あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

ジョブ型人事導入講座3:ジョブ型人事は年功序列からリアルタイム制への転換です

 

 

ジョブ型人事の本質は労働市場とのタイムリーな関係性構築

メンバーシップ型人事の本質は年次管理と年功序列だと、前回書きました。


では、ジョブ型人事の本質はどんなものなのでしょう。

今回は採用から退職までのフレームで示したうえで、フレームを構成する要素ごとに違いを説明してゆきます。

 

まず全体像は以下のように描くことができます。

ジョブ型人事のフレームワーク

ジョブ型人事のフレームワーク

ここではあえて「職務等級」という単語を使わず「リアルタイム等級」としています。

前回示したメンバーシップ型人事のフレームワークで「職能等級」と書かず「年功序列等級」と書いたことと対比させています。

その理由は、実は職能等級制度のままでも、ジョブ型運用は可能だからです。

年功序列的運用を排除し、リアルタイムな運用にできれば。

 

そもそも職能型等級の軸となる職務能力というものは「職務に必要な能力」なので、職務に応じた能力を見極められるのなら、職務等級と同様に考えることができます。

理論的には職能等級でも職務等級と同じような運用は可能です。

けれども、2つの理由でそれは難しかったようです。

 

職能等級型が年功運用の代名詞になってしまった2つの理由

職能等級が年功運用になってしまった理由、人間心理の問題と、時代背景でした。

 

人間心理としては、目に見えない能力を評価するために、過去の実績や年功を見てしまったからです。

その人の能力を担保するには、過去に能力を発揮した実績を確認したり、あるいは一定年数を経ることで成長するだろうという推測などが用いられたりしました。

 

そして時代背景として、長幼の序が重視される社会風土がまだ強かったから。

職種によっては、若い人の方が年寄りも活躍できる場合があります。いや、むしろ、年寄りが活躍できる職種の方が限定されている、と考えた方がよいでしょう(だから年を取るにつれ、人は自分が成果を生み出しやすい職種に異動するか、衰えにあわせて報酬が減ることを許容しなくてはいけなくなります)。

けれども、戸主制から核家族化へ移行しつつあったとはいえ、年長者に対する礼儀が求められる風潮が強く残っていました。男性中心社会でもありました。

 

これらの理由から、職能等級制度は年功序列運用による等級として活用されました。

そしてそれは当時の環境にマッチしていたのです。

 

けれども今その環境が変わっています。

 

 

ジョブ型人事が生きる4つの環境変化

ジョブ型人事の本質は、リアルタイムな人事処遇にあります。

かつて会計制度が簿価会計から時価会計に切り替わってきたように、人事においても、時価が重要になっています。

 

人事についての時価算出が人的資本の情報開示ですが、その方法についてはこちらの月刊人事マネジメントに掲載したこちらの記事もご覧ください

「人的資本情報開示~企業価値を高める11の人事戦略要素とKPIを押さえよう~」

 

では、どのような環境変化によって、リアルタイムな人事処遇が必要になったのでしょう。

ポイントは4つあります。

人口増減、学習サイクル、ライフスタイル、ワークスタイルの変化がそれらです。

本来はワークスタイルについての変化はもう少しゆるやかでした。けれども、ウィルスのパンデミックが一気に状況を変えて、3つの変化が4つになりました。

この中で、特に前半2つ、人口増減と学習サイクルがジョブ型人事のニーズを高めています。

ジョブ型人事が生きる4つの環境変化

ジョブ型人事が生きる4つの環境変化

 

人口減少社会では生産性の引き下げ圧力が強まる

GDPの成長は、実は人口ボーナスでほぼ説明できる、とする分析もあります。

とはいえ、科学技術の発展がそれを補う場合もあるので、少々乱暴な分析だなぁ、とは思うのですが。

ただ、人口が減るとともに少子高齢化が進むことは、確実にGDPの引き上げ要因になります。

社会全体の負担(オーナス)になっていきます。

人口ボーナス期には、目の前の仕事を頑張って、昨日と同じことをずっと繰り返すだけでも、経済が成長していきやすいのです。

しかし人口オーナス期には、昨日と同じことをやっていては経済が衰退していきやすくなります。

そこで、改善や新規の取り組みが求められてきます。

日本社会の失われた30年というのは、「目の前の仕事を頑張る」ことから「改善とか新規の取り組み」に仕事の内容をシフトできなかったことによる結果とも言えます。

 

