年収が市場価値で決まり始めると人事評価の意味が減ってゆく
2015年の夏頃から、名だたる欧米の企業で年次業績評価制度を廃止した、という報道がされている。
僕が昔在籍していたアクセンチュアもその中に含まれているので、実際にどんな改革を進めたのかを聞いてみたりもした。
また、他の会社での改革についての調査もしてみた。
結論としては「廃止した」というよりは「改革した」というのが正しい。
そして、改革の方向性は単一ではないようだ。
おそらく守秘義務が含まれる領域もあるので、ここであえて詳細は記さないが、先頭の記事で公開されているIBMの例で言えば、これはそれほど大した話ではない。
要約すれば、これまでは年次目標の達成度で評価していたけれど、これからは以下の5つの評価指標で評価しますよ、ということ。
具体的には以下の5つらしい。
1)ビジネスの成果:これは今までと同様
2)顧客の成功へのインパクト:測定できる顧客満足度指標、といったところか
3)イノベーション:IBMらしいが、どうやって測るのかが興味深い
4)周囲に対する個人的責任:日本企業だったらきっとチームワークとかいうだろう
5)スキル:自律的成長、と言い換えられるかもしれない
この指標が抽出された経緯は、おそらくだけれど、バランスドスコアカードのような、業績指標間の因果関係の分析に基づくだろう。
つまり結果だけを評価するのではなく、その先行指標も評価しましょう、ということ。
そして年次評価ではなく、少なくとも四半期ごとに評価するので、タイムリーさも兼ね備えましょう、ということになる。
ここに示したIBMの改革は、単純な数値評価だけじゃなくて、先行指標についての評価を個人の人事評価にあてはめたというものだ。だから特段珍しいものではない。
より重要なことは、十把一絡げで語られている変革の中に、本質的なものが含まれていることだ。
それはたとえばこういうことだ。
1)その人に支払う年収は、その人を再度市場で手に入れるためにいくら支払わなければいけないかで決める
2)業績評価どころか人事評価をしない。なぜなら、その人が会社にとって必要だから。それはつまり、失敗しても給与を下げないということ。
3)短期の成功じゃなくて中長期の成功に対する支払いをする。それは資本を与えることであり、株式の割り当てなどの形式をとる。
つまり、市場で価値のある人材=それも年収で言えば少なくとも数千万円以上の年収の人たちについては、雇われる人、という扱いではなく、経営層の一人であったり、あるいは経営資源の一部という扱いに変わるということだ。
市場で価値のある人材は、人そのものが重要な資産に変わるということでもある。
重要な資産である人材は、短期のアウトプットで評価されなくなるということだ。
そして人事評価は、短期的に活躍してほしい人たち向けの仕組みに集約されていく。
これまでも人事の世界には「組織として使う人」と「組織に使われる人」、という区分があった。
これに加えてじわじわと、「組織と対等な人」という区分が生まれているように思う。
組織が持っているのと同じような資本を自分の中に蓄積しているタイプの人材だ。
その価値は労働市場で、希少性とニーズによって評価されることになる。
僕たちがこれから目指すのなら、そういう人材になることを目指す方が面白いのではないだろうか。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
ファンにする経営が必要な時代(セミナーの紹介)
今年(2016年)の夏にかけて、経営層向けの限定セミナーの開催を計画している。
最初は本にしようと思っていたのだけれど、内容的にターゲットがそれほど多くはないだろう、と考えたためだ。
詳細は後日告知するけれど、概要は以下のようなもの。
興味のある人は、弊社(info@sele-vari.co.jp)まで連絡しておいていただければ、開催日時が決定次第ご連絡させていただく。
それはこんな内容だ。
=======================================
トップクラス人材の働き方が変わっている。
彼らにとってはもはや働くことは稼ぐことではなくなりつつあるからだ。
彼らは自分自身の価値を人的資本、社会関係資本として高めている。その資本を、職務の場でビジネスの価値として変換し、その結果としての利益を享受するようになっている。
そのようなトップクラスの人材をひきつけ、活躍してもらうために、会社はどのような人材マネジメントを行うべきだろう。
伝統的な手法は、将来にわたって雇用を保証し、キャリアアップの機会を与え、インセンティブを付与しながら、教育を実施してゆく、というものだった。
しかしそれらの手法は、広く存在する中間層人材に対して有効だが、トップクラス人材には不十分だ。そこには明確な特異性を踏まえた人材マネジメントがなくてはならない。
従業員という漠然としたくくりではなく、ダイバーシティやキャリアアンカーを踏まえた一人一人の従業員との関係性を構築する。友好的であり長期的であり厳選された対話と共有によって、彼らを企業とビジネスのファンにすることがその答えだ。
一方でむやみな個別対応はコストの増大を招くので現実的ではない。
必要なことは、個別最適でありながらも高すぎるコストを支払わない方法だ。その答えが対話と共有による関係性構築であり、「ファン・マネジメント」だと言える。
【ファン・マネジメントセミナーの構成】
トップクラスの人材マネジメントはどう変化するのか
- 働き方と稼ぎ方はこれからどう変わるのか
自分自身を経営するトップクラス人材
企業よりも大きな付加価値を持つ個人たち
トップクラス人材にとっては働く=稼ぐではない
人材の希少性はスキル+ネットワーク - 職務と雇用とはこれからどう変わるのか
AIとクラウドが普遍性と限定性を二極化する
知的職務と共感職務に集約される仕事
長期保証が逆選択になる雇用
マス契約から個別契約へ - インセンティブはどう変わるのか
報酬の本質はリスクテイク主体の違い
被雇用をリスクと感じる自立した人材への対応
増減よりも絶対水準が求められる
後払い・積立型は長期雇用にしか向かない
関係構築へ移行する人材マネジメント
- 全体像
そこにポリシーはあるか
自由・活躍の場・進化・快適さという基本
組織ありきで要素を考える - 職務設定=配置・昇進・異動
離退職の自由
活躍と成長の場の提供
マッチングのための対話
共有によるコミュニティ創出 - 融資/出資/投資家との対話と共有
情報開示の基本方針
開示情報の範囲とレベル
融資/出資/投資別の対話
経営構造の変革
- ファン・マネジメントのためのガバナンス
責任権限のあり方
監視構造
資本部という試案 - ファン・マネジメントのための組織構造
- ファン・マネジメントのための人事制度
MBOからIOM(Interactive Objectives Management)へ
平康慶浩(ひらやすよしひろ)