あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

善悪の呪縛を乗り越えるには、強くなるしかない

経営者と近い位置で働くと、辛いことも多いけれど、学ぶことも多い。

そんな話を、前回と今回とで、日経スタイルに書いた。

style.nikkei.com

 

考えてみれば、今48才の僕が学生だった頃は、良い学校を出て、就職活動を頑張って大企業とかの安定した会社に入ろうとすることがあたりまえだった

最初に入った会社で辛いことがあっても、しっかりと頑張れば誰かが見ていてくれる。

人事は天命、という言葉すらあったくらいだ。

それだけ、会社というコミュニティは当然のものだった。

 

けれども今となっては、それらが幻想だったことがわかる。

会社は従業員を守るため「だけ」の器じゃないし、経営者は従業員のために「だけ」経営をしているわけじゃない。

従業員を弱者とするなら、弱者の立場ではそれらは善悪の悪になるのかもしれない。

けれども、経営とは善悪ではなく、理と情とのはざまにある。

そして、善悪の判断軸を乗り越えて、理と情を学ぶには、経営に携わるしかない。

経営を学ぶには、経営をするしかないのだ。

 

だとすれば、経営をせずに、経営者に近い位置で活躍できる働き方とは、とても有意義なものではないだろうか。

 

そしてその働き方を選ぶためには、強くならなくてはいけない。

弱いままでいる限り、善悪でしかものを考えられないからだ。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

 

 

 

やっぱり割を食ってるのは2000年卒の社会人たちだった

日経スタイルの連載用に、いろいろと統計データをいじっていて、若者の昇給に興味を持った。

というのも、実際に最近設計している人事制度で、20代の若者の昇給額が少なすぎるんじゃないか、という議論もあったからだ。

 

日経スタイルの更新記事はこちら。

style.nikkei.com

 

 

で、10年次ごとに「初任給に対する昇給率」のグラフを作って掲載したわけだけれど、このグラフは別の見方もできる。

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※いろんな統計データ(主に厚生労働省)をもとにセレクションアンドバリエーション作成 

 

1980年入社の方々は圧倒的だ。

2017年現在59才のこの方々の平均初任給は114,500円だった。そして30才になる頃には、「平均的に」203,000円の給与になっていた。59才の現在では、約397,000円。

1980年入社の方々は現在、新入社員のときの約3.5倍の給与を受け取って生活していることになる

彼らが30才になったのは1988年。ソ連ではゴルバチョフによるペレストロイカが始まり、アメリカではレーガノミクスが進んでいた。そして日本では、バブル景気まっただなかだった。

 

1990年入社の方々もなかなかだ。2017年現在は49才。

初任給は169,900円が平均で、30才時点では248,500円になっていた。比率は1.46倍。

49才現在の平均給与は約336,000円。新入社員時点のおよそ2倍を受け取っている。

彼らが30才になったのは1998年。長野で冬季オリンピックが開かれ、日本初の火星探査機「のぞみ」がうちあげられた。

タイタニックのポーズが世間をにぎわせ、ポケモンではミュウツーが逆襲していた。

しかし日本経済は、ここから停滞を始めている。

 

2000年入社の方々は現在39才。1978年に生まれた世代がこれにあたる。

初任給は196,900円。しかし30才の給与は平均で233,000円と、1990年入社世代よりも少額になってしまっている。比率はわずか1.18倍まで落ちた。

彼らが30才になったのは2008年。つい最近に思えるが、もう9年も前だ。

アメリカでは初の黒人大統領が生まれたが、日本ではなにがあったっけ?

そういえばwikipediaによれば、「日本の海洋研究開発機構とロシア科学アカデミーの研究により、シベリア東部の永久凍土地帯の地温が約3度上昇し、2004年以来夏季に永久凍土表層の融解が急速に進行していることが判明」とある。

今進んでいるシベリアの巨大な穴も、このあたりがきっかけなのかもしれない。

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/030600080/?SS=imgview&FD=-787263934

そして彼らが39才で受け取っている給与の平均は273,000円。

2000年入社の人たちは、働き始めて17年間で、給与は1.4倍になっただけだ。 

 

2010年入社の方々は現時点でまだ30才にはなっていない。ちなみに初任給平均データは200,300円とあがっている。2017年時点の28才給与は232,000円と、2000年入社の方々のときとそれほど変わらないようだ。

 

そうしてみれば、やはり一番割を食ってきたのは2000年入社の世代だということがわかる。

 

その理由にはいろいろあるけれど、僕が考える最大の原因は、若手の給与を増やさなくても、次の若手を雇えばそれですんでしまう、という点だ。だから20代の給与を増やさない。

 

このことは、有名大企業の中からはほとんど見えない。

しかし、大多数を占める中堅・中小企業を見ていると、とにかく20代の給与を増やさない会社が多いことがわかる。せいぜい平均して毎年5000円昇給させればよい方だ。

 

なぜそうなるのかといえば、本質的には、経営者が甘えているから。

経営が大変だから給与を増やせません、ということは甘えでしかない。

 

ここ数年、若手の売り手市場ということが言われている。

だからこそ、これを機会に中堅・中小企業各社は本当に、企業を成長させ、従業員の給与を増やすことを考えなければいけない。そのためには、まず若手の給与をしっかり昇給させなければいけない。せめて将来に夢が持てるくらいには。

 

それができない企業は、残念だけれど淘汰されてしまうだろう。

具体的には、ちょうど今の社長が退任せざるを得ないくらいのタイミングで。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)