だからこそ、生産性向上が必要であり、そのための職務責任の明確化が必要、ということになります。

 

このことは、経験と学習との関係性が変わっていることにもつながってゆきます。

 

新しい技術や知見を使いこなす人・組織が勝つように

技術の進歩がゆっくりしている時代には、過去の経験を生かすことが勝つための方法でした。

けれども近年、様々な技術や知見が更新されています。

IT技術生命科学などの科学技術に加え、行動科学や経営学などの社会科学分野での知見も過去類を見ない勢いで発展しています。

だからこそ、過去の経験より、タイムリーな学び直しが重要になっています。

学びなおさなくても急に生産性が低くなるわけではありません。

けれども人口オーナス社会における引き下げ圧力に加え、学び直している人や組織が成長するので、相対的に負けてしまうことになるわけです。

 

では日本企業におけるジョブ型人事はどのように導入すべきでしょう。

次回は弊社実績をもとに、3つのパターンをご紹介します。

 

※当記事はセレクションアンドバリエーションの平康慶浩が不定期に連載しているものです。続きは次回更新をお待ちください。

 

sele-vari.co.jp

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令和になぜ「ゆるブラック企業」がクローズアップされるのか

 

「ゆるブラック企業」ってどんな会社

複数のところから「ゆるブラック企業」についてのコラム執筆依頼が来て、先ほど書き終えました。

で、執筆のためにいろいろと調べる中で、ぶっちゃけたこととかも書きたくなったんですが、依頼いただいたところがかっちりした会社さんだったのでそこに書くわけにもいかず、自分のブログに書いてみようと思いました。

 

なお、ゆるブラック企業という言葉の定義については「疲れないけれど成長もしない企業」としています。

ゆるブラックという言葉を最初に使い始めたのは、openwork(当時はvorkers)のようです。2019年ですね。

 

「残業はないが成長もない。“ゆるブラック企業”を見える化する」

https://www.vorkers.com/hatarakigai/research_4

 

2021年末に日経ビジネスで特集されたことで、改めてクローズアップされました。

「“いい会社”に入ったのに何か変…その会社、「ゆるブラック」です」

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00342/102900007/

 

不思議に思ったのは、成長しないことがブラックだとする定義です。

いや、ゆるい環境で、のんびりとずっと同じ仕事をしたい人って一定割合いるんじゃないの? そういう人たちの職場環境を「ゆるブラック」って言っていいの? と思ったのがぶっちゃけ話を書こうと思ったきっかけです。

 

最初に改善されたのはブラック企業

失われた30年と言われる中で社会全体が停滞する中、体育会系指導や男尊女卑、長幼の序によるハラスメントなどが度々問題視されました。

そこで理想的に語られたのは、良い人間関係の中で自分らしく働ける職場環境でした。

愛社精神に基づくメンバーシップ型企業戦士だけが良しとされた生活から、プライベートとのバランスをとった生活こそがあたりまえ、だと言われ、ワークライフバランスという言葉が頻繁に語られるようになりました。

 

そこでやり玉にあげられたのは、社員の人権を無視した働かせ方が横行する「ブラック企業」でした。

 

 長時間労働

 休めない

 ハラスメントがひどい

  などなど

 

ブラック企業大賞も発表されるなど、働き方、働かせ方への監視の目が強まっていきました。

残業代や有給休暇取得に関する各種法令も改善され、多くの企業で働き方は大きく改善したのではないでしょうか。

 

しかしブラックと言われる会社の中でも、その状況に満足している人たちがいる、ということも見えてきました。

 

バランスとアズライフの二極だった平成日本

最初にご紹介したopenworkの口コミ調査でも、ハードワークとしての修羅場経験が自分の成長につながったという意見などを紹介しています。

業界としてはコンサルティングやマスコミなど。

 

長時間労働で休めないしハラスメントもあるけれど、若いうちはそのような状況を我慢してでも、大きく成長したい、という人たちが一部にいました。

そのような状況を肯定する言葉として、ワークアズライフという言葉が語られるようになりました。

 

ある意味、メンバーシップ型の働き方の言い換えかも知れません。

違う点があるとすれば、メンバーシップ型が会社を主語とした働き方であるのに対し、ワークアズライフの主語は自分自身です。

会社に依存するのではなく、ワークとライフを融合させることで、どんな場所でも生きて行けるという自信を含んだ言葉のように思います。

 

