士、博士、といった区分でよいのか、入学偏差値で区分するべきか、研究力についての大学ランキングで区分すべきか、などなど。
そんなことを検討していると、そもそも自社の社員たちを学歴で分類してみて、活躍している人材の特徴を分析して定義すべきではないか、というような卵と鶏どっちが先やねん的意見が出てきたりします。
結果として、分析のためにとにかくデータを正規化してりゃいい、ということで、学歴フラグ:四年制大卒未満=1、四年制大卒=2、修士卒=3、博士卒=4、ということにして、別途大学ランク区分を入れることを検討したりします。ちなみに大学ランク区分を本当に管理し始めたら、ものすごくバッシングされそうで怖いですね。内定辞退率データを売った会社への行政指導なんかを思い出します。
で、ここまでやっている会社がどれくらいあるか、それほど多くはなさそうです。
まあ私も、知っていても言うわけにはいかなかったりしますが。
タレントは配置して初めて活躍できる
さて、タレントマネジメントの目的は活躍して成果を出してもらうことなんですが、せっかくタレントを可視化したとしても、その先の準備をしていない会社が多いようです。
図1をあらためて見ていただくとわかりますが、人材を可視化した後は、その人を適切な部署に配置しなければいけません。
たとえば潜在的なマネジメント力が高い可能性がある若手営業社員を見つけたとして、そのまま営業をさせていたのでは、活躍できないからです。
で、何をすべきかというと、ちゃんとした権限を与えて、ストレッチした責任を負わせなければいけないのです。
人という生き物は、責任が軽すぎると怠けだすし、重すぎると過度のストレスに感じたりします。
また押し付けられただけの責任だと、自分事にはしません。
自分事にさせるためには、評価・報酬との紐付けが必要です。
その上で、特に抜擢された人は周囲の妬みや嫉妬を買うことになるので、失敗したとしても許容される前提を用意しなければいけません。
先ほどの若手営業社員の例でいえば、抜擢して課長に登用し課長としての給与を支払う一方、結果にコミットするモチベーションを求め、チャレンジさせなければいけないわけです。
今の評価・報酬制度はタレントマネジメントに耐えられるか
優秀人材の抜擢とか、埋もれた人材の発掘、とかいうとき、忘れられているのが、評価と報酬の問題です。
抜擢されるような埋もれた人材というのは、たいてい冷や飯を食っています。
良くても普通程度の評価しか受けていなくて、会社の中でも標準的な報酬を受け取るにとどまっています。
そういった人に新しい役割を与えサポートするとき、
「でも給与はそのままね」
「失敗したら君の責任ね」
「仮に成功したらS評価をつけるから頑張って(B評価に比べて昇給額が1万円多くて、賞与が30万円多い程度)」
ということを一緒に告げたとしたら、モチベーションを高めてくれるでしょうか。
しかし多くの会社の人事制度は、昇給や昇格に緩やかな階段しか設けていません。
その背景には、新卒採用から退職まで(時に退職後まで)続く年次管理と、中途採用者よりも新卒者を優遇する年功管理があります。
年次管理や年功管理が当たり前の組織では、仮に高い能力を期待されたり、成果を出したりしても、その階段を少し早く上るようになるだけです。
それは給与でせいぜい数万円の違いであり、賞与も多くても200万円までの違いでしょう。
それではせっかく発掘したタレントが活躍できません。
可視化の先の活躍のためのフェアな評価と報酬
では年次や年功管理が当たり前の会社は、どう変わればよいのでしょう。
最近増えつつある成功例ではいわゆる「ジョブ型雇用」の考えを取り入れています。
ジョブ型雇用というと、新卒一括採用からの脱却だとか、そもそも日本の労働市場が変化しない限り難しいという意見もあります。
ただ、大事なことは、年次・年功管理では優秀な人材の早期活躍を実現しづらいので、代替されるような人事インフラを志向することです。
だから全般的な雇用形態変更などではなく、まずはポスト管理的な発想の導入からでもかまいません。
これまで年次・年功で管理してきていた会社にいきなりジョブ型雇用といってもあぶれる人がたくさん出てしまうので、それぞれに期待する職務をはっきりさせることから初める会社も多いのです。
大事なことは会社の中に「これからは責任に応じた処遇に変わる」という意識を広めることです。
そうすることで、抜擢した成功者に対して、妬みではなく羨望が生まれます。
特に若い人たちの間に「自分も活躍したい」という思いが芽生え始めることになるのです。
また、高齢層においても、遅咲きや逆転出世を目指す人が出てきてもおかしくありません。
チャレンジングな社風、ストレッチする社風は、責任に応じた処遇によって生まれやすくなります。
タレントマネジメントシステムを導入された会社の皆さんは、責任・権限の与え方とともに、ぜひ評価・報酬制度のあり方についても考えてみてください。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
平康が経営している人事コンサルティングファーム、セレクションアンドバリエーションのホームページはこちら。
セレクションアンドバリエーションの人事コンサルティングについて
私が経営している、人事コンサルティングファームのセレクションアンドバリエーションについて質問を受けることが多いんですが、ホームページに記載している内容がわかりづらいっぽいので、そちらを修正する間、こちらに記載しておこうと思いました。
人事コンサルタントってどんなことをしてくれるの、と思う人もぜひ読んでみてください。
■ セレクションアンドバリエーションとはどういう会社なのか
● 人事コンサルタントってどんなことをしてくれるの?
一般的な人事コンサルタントは、企業の人事制度を設計します。
人事制度とは多くの場合4つのパーツに分かれます。
等級制度
1つ目は、会社が従業員に期待する成果や業務を具体化して示す等級制度です。
日本企業の多くでは、職能等級制度が活用されてきました。最近ではジョブ型人事として、職務等級制度が採用されることが増えています。
またそれらを併用する形での、ハイブリッド型等級制度が用いられた事例も多数あります。
評価制度
2つ目は、等級制度に基づき、期間ごとにより具体的に従業員への期待を示す評価制度です。
期待に対する達成度や貢献度などを確認して、報酬制度や教育制度に連携してゆきます。
目標管理制度(Management by objectives)やOKR(Objectives and Key Results)、コンピテンシー評価基準などが用いられることが一般的です。
最近では制度だけでなく、コミュニケーションを促進するための運用ツールとして活用されることが増えています。
その一例がフィードバック面談としての1on1の促進などです。
報酬制度
3つ目は、評価制度の運用結果として、従業員の給与をどのように変動させるかを定めた報酬制度です。
報酬としては月例給や毎年の賞与、インセンティブなどの形式に加えて、中長期でのインセンティブや退職金、福利厚生などを含みます。
変動する要素として、個人としての評価に加えて、組織としての業績を反映する場合もあります。
教育制度
4つめは、教育制度です。
実際の業務の中で人材育成を考えるOJT(On the job training)を体系化したり、業務を離れて実施するOff-JTなどを設計し、実践的に運用してゆきます。
最近では自発的学習を支援するための諸手当設計を行うことも増えています。
結論
このような制度を半年から2年くらいかけて設計し、運用を支援することが人事コンサルタントの仕事です。そして人事コンサルタントたちが集まっているのが、人事コンサルティングファームです。
● セレクションアンドバリエーションの人事コンサルティングの特徴は?
「従業員の自発的成長」を実現することがセレクションアンドバリエーションの人事コンサルティングのゴールです。
その結果として会社の収益性が向上し、対前年での売り上げが伸びてゆく状況に貢献します。
そのための私たちのコンサルティングの特徴は3点あります。
第一の特徴:早期実現
第一に、早期実現です。アジャイルなコンサルティングとも言えます。
一般的な人事マネジメント改革には2年以上を費やすことが多いのです。
たとえば最初の半年で社内の関係各所の意見を確認し、次の半年で改革の方向性を具体化します。
そして次の半年で制度を設計し、残る半年で再度関係各所の調整を行ったりします。
この場合、新しい仕組みの納得性を高めるために時間をかけることで、導入はスムーズにできます。
しかし一方で、仕組みが本当に機能するかどうかがわかりづらくなります。
またその間に大きな環境変化が生じた場合には、また一からやり直す必要性すらでてきます。
しかし私たちの実績では、小企業(従業員100名以下)で最短3か月、中堅企業(従業員数百名程度)で最短6か月、大企業(従業員数千人規模)で1年での制度導入と報酬改定を実現してきました。
そのためのポイントは、まず経営サイドでの意思を明確に固めるための初動をしっかり行うことです。
またプロジェクトメンバーに利害関係者を含めることで検討と調整とを一体化させます。
そして明確に優先順位付けした対応策を推進することです。
それらのポイントをしっかり押さえることで、人事改革を早期に実現してきました。
第二の特徴:具体的根拠
第二に、変革の具体的根拠を示していることが私たちのコンサルティングの特徴です。
そのためにアンケートや過去の評価履歴、給与支払い実績などを統計的に処理し、何が本質的なイシューなのかを特定します。
従業員の期待と満足度をマトリクスで確認するエンゲージメント調査、経営幹部や管理職の行動実態を把握する多面的マネジメントサーベイ、各種人事情報の動態調査などにより、エビデンス(具体的根拠)に基づいた変革を推進します。
第三の特徴:変革の徹底
第三に、変革のための徹底です。
私たちは人事制度を変える際に、教育の変革についても言及します。
そして実際に教育が運用された結果としての、抜擢や昇進昇格、異動判断なども総合的にご支援します。
結果を出し、成長した人が社内のヒーローとなり、次の世代に勇気を与えていくためには、実際に彼らが報いられることが重要なのです。
結論
私たちはこれら3つの特徴=早期実現、具体的根拠、徹底を踏まえたコンサルティングを行っています。
● どんな会社を支援しているの?
セレクションアンドバリエーションのクライアントは、従業員数千人規模の大企業から、中堅企業、小企業まで様々です。
そこで共通するのは、ビジネスのイノベーションやチャレンジの実現を、人事マネジメント改革の目的とされている点です。
成長が一段落して安定した業績が実現できているけれど再度成長を目指されたい大企業や、事業承継に伴うビジネスモデルの変革を目指されたい企業、急成長中のベンチャー企業など「成長」が私たちのコンサルティングの重要なキーワードとなっています。
実際のコンサルティングでは、企業規模や事業ステージにあわせた柔軟なコンサルティングを行っていますので、ぜひお気軽にご相談ください。
■ コンサルティングの依頼はこちらから
平康慶浩(ひらやすよしひろ)