そうして平成が終わるころには、ブラック企業はダメで、ワークライフバランスかワークアズライフのどちらかを選択すべきだ、という見解が増えていきました。

 

ブラック企業とワークアズライフの違い

ブラック企業とワークアズライフ、それらをあえて区分するなら、そこにある違いは疲れの質ではないでしょうか。

ブラック企業はつらい疲れ、ワークアズライフは楽しい疲れ、と言えそうです。

 

一方で、ワークアズライフを会社側が強制する例も増えてきました。

ハードワークなんだけれども、そこにやりがいがあれば大丈夫だよね、という理屈で、残業代を払わないことについての言い逃れなどがある会社です。

このような会社について、たしかに楽しい疲れなんだけれど、それはやりがいでごまかすやりがい詐欺ですよね、ということなどが言われてきました。

これらを平成日本のキャリアフレームとして図示してみましょう。

平成日本のキャリアフレーム

平成日本のキャリアフレーム

 

しかし令和をむかえて今、ゆるブラック企業という言葉が語られるよになってきました。

それはフレームの左下、疲れないけれど成長がない、というキャリアのクローズアップです。でも、そこのキャリアを選ぶことで、ワークライフバランスが取れるのならそれでよかったのではないでしょうか。

 

なぜあらためて成長しないことがブラックだと言われるようになったのでしょう。

 

 

高齢化やインフレなどの将来不安が積もってゆく

そのきっかけは、ゆっくりとした将来不安ではないか、と仮説を置いています。

以下のようなキーワードが積もり積もって、私たちは、将来の自分の生活を自分で何とかしなくてはいけない、と思い始めています。

 

 高齢化

 少子化

 消費税増税

 残業削減≒残業代削減

 定年延長

 人生100年時代

 年金不安

 老後の2000万円問題

 希望格差

 コロナショック

 インフレ

 広がる格差

 ソロ社会

 老々介護

 無理ゲー人生

 ジョブ型人事

 

日本に住む私たちは、災害などの変化に対し、台風のような一過性のものを想定しがちです。

ずっと続く恒常的な変化に対しては、どのように備えるべきか、あまりわかっていないもかもしれません。

そして今来ようとしている変化は、数年間耐えれば何とかなるようなものではなさそうだ、ということがじわじわと実感されてきたのではないでしょうか。

 

だとすると、少なくとも働きやすさだけでなく、将来給与が増えるとか、目の前の安定だけでなく、継続する安心を求める人が増えているのかもしれません。

その結果、令和日本のキャリアフレームはこのように変わっています。

令和日本のキャリアフレーム

令和日本のキャリアフレーム

 

だとすると、私たちが考えるべきは「成長」ということになりそうです。

ブラック企業とワークアズライフとの違いは、相性の問題です。

しかし成長できるかできないかは、自分自身との相性ではなく、どの業界、どの会社をで働くか、という問題となります。

 

これからの私たちは、成長環境を獲得するための椅子取りゲームを続けることになるのかもしれません。

 

経営者は成長の椅子を増やさなくてはならない

このような状況を変えてゆくためにできることはなんでしょう。

一人一人が成長できる椅子を増やすためにできることは、経営者が、企業の成長と個人の成長を実現してゆくための取り組みを続けることです。

ビジョンを持ち、戦略として示し、計画として具体化し、一人一人に役割を与えてゆく。

成長を志向する企業経営こそが、将来不安を乗り越えてゆくための処方箋だと考えます。

 

ただ、成長を目指そうとしても、そのために何をすべきかがわからない。試しているけれどなかなか実を結ばない、という状況があることも事実です。

 

 

人事コンサルタントは成長の椅子を増やす仕事

だからこそ、私は人事コンサルタントという仕事がより重要になってくると考えています。

 

成長できる業界や職場が少ないと、足りない椅子を奪い合うことになってしまいます。

しかし、椅子を増やすことができれば、奪い合いは発生しません。

また、今働いている場所を、成長できる場所に変えることができれば、何も別の場所に行かなくてもよいのです。

 

組織の成長と、一人一人の成長をつないでいく仕組みこそが、人事制度と運用、そして教育です。

それらを作り上げていく、人事コンサルタントという仕事によって、社会や企業、一人一人の生活をよりよくしてゆける、と感じています。

企業と人の成長を支えるセレクションアンドバリエーション

企業と人の成長を支えるセレクションアンドバリエーション

 

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

 

 

会社のホームページをちょっとずつ改善しています。

よろしかったら見てね。

www.sele-vari.co.